作者別花筵百首題 海松純

春     

立春

春立つと聞きて覚めけむ佐保姫や霞の衣の今朝の山裾

夢に見る空もこの頃霞むかな床までとほる梅のにほひに

春鳥

春は来ぬ声のみ風のつれそめて霞の奥を渡るうぐひす

春夢

寝覚めをば何にゆだねん明日の夢梅のにほひかうぐひすの声

春月

あやなしと今宵は言はじ花の香も色も朧に照らす春月

椿

落椿水脈さへにほふくれなゐは盃に似て浮かぶ九重

残雪

残り雪むら消えそめし若草に今年は何の彩を描かん

若草

春若くまづ咲き出づるみどりまた草てふ名負ふ花にやあるらん

余寒

大空は雪の別れの色ながら梅が香寒き風のきさらぎ

春雨

同じくはいづこに雨の宿りせん梅の花陰青柳の下

春野

春の野に袖より下の花を見てひとひ挿頭の雪を忘れぬ

春山

白妙の色はかはらず横雲の別るるひまの花の峰々

春曙

夜をこめて花は袂をよそふとも枕より見る春のあけぼの

昔よりなほ白雲にまがふかな八重立つ染井吉野の色は

落花

吹きまよふ下風花の香に染みて枝をかれゆく天の羽衣

苗代

今年また何を唄はん夕暮れの苗代道を帰る早乙女

ぬばたまの夜は明けぬれど黒揚羽羽に赤々と灯もともしたり

遅日

暮れがたき春日を見れば君が代の心やすくも長くもがもな

晩春花

ひとへだに色の限りをかきつめてまばゆく咲ける山吹の花

残春

面影は重ねじとてもなほも惜し花の別れは袖のひとへに

春     


公開日:平成22年9月21日
最終更新日:平成22年9月21日

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