第5日目:11月4日火曜日 誕生日まで1週間!
桃花さんはなんだか眠そうです。それもそのはずです、だって昨日は結局3時まで起きていたんですから。
寝不足だとそのかわいい顔ににきびができちゃいますよ。
みたところ、目の下にくまはできていないようですが、やっぱりあくびばかりしている桃花さんが心配です。
かばんに入って一緒についていこうとしたら尽くんに見つけられて、引っ張り出されました。うーん、残念。
がっこうというところについていけばあっちのれいいちさんをまじかに見られたのにな。
いつもはちゃんと食べるのに今朝は寝不足のせいか、桃花さんはあまいこーひーぎゅーにゅーだけ飲んで学校へ行きました。
出掛けにぼくをぎゅっとしてから「れいいち、行ってくるね」と言ってちゅーしてくれました。
ぼくはしあわせです。あ、でも、いつかあっちのれいいちさんにもしたりするのかな。
帰ってきた桃花さんはちょっとしょんぼりしていました。
どうしたのかと思ったら、1時間目のあの人の授業中に寝てしまったようです。
そして、昼休みに怒られたみたいです。どうしてそんなに遅くまで起きていたんだとか言われたそうです。
でも桃花さんはあなたのプレゼントのためですなんて言えなくて黙ってたみたいです。
言っちゃえばよかったのに。そしたらきっと怒られなかったんじゃないかな。
ぼく最近思うんです。あっちのれいいちさんも桃花さんが好きなのかなって。
だとしたらぼくたちらいばるですね。
今日は9時に寝ちゃいました。眠たかったんですね、桃花さん。
「うわー、お母さん。遅刻遅刻!尽、なんであんた起こしてくれないのよっ!!」
「桃花、ご飯は?」
「それどころじゃない!」
目が覚めたら、8時近かったのだ。確かに昨日はついつい遅くまで頑張ってしまったけれど、こんな時間に起きたのなんて高校入ってから初めてかも。ホームルームは8時30分、氷室先生は時間ぴったりに教室にやってくるから、絶対にその前にすべりこまなくっちゃ。学校まで歩いて15分、走って10分。顔を洗って髪を梳かして制服に着替えてたら…時間がない!!
大急ぎでお母さんが用意してくれた暖かいカフェオレを1杯だけ流しこんで、歯を磨いて顔を洗って髪を撫でつけて、かばんを掴んで学校までただ走る。
いつもは早起きして8時くらいには学校に着くように歩いて行く。そうすると、学校の前の登り坂で先生の車とすれ違うことができるから。そして運が良ければ朝から先生に挨拶をして少しだけお話ができるから。ほんの5分くらいだけど、今のわたしにはそれだけでも十分幸せだなーって思うんだ。ホント挨拶以外にちょっとでもお話できたら、それだけで1日笑って過ごせるくらい、ささやかな幸せ。
なのに。
今日はそんな余裕なんて全然ない。もちろん、寝過ごしたわたしが悪いんだけど、それにしても、この坂どうにかしてよ。
いつもはあまり感じたことがなかったけど、学校前の坂が今日はすごく急に思えてくる。
あー、倒れそう。
「よっ、桃花ちゃん。どしたんや、こんな時間に走りよるけど」
「はぁはぁ、姫条くん?遅刻、はぁ、する、はぁ、よ」
「せやなー、遅刻、しそうなやー。走ろか、ほな」
坂の途中で姫条くんに会った。彼はいつもぎりぎりに登校してくる。まあ、隣の担任はあまり厳しくないし、だいたい氷室先生みたいに時間ぴったりに教室に入ってくるわけじゃないから、ちょっと余裕気味。だからって何よ、その余裕の笑顔は。
でも、なぜここでわたしの手をつなぐの?
一人で走れるってば。
ねえ、ちょっと、姫条くん、もうちょっとゆっくり走って、くれない?
ぜーぜーと肩で息をしながらそれでもぎりぎり8時28分には教室に滑り込んだ。
「おやー桃花、珍しくない?」
「はぁはぁはぁ、わたし、だ、って、寝坊、くらい、する、はぁ、わよ」
「ふーん、寝坊するほど何してたのさ?ゆってごらん」
奈津実のツッコミが始まろうとしたまさにその時、タイミング良く氷室先生が教室に入ってきた。
あー、間に合った。
でも、結局1時間目の先生の授業の途中で、わたしは力尽きて眠り込んでしまった。隣の葉月君以上にぐっすりと。
「北川、放課後数学準備室に来なさい。私の授業でそれほど寝るとはいい度胸だな」
「はい……すみません……」
奈津実はご愁傷様と言ってくれたけど、先生のお説教を聞いてる場合じゃないの。いつもなら例え怒られるのでも、先生と二人きりだと思ったらそれだけでドキドキものなんだけど、今日はそんな気分じゃない。……ああ、憂鬱。
「で、北川、昨晩は何時に寝たんだ」
「確か、3時くらいだったかと……」
「そんな時間まで何をしていた。早く寝なさい、翌日に差し支えるだろう」
「ちょっと……調べものをして、まして……」
「……まあいい。今日は早く寝なさい。体調を崩すぞ」
「はい、ご心配をおかけしましてすみません」
「まったく、心配させるんじゃない。気になって仕方が……」
「えっ?」
「コホン、なんでもない。とにかく今日は帰って早く寝なさい。わかったな」
「はい、失礼します」
心配……してくれたんだ。
でも、それは担任教師としてなんだよね、きっと。
個人的になんてありえない、よね。ちょっと期待しそうになっちゃった。
でも、まあいっか。
今日は早く寝ようかな、でも、もう今晩と明日しかないから寝てる場合じゃないんだけど……。
よし、区切りがつくまでがんばろうっと。
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