第6日目:11月5日水曜日 誕生日まで1週間!
今日はもう5日です。いよいよ明日です。
学園祭の準備もあるのに「すうがくのろんぶん」というものも作っていて桃花さんは大変です。
でも学園祭の方はかなり前からよういしていたみたいなので、大丈夫だと言っていました。
今日は珠美ちゃんという女の子がうちにきました。そして、何かお菓子を作っていました。甘いいいいおいがします。
ぼくもいちど桃花さんの作ったものを食べたいけど、カンガルーなのでたべることはできません。
いいなー、あっちのれいいちさんは。たぶん、明日一緒にあげるんでしょう。うらやましい。
6時前にその珠美ちゃんが帰って、夕飯を食べておふろに入ったら、またろんぶんというものを作り始めました。
なんとかできあがったようです。でも、もう午前2時を回っています。また桃花さんは眠れません。
できあがった紙の束を青いリボンでとじて、さっき作ったお菓子を青い小さな箱に入れて、
桃花さんは忘れないようにかばんに入れました。大きなあくびをしています。ねえ、早く寝ましょうよ。
一度ベッドに入ったのに、突然起きあがってまた机に座りました。何か忘れたんでしょうか。
鼻歌を歌いながら何かかわいい紙に書いて、ろんぶんの中にはさみました。
いよいよ明日ですね、桃花さん。ぼくもついていっていいですか。いや、ついていきます。
だってもしあっちのれいいちさんがプレゼントを受け取らなかったら、パンチをお見舞いしてやらなければ気が済みません。
ぼくはこっそりかばんにもぐりこむことを心に決めました。
昨日は結局9時過ぎたあたりで記憶がなくなって、目が覚めたら朝だった。でもあらかたなんとかなったと思う。完璧に論旨が通ってるとは言えないけれど、でも形にはなってきた。後は清書して図式を付け加えて、表紙を作って綴じるだけ。一応その前に志穂さんにチェックしてもらおうかな。きっとその方がいい。それから、やっぱり論文だけじゃ味気ないから何かそう、手作りで作ろうお菓子でも。
「珠ちゃん、ねえ急で悪いけどクッキーの作り方教えてくれないかな」
「うん、いいよ。今日?」
「うん、だめかな?」
「いいよ、ちょっと鈴鹿くんに言付けて来るから教室で待ってて」
「ごめんね」
ちょっと強引だったけど珠ちゃんに甘くないお菓子の作り方を教えてもらうことにした。高級なお菓子を買うんだったら瑞希さまにお願いしてなんだったっけ、そう、パティシエって人がいるお店を教えてもらうんだけど、今回は少しだけクッキーを焼くことにしたから。
「えっとね、お砂糖のかわりに蜂蜜でも大丈夫だよ」
「そうなの?」
「うん、それでね、蜂蜜を少しずつ生地の中に混ぜて……」
「うんうん」
「今からだったら固めるのは無理だから、そのままアーモンドを混ぜて大きいスプーンで天板に落としていくのよ」
「それで?」
「で、それをそのままオーブンで焼いたらできあがり」
「すごい早い!」
「でしょ?」
「うんうん、それから?」
「焼けたらまだちょっと柔らかいからそっと網に乗せて冷ますと終わり。たぶんこれだとあまり甘くないのができるよ」
「ありがとう。明日学校に持っていくね」
「うん、明日がんばってね。氷室先生でしょ?」
「あ、ばれてた?」
「でも秘密だよね。わたし誰にも言わないから」
「ありがとう、珠ちゃん。今日はありがとう」
いろいろと珠ちゃんもバスケ部の出し物で忙しいのに、手伝ってくれた。優しいよね、珠ちゃんは。でも、わたしも知ってるよ、珠ちゃんの好きな人。まあ、わたしが好きなのは氷室先生だけだから取り合うこともないし、いつか何か困ったことがあったら相談にのるからね。だけど、今のところわたしは堂々と先生が好きだからとは言えない。言ってもいいのだろうけど、そうしたらわたしはともかく氷室先生を困らせてしまう。好きな人に迷惑を掛けられない。大好きだから……。
昼間、志穂さんに最終チェックをしてもらった論文の清書を済ましてしまおう!
そして忘れないように今からかばんに入れておこう!
時計を見たらもう2時になっていた。ふと、夜空を見上げたくなって窓を開けて顔を出してみると、あまりに空気が冷たくてつい首をすくめてしまった。見上げた空は少し曇っていて、いつもみたいに星は見えない。雲の間から、満月1歩手前の膨らんだ月がわたしを静かに見下ろしている。まるで、先生みたい。近くて遠い先生みたい…。手を伸ばせば確かにわたしの手を取ってくれるけれど、でもそれはあくまで一生徒としてであって、個人的な関係じゃない。わたしはいつも先生を見上げて、いつか先生の隣にいたいと願っている。こんなに願っても叶わない願いってあるのかな、やっぱり。
明日、先生が受けとって受けとってくれなかったら、その時は、この恋は諦めよう。
そして違う人を好きになれるように努力しよう。
いつか先生を好きになったことを想い出にかえて、笑えるように。
ねえ、先生、でもわたし本気であなたが好きなんです。
何も考えられなくなるくらい、大好きなんです。
この気持ちは、永遠にあなたに通じないものでしょうか?
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