作者別花筵百首題 海松純

  秋   

早秋

昼はなほ露も扇も置かねどもまづ夜に知る秋の初風

残暑

秋立つもしばしひとへの衣手にうち重ぬるは扇ぐ音の数

朝顔

久方の色をうばひて咲くなれや月とかたみに白き槿(あさがほ)

秋天象

いかにせむ雨夜の星のあやにくに明日とも見えぬつまの灯

秋は来ぬ葉末も袖もまがへつつ月の光を散らす下露

さ牡鹿のなく音も遠き萩の末野辺のこなたや風のしがらみ

草花

女郎花よそにおほかる野辺よりはひともと立てる庭を眺めむ

秋鳥

おきまよふ黄なる涙に身をつくし木々に袖振り鳴ける鶸かな

空見ても心に曇る月の影冴ゆる枕に秋を知るかな

旅の空月に重なる花すすき幾袖かけて光る露かな

(くさ)に鳴くやこほろぎ下草の露揺るさまも色ぞ豊けき

秋夕

もみぢ葉も露もむなしと見遣るとも空も色添ふ秋の夕暮

秋果実

わらはべが過ぐれば消ゆる栗の実を道におぎなふ木々のくるめき

秋田

穂の数の吉事頻かなむ稲莚みながら刈るは冥加なけれど

秋雨

かたときは春の朧に立ち寄りてさすがくもりも果てぬ霧雨

秋霧やいづれか()しき吾妹なる汝を漏り来る衣打つ音の

夜寒

秋の実は梢の風になれぬらん我が身夜寒の床に和ぎぬも

菊の花色々咲けばをりふしの空より寄れる月かとぞ見る

紅葉

錦木の千束の色もまどふらん道の奥まで染める紅葉に

暮秋

風はなほ枯野の色にかはりつつ思ひし数も惜しき秋かな

  秋   

公開日:平成22年9月21日
最終更新日:平成22年9月21日

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