作者別花筵百首題 写歌

  秋   

早秋

由比ヶ浜(こぼ)つ仮屋の狭間(さま)に見ゆる沖辺の庭は早や秋の色

残暑

狭庭べのほのぼの白し夕顔に暑き真昼の余波忘るる

朝顔

釣瓶なきわが()の庭の朝顔は窓辺隠して夏の日とりぬ

草の葉の露を思はず明け暮れて六十路に露の繁く消ゆみる

いとかなし夜にやあらむ萩の花しとどに濡れてさはに零れり

草花

先を見ず退きてぞ通ふ 集会堂 吾も斯うして小身萎へしかな

(作者注:「水引き」「荷葉(かよう)」「秋海棠」「吾亦紅」「女郎花」と5種の草花を詠み込み、「先」を「咲き」と掛け、縁語としました。)

秋鳥

しろがねの勾玉あゆぐ様なして月のみぐしを雁渡りゆく

後朝のつらき別れに明けゆくに人目忍ばすけさの霧かな

そびやげる大廈のひまに方形の夜空のありて月渡りゆく

道のべの尾花がしたゆ思ひ草薄き思ひのわれならなくに

すだく虫さとに鳴きやみ君かもと妻戸に立てば風の訪ひ過ぐ

秋夕

たまゆらに光りて失せし入り海の浜にいろへる秋の夕影

秋果実

方代が残せし柿の実枝にあり鳥も飽き満ち冬がきぬらむ

(作者注:本歌は「柿の木に礼をつくして柿の実を梢に三粒捥ぎ残したり」 山崎方代)

秋天象

木枯しの一夜に銀杏は葉を落とし裸木あさの蒼穹に顕つ

秋田

秋の田の刈り穂のいとど露にぬれ君が行幸を待ちわびにけり

秋雨

唐松の木間もる秋日にきらきらと細葉(ささは)舞ひ散り時雨るがに降る

夜寒

片敷きの袖に月影宿らせし夜寒の朝は露もしとどに

菊の弁の盞に浮かべて酌む宵は大宮人の心地こそすれ

紅葉

手向けにし紅葉の錦散りぼはば帰へさに一葉家苞にせむ

暮秋

散りのこる柞の下葉いろなづみ冬隣るらむ山は黙しぬ

  秋   


公開日:平成22年09月24日
最終更新日:平成22年09月26日

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