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第3日目:11月2日日曜日 誕生日まで1週間!



今日は日曜日です。でも、朝から桃花さんは出かけました。
昨日は帰ってくるのがずいぶん遅くてぼくは心配でした。
でも、夜遅くあの人が桃花さんを車で送ってきました。そしてていねいにお母さんに挨拶をして帰っていきました。
ぼくは見てしまいました。あの人が桃花さんの部屋の窓に明かりがつくのを見てから帰っていくのを。
そしてちょっと笑ったのも見てしまいました。けっこうやさしそうだったのでびっくりしました。
あの人にあげるプレゼントは決まったんでしょうか。
昨日帰ってきてから桃花さんはタンスをひっくりかえすようにしてようふくを一生懸命選んでいました。
でーとというものにでも誘われたんでしょうか。
ぼくはでーとというものをしたことはありませんが、好きな人と一緒にごはんを食べたり散歩したりするんですよね。
誰とお出かけなのかな、桃花さんは。
桃花さんは自分ではもてないって言ってますけど、もてるみたいですね。尽くんがいつも困ってます。
あの舞いあがり方から考えるときっとお相手はあの人じゃないかと思います。ぼくと同じ名前のれいいちさん。
ぼく知ってるんですよ、あなたのことを桃花さんはお部屋の中だけですけど、名前で呼んでるの。
最初はぼくが呼ばれたのかと思ってどきどきしましたけど。
でも、あのれいいちさんの名前の後ろには他の人には見えないけど、はーとがもれなく付いてるんです。




うふふふっ。

わたしってばもしかしなくても昨日からずっとにこにこしてるかもしれない。
でもね、これが気分良くならずにはいられますか。
だって、あの氷室先生が今日ドライブに行かないかって誘ってくれたんだもん。
一応ね、聞いてみたのよ、「これってデートですか?」って。そうしたら、ふっと視線を泳がせたかと思うと低い声で「社会見学だ」なんて言ったの。わたしにとってはどっちでもいい、今日1日先生と一緒にいられるなら、デートでも社会見学でも何でもいい。

うふふっ、やだなーもう、すぐほっぺたが緩んじゃう。さっきから尽は意味深な顔でにたにた笑ってるし、お母さんもなんだか様子を伺ってるし、お父さんは見てみぬ振りしてるけど新聞逆さだし。
変なの。

約束の時間より早いけど、外で待ってよう。
家の中でいてもそわそわして座っていられない。
晴れ渡った秋空の下で落ち着かない気持ちを抱えたままわたしはじっと待っていた。その内角を曲がってぴかぴかした大きな車がすっとわたしの前に止まり、すっとドアが開いて先生が現れる。

少し照れたような顔で「君にはそういう服装がとても似合っている」と言ってくれた。もうわたしはその一言だけで舞いあがってしまって何も考えられなくなる。あー、どうしてこんなに好きになったんだろう、先生のこと。

「どうした?急に静かになったな」
「先生と二人きりなので緊張して」
「そうか……それでは歌でも唄っていなさい。そうしなさい、それがいい」
「え、でも……」
「コホン、こちらまで緊張するではないか、君がそんな様子では」
「あの、先生質問してもいいですか?」
「質問の内容による」
「先生はクラシック以外お聞きになったりするんですか?」

だって、歌でも唄っていろと言われても、先生が思ってる歌がオペラとかだったら困るもの。わたしそんなの知らないし、そこら辺りで流行ってる歌しかわからないから。でも、そんな流行りの歌を唄ったりして余計気まずい雰囲気にする訳にもいかないじゃない。

「テレビくらいは見る。私とて歌がアリア以外にもあることくらい知っている」
「どんなジャンルですか?」
「スタンダードであるとか、ジャズであるとかなら聞くこともある」

以外……。
そういうの知ってるんだ。でもわたしはほとんどわからない。
今度お父さんに教えてもらおうっと。

「例えばどんな曲ですか?」
「そうだな……、ふむ、君はティファニーで朝食という映画を知っているか?」
「はい、前にテレビで見ました」
「あの中にMoon Riverという曲が流れる。あれもスタンダードだ」
「あー、あれですか。むーんりばーわいざーざん……♪とか言う」
「そうだ、Moon river wider than a mileだ」

先生って数学の先生ですよね、なのにどうしてそんなに綺麗な発音なんですか?ますます謎が深まってきた。英語の先生よりうまいですよ、氷室先生。やっぱりなんでもできるんだ、先生って。

先生はカッコいい。カッコいいし優しいのにみんなはただ怖い先生だと思ってるなんてもったいないかも。でも、みんなに優しかったら、わたしちょっと嫌だな。あ、でもわたし先生の彼女なんかじゃないからそんなこと、言う資格ないか。

このままずっと先生とドライブしていたい、そう思ったけど楽しい時間はすぐ終わりがくる。あっという間に夕方になってさっさと家まで送り届けられてしまった。いつかずっと先生のそばにいられる時がきたらいいな。でもそうなったら心臓がドキドキして死んじゃうかも。

だって今日1日ドキドキして胸が痛いくらいなんだもの。

これでしばらくは嫌なことがあってもわたし、笑っていられそう。
あ、でも明日はさすがにプレゼント作らないとっ!



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