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fly me to the moon 第5回



高校生ってこんなに楽しいものだったんだ。





集合場所での先生達からのいろいろな注意事項を聞いてる時はちょっと退屈だった。けど、クラス毎に用意されたバスに乗り込む。すると、もうこの車内からなんとなくみんながうきうきしてるのが伝わってくる。
僕も3年前に修学旅行について行ったけど、やっぱり引率する大人という立場と引率される子供という立場では緊張感がまるで違うようだ。いくら僕がぼんやりした人間でも、さすがにこれだけの生徒を引き連れて出かけるのは緊張していたはず。やっぱり高校生くらいっていいなぁとしみじみ思う。あ、今のはちょっと年寄りくさかったか。反省反省。


クラス委員だからなんてよくわからない理由で最前列に座らされた僕は、ぼんやりと流れる車窓の風景を見つめていた。
と、ポケットに入れていた携帯が震えた。

画面にはメールのマーク。
先生が横を向いている隙に確認すると、やっぱりさんだった。


-----どう?楽しい?新幹線に乗るまでクラス委員さんがんばってね。また会いましょう(^^)/


なんだか、彼女っぽい。
僕も早速返信してみる。


-----楽しいよ。そっちはどう?いろいろありがとう。急にいなくなるかもしれないけど、今は楽しむことにするよ

送信。




「新幹線に乗る時がまた大変だ。クラス委員がんばってくれよ」
「いいえ、僕よりも先生の方がごくろうさまです」
「はぁ!?どうしたんだい、君。改まって」
「や、失礼しました。何でもないです」
「そ、うか。ならいいんだが……」


ヤバイヤバイ。高校生らしくない言動だったかもしれない。

急に10代に戻っても精神的には大人のままだし、どうしてもまあオヤジっぽいかもしれない。なのにバスの窓にうっすら映る僕の顔は、ほんの少しだけ若いような気がする。反対に隣に座って熱心に現地での調べ物に余念の無い『氷上先生』は、やっぱり年相応に老けてみえる。

待てよ、そういえば、氷上くんも佐伯くんも僕らの担任なんだとしたら、一体年はいくつだ!?


「あの……先生」
「どうした?気分でも悪いのかい?」
「いえ、そうじゃなくてちょっと変なことをお尋ねしてもいいでしょうか?」
「どうしたんだね、今日はやけに改まってるじゃないか」
「先生は今おいくつですか?」
「??」
「……」
「き、君は僕の年を聞いているんだね。ああ、来月には30になるよ、それがどうかしたかい?」
「そうですか、失礼しました」
「いや……構わないが……」

うわー、氷上くんがもう30歳。
参ったな、これは。



ほとんど同じ年ってことになるのか、うーむ。まいったまいった。
再び、何事もなかったかのようにガイドブックなんかをめくり出した氷上くん、間違った、氷上先生をちらっと横目で見てから僕はまたさんにメールをした。





-----ねえ、佐伯先生ってやっぱり佐伯瑛くんのこと?なんだか氷上くんがもうすぐ30歳で先生ってのは違和感を感じないんだけど、佐伯くんはどうもちょっと


-----これ、写真。今撮ったばかり。どう?



彼女からのメールに添付されていた写真はまさしく僕の知っている佐伯くんの顔だった。優等生でなんでもそつなくこなすけど、一方で心の奥では何を考えているのかわからなかった僕の生徒。その彼が急に写真を撮られて慌てて優等生の笑顔を見せている、そんな写真。




-----うん、これは佐伯くんだ。ところで、自由行動ってやっぱりあるの?




-----あるわよ、3日目と5日目だったかな。どうするの?京都は初めてだっけ?




-----ううん、実は先生として引率で行ったことはある。どうするの?




-----一緒に回ってもいいけど……若王子くんは人気あるからなー、無理かもよ。女子に連れ去られる可能性高し!




-----何それ、僕は君と二人がいいのに。その方がばれないでしょ、たぶん




-----まあ、考えとく。じゃあね(^^)/~




-----考えといて




僕はぜひとも同級生として君と一緒に観光したいんだけどな。こっちから言わせてもらえば、君の方がよっぽどモテルんじゃないの?それにどうも付き合ってることは秘密らしいんだから、君を好きだという男子生徒がここぞとばかりに声を掛けてきそうじゃないか。

指輪とかなんとかあげとけばよかったんじゃないのか、ねぇ若王子貴文くん。
僕だったらそうするけどな、大人の僕なら、ね。



1時間あまりで、バスは一旦新幹線に乗り換えるために大きなターミナルに停まった。そういえば、前もそうだった。ここから約2時間の電車の旅だ。新幹線に乗ってしまえば、彼女に会えるかもなんて薄い望みを抱いて僕はみんなと一緒に決められた車両へと乗り込んだ。

彼女はE組、ということは何両目だろう。トイレにでも行くことにして会いに行こうか。


「ねえねえ、若王子くん」
「はい?」
「こっちで一緒に遊ばない?ね、いいでしょ」
「えっと、僕は……」
「いいじゃないの、新幹線の間くらい」
「はぁ……でも」

通りがかりの女子生徒に強引に腕を引っ張られ、ゲームの輪の中に入れられてしまった。もっとはっきりすればいいのに、僕はやっぱり人が良すぎるんだろうか。こっちの若王子貴文も同じような感じだったのかな。学年章を見るとD組の女の子達だったから、きっと彼女は次の車両なんだと思う。もう少しだったのに惜しい。

ま、いいか。ここは一つ高校生男子として普通に遊んでおこう。


「若王子くんもやっぱり修学旅行だから、ちょっといつもより緩んでる?」
「何か違うかな?」
「うーん、いつもはもうちょっと近寄れない雰囲気のこともあるよ。あ、でも、まあ、いつも割りと愛想いいけどね」
「そう?別に普通なんじゃないの」
「なんかさ、不文律っていうの?若王子くんと個人的に付き合うとなんか仲間外れにされそうだもん」
「そうそう、だって若王子くんはみんなの王子さまだもんねぇ」
「「ねぇ」」


ぶっ!ぼ、僕が王子様だって!?思わず彼女達の発言に吹き出しかかって、何とか寸前で止めた。学校で王子と言ったら僕が知ってる限りでは佐伯くんの方だったじゃないか。

「佐伯先生だってカッコいいでしょ」
「あの人は王子っていうより王様」
「ああ、そうなんだ。ごめん、僕そろそろ戻るよ」
「残念、でも、楽しかった」

そのまま彼女のところに行こうかと思ったけど、止めた。もしも彼女達のいうことが本当だったら、やっぱり付き合ってることは秘密にしておくべきことなんだろう。

しかし、僕が王子様だなんて、苗字に『王子』って入ってるけど、それにしても、なんというか……。まいったな。

どすん、と何かにぶつかって顔をあげると、そこには見慣れた仏頂面があった。えっと、あ、佐伯……先生?

「若王子、何やってんだ。次京都だぞ、早く席に帰れ」
「あ、はい。今戻ってるところです」
「ふーん。お前何か変だな」
「そ、そんなことないでしょ。いつも通りですよ、先生」
「ま、出先だからってハメ外しすぎんなよ」
「はい」


あー、びっくりした。バレたかと思った。
王様……ねぇ。確かにそうかも。で、僕が王子。ダメだおかしい。


ようやく席に戻って携帯を開いた。いつの間にかさんからのメールが来ていた。



-----大変ね、貴文王子は ヽ(^ ^ )。女の子にからまれちゃって。でも、明後日はもっと大変よ、ご愁傷様p(^^)q
-----王子ってマジ?僕のキャラじゃないよ。なんで?
-----顔よ、顔。それからその人当たりの良さ。つー訳だから、自由行動二人きりだとわたしが危険
-----がっくり ○| ̄|_
-----じゃあね (^^)/


マジ、がっくりですよ僕は。さんだけが頼りなのに、なんか見捨てられた気分。


「若王子くん、そろろろ到着だ、みんなにも降りる準備をさせてくれ」
「はい……わかりました」
「どうした、元気がないぞ?酔ったのか?」
「違います……」

違うよ、氷上くん。僕は彼女に振られそうなんです、しょんぼりです。



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