作者別花筵百首題 海松純

 夏    

首夏

(もたひ)より酌み分けそめし盃の面にうつろふ階の薔薇

五月雨

幾返りこのすぢごとのさみだれをわけてもやまぬこひぢをぞゆく

紫陽花

夏衣ひとへにかはる月影をいくへに増すやあぢさゐの花

時鳥

夜をこめて待つより先に時鳥幾たび我と聞くや忍び音

夏花

紫の深きゆかりのうれしさに花の面さへ色づきて見ゆ

夏草

夏の野は茂き草葉のなかなかに花ごと色ををしまするかな

かがよひしかづらの影をかれゆきて空に玉まく蛍火の果て

夏虫

かはひらこ引きやるからに白妙の袖のはだけのけはひよそほひ

夏夜

風も涼し真砂の数に散りまがふ月の光は夏の夜の霜

炎暑

玉響の歩みをとむる木陰だに葉の間を貫きて敷ける日盛り

水辺夏

夏山のみどりに茂き川深く揺れつつ潜く月ぞ涼しき

忽ちに蝉の羽をゆく照り雨の音をばよそに繁きもろ声

夕立

神ごめに落つる白玉数知らず八重の簾の夕立の空

納涼

雨やみて涼みに窓を開くるより外面に同じ風の内方

晩夏

今日明日の薄き衣の形見とて身に染むほどは吹かぬ涼風

 夏    


公開日:平成22年9月21日
最終更新日:平成22年9月21日

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