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第4日目:11月3日月曜日 誕生日まで1週間!



月曜日になりました。でもおやすみなんだそうです。
昨日の夕方帰ってきた桃花さんは最近見たことがないくらいご機嫌でした。
尽くんに夕飯の後のりんごを一切れ取られても怒りませんでした。やっぱりお相手はあっちのれいいちさんだったようです。
12時くらいまでぼくは桃花さんのおしゃべりにつきあわされてどんなにあっちのれいいちさんが素敵かを聞かされました。
ぼくもなかなかいい感じだとおもうんだけどなー。やっぱりカンガルーよりにんげんがいいようです。
結局誕生日のプレゼントは「すうがくのろんぶん」というものを書くことに決めたそうです。
この間、有沢さんという人と話して決めたんだそうです。だから桃花さんは朝から図書館にでかけました。
ろんぶんというものは食べ物なのか身につけるものかはぼくにはわかりませんが、きっとすごいものなんでしょう。
だって今日も二人で電話しているのが聞こえたけど、きっと受けとってくれると喜んでいましたから。
あの人の好きな何かなのでしょう。
図書館で桃花さんは何やら本を借りてきたようです。
お昼ご飯を食べた後から、むずかしい顔をして本を読んで、何か書いています。
そしてこの間とは違うため息をついたり、ときどきうなっています。でもがんばっています。
ぼくもお手伝いしたいけど、ぼくじゃ役に立てそうもありません。だからこうやって応援するしかありません。
がんばれ、桃花さん。きっとあの人も受けとってくれますよ。ぼくが押しつけてきてあげますから。




さすがにもうそろそろ書かなくっちゃ。志穂さんに教えてもらって図書館で数学の本を何冊か借りてきたけれど、やっぱり難しいよー。でも、こんなものくらいしかきっと先生は受けとってくれないだろうし。一応これ以外の選択肢も考えたけれど、どれも今一つ決め手に欠けて、コレだっていうものが思いつかない。

今日何度目だろう、このため息。

学園祭の準備は早くからやっておいてよかった。カクテルドレスを作ることになったけれど、夏の合宿の時にあらかたデザインも決めて生地も買いこんで早々にカッティングまで終わらせておいたから、ずいぶんと楽。去年は初めてのことだったからかなりぎりぎりまで作っていたけど、今年はアクセサリーを揃えるだけになっている。そうじゃなかったら、今頃こうやって論文なんて書いてる場合じゃない。

志穂さんは論文と言っても数学専攻の大学生じゃないから、そんなに難しいものじゃなくてもいいと言ってくれたけれど、やっぱり難しい。だってわたし先生を好きになるように数学を好きになっただけだから、もともと大好きだったわけじゃないもの。だから「数学の論文」にしようなんて大それたことをやってると思うわ、実際。

「姉ちゃん、何うなってんだ?」
「ひゃっ、尽!あんたまたノックもせずに入ってきたわね」
「だってさぁ、なんかうなり声が聞こえてきたからさ。ゲームに集中できないじゃん」
「出てきなさいよ」
「いいのか、ケーキあるんだけどなー。全部食っちゃうよ」
「食べる」
「へいへい。じゃ、下来たら」

時計を見たらもう3時だった。
朝開館と同時に図書館に行って、数学の本を借りて、お昼を食べてからずっとうなりながら書いてたってことか。
椅子に座ったまま伸びをしたら、背中がぱきぱき音を立てた。
確かにちょっと疲れたかも。
ケーキ食べてこよっと。

明日は学校で、明後日も学校、もちろんその次も学校。
6日は先生の誕生日。

去年は絶対に何も受けとってくれないと忠告されていたのに果敢にチャレンジして華々しく散ってしまった。何がいけなかったのか反省してみたけれど、きっと廊下だったし、おめでとうございますと言ったのがいけなかったんだろうな。だって先生って結構照れ屋さんだもんね。わたし知ってるんだ、時々顔が赤くなったり、いつもはまっすぐな眼差しが泳いだりすること。
また、それがかわいかったりして。

今年はどうやって渡そうか。
できあがる前からこんなことばかり考えてるわたしって一体?

これが葉月くんだったり、姫条くんだったりしたら渡し方に悩むことなんてないんだろうな。ただ何をあげたらいいかに悩むだけでよかったんだろうな。あー、同級生を好きになればよかった。どうして担任の先生なんか好きになってしまったんだろう。

部屋に戻ってぼんやりと考え込んでいたら、ふいに携帯が鳴った。画面を確認したら志穂さんだった。

「北川さん、どう、進んでる?」
「あー、それが中々うまくまとまらないの」
「ちょっとくらいなら手伝ってあげてもいいわよ。どうする?」
「えっ?ホント?」
「ええ、ほんとよ。だってあんまりあなた一生懸命だったからちょっと気になったのよ」
「ありがとう」

急いでかばんにいろいろ詰めこんで志穂さんに会うために待ち合わせの喫茶店に走っていった。冷たそうに見えていざとなったら優しいんだよね、志穂さんは。ちょっと氷室先生みたい、かな。

今バイトしている喫茶アルカードでマスターには申し訳なかったけど、コーヒー1杯で6時過ぎまでねばってしまった。でも、おかげでかなりまとまりそうになってきた。

「お前、今日バイトの日か?」
ふいに聞き慣れたぼそぼそした声が聞こえて振り返ると、やっぱり葉月くんだった。何してるのかな、モデルのバイト先が近いって前に言ってたから、その帰りかな。
「あ、葉月君。そっちこそどうしたの?」
「いや、そこまで来たから……」
「じゃあ、私は先に帰るわ。北川さん、がんばってね」
「うん、ありがとう、志穂さん。ばいばい」

わたしと志穂さんが話してる間も、葉月君は何も言わずただぼんやりと立っている。この人ってホントしゃべらないよね。でもまあカッコいいから許されるのかも。

「わたしもそろそろ帰るから」
「俺、送ってやる」
「いいよ、そんな。悪いよ」
「いいんだ」

で、結局、ほとんど会話もないまま葉月君が家まで送ってくれた。なんというか、不思議な人。
楽しいのかな、ただ一緒に帰っただけなのに。

「ねえ、葉月君。楽しい?」
「ああ、お前見てると楽しい」
「ふーん、そうなんだ。ありがとう、送ってくれて。じゃあ、また明日」
「ああ」

うーん、やっぱり不思議くんだ。
せっかくカッコいいのにもったいないなー。

あ、やば。忘れないうちに続き書かなくっちゃ。



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