作者別花筵百首題 海松純

   冬  

初冬

昨日までひぢ踏む音の朝戸出に氷は薄くくだけそめつつ

落葉

褪せぬまに色をば衣にうつさなん赤黄青なる道の朽葉は

寒草

花までの庭の日数を憂ふとも白む草葉の冬のあけぼの

小春

風の上ににほはぬ梅もありやとて見えし梢は小春なりけり

何冬を咲かぬ折りとぞ思ひけむ落葉も霜の花に薫れり

水鳥

さとはやき足音あまたの浜千鳥真砂の路に揺るぐ夕影

木枯らしも跳ぬる道辺の夕氷映れる月の影も揺るがず

冬星

月にだに色なずらふるよしもなしひとりにほへる冬の長庚

色もなき心の空の果たてよりとはれぬ袖をすべる白雪

冬花

おしなべて散るやはあらぬ寒椿ひと弁ごとにはなほ惜しければ

寒樹

もみぢ葉に色をかこちし月影も梢に細き冬木立かな

暖房

なかなかに春の香こめて吹く風に消ゆる消えぬをまよふ埋み火

冬山

風過ぐる梢のひまに星見えて光さびしき冬の山道

歳暮

年ごとに鏡の影はうつれどもさてこそ深き大晦日かな

待春

咲かばまた疾しと惜しまむ同じくは春待つ心冬に尽くさむ

   冬  


公開日:平成22年9月21日
最終更新日:平成22年9月21日

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