作者別花筵百首題 海松純

     雑

霜ののち雪のうちには更なるに春秋問はぬ松の千年よ

をちこちの竹の端山に吹き合へる秋風の音篠笛の声

仙人の庵のけはひも知らるかし八重八重続く苔のきざはし

大空は青き鱗の鰯雲今日はあまたの漁りなるべし

闇に鳴る猿の渡りの木々の声影こそ見えね神さぶる杜

片付けばなほとほしろき丈姿月より高くそびく山の端

空蝉の同じ我が身と水無瀬川浅瀬の水脈にうつるもみぢ葉

色うつる鶉衣に露落ちて心は上の深草の空

年を経て逢ひ見し星の涙かな霜おきまよふかささぎの橋

大風に夏のわたつみ波立てていかづち遠くあふぐ浜松

思ひやれ宿より宿に移る身の幾夜眺めし旅の日の月

名所

杉の葉も行き交ふ人もかすみつつ雪降り巡る逢坂の関

峰々の遠き別れの慰みにいづこも同じ月もものかは

さびしくも暮れゆく年の慰みや雪よりしるき市人の声

田園

千町田やなべて嬉しきなりはひに鍬打ち返すをちこちの音

舞ふ袖も風に鳴り合ふ琴の緒のながき夜も飽かぬ巫女神楽かな

懐旧

書きすさぶ言の葉種もえも捨てず是を見むのちの昔語りに

春の夜に袖を返して夢見草うつつに逢ふは花ばかりなり

無常

昨日まで目前(まさか)の色と光りしを今宵の空ぞ蛍むなしき

述懐

花も人も塵の末だに捨てがたし明日は限りの我を思へば

     雑


公開日:平成22年9月21日
最終更新日:平成22年9月21日

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