作者別花筵百首題 写歌

     雑

降りしきる雪を堪らふる松が枝のときはからひて払ふ雄々しさ

万緑の外山にけざやぎ一叢の黄金靡ける竹の秋かな

あらたしき狭庭の石も苔生して吾とここにぞ三十(みそ)(とせ)古るる

茜さす磯廻の庭に(いを)の飛ぶ影閃きぬ秋の夕暮れ

再びの呼ぶ声に覚め老い犬は日向にいできぬ冬庭の朝

地の極み虚空に迫る群山のヒマラヤ襞のかげ神さびつ

せせらぎの果てに海原はるけくもいづこ限りぞ流るるあが日

もえつきて末黒(すぐろ)の野辺のわが身にも角ぐむ春のまたもあらめや

わびぬれて空ながむれば虹の橋君が住む辺に渡り入るなり

もののふの歌碑の背向に伊豆の(くが)黒く浮かびて冬の海光る

雁が音を聞けば旅居の夫恋しはつかばかりの玉章もなく

(「かきつばた」折句)

名所

大峰の山遠ければ明日川を越えても行き見ずみ吉野の里

終とならぬ別れはあらぬものなれど知らに別るる人のかなしさ

()めきたる歌集を市にあがなひて釣りの硬貨の(たなうら)に温し

田園

早苗葉のあえかにさやぐ峡小田を統べて豊けし越の山影

たらちねの母()熊野(ゆや)のあはれなり堰き敢ふる涙や村雨のふる

懐旧

浮彫の朝貢の絵のなほしるく雑草(あらくさ)の陰に栄華語れり

夢に酔ひゆふべはかけし世の中もあかとき覚むればあした露けし

無常

散る花はまた来る春をした待てどふりゆくわが身なにかた待たむ

述懐

若き日に老いがこぼせし言の葉の露さはに染むわが身となれり

     雑


公開日:平成22年09月24日
最終更新日:平成22年09月26日

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