ABOUT

NOVELS1
NOVELS2
NOVELS3

WAREHOUSE

JUNK
BOOKMARKS

WEBCLAP
RESPONSE

Like Someone In Love 第13回



の気持ちが重いと言った。その言葉に嘘はない。確かに今の俺には彼女の一途さは重くて支えられない。その一方で少し揺れている自分が存在することも確かだった。





「今度の日曜だが」
「はい?」
「私は部活動が休みだ。君は何か用があるのか?」

一瞬、彼女はきょとんとした。弟の方が先に何か勘付いたのか、俺の顔を見て小さく笑った。
そういえば彼女達がこの部屋に住むようになってから、いつもの味気ない朝食が彩り豊かになった。そんな暖かな湯気の向こうで君はまだ首をかしげ、弟は笑みを浮かべて俺と姉の顔を均等に眺めている。


先月の14日。
断固受け取りを拒否するつもりだったのに、ふいに溢れ出した君の涙でチョコレートの包みを受け取ってしまった。どうしたものかと思いながら、捨てるわけにも誰かにやるわけにもいかず、結局は自室で一粒ずつ口に運んだ。苦味の利いた小粒のチョコレートを口に運ぶ度に、君の泣き顔が目に浮かび些か居心地が悪いものとなった。


「どうなんだ、
「えっ?あ、はい。何もありません」
「そうか、では少し出かけないか」
「えっ?」
「日曜日に少し出かけてくる。尽くん、夕刻までには帰宅する」
「うん、わかった。姉ちゃん頑張れよ」
「な、な、何を頑張るのよっ!さっさと食べましょう、ね」


これは決してデートではない。
そんなつもりはない。
ただ、バレンタインの礼をしたいだけだ。



俺は心の中で必死に言い訳をしていた。後に残るようなものではなく、君の心の片隅に少しだけ残ればそれでいいと思っていた。

俺は絶対に君の理想にはなれない。なるつもりもない。
当然、今の君と付き合おうなどとは夢にも思わない。

だからその君のまっすぐな心から、どうやって逃れられるか、そればかり考えてしまう。俺は君を幸せにすることはできない。君は俺と一緒にいたのでは楽しい生活が送れないと思う。何と言っても俺は君が思うよりずっとひどい男だからだ。




-----零一はいつもどこか冷めてる。





過去付き合った彼女は必ず別れ際にそう言った。
そして彼女達は皆一様に同じセリフを俺に投げ掛けて去っていく。




-----あなたは自分にも他人にも興味がないのよね。



相手がまっすぐに向き合おうとすればするほど、俺の心は冷めていく。
今この時間はそんなことを言っているが、本当のところどうなんだ、と思い始めると際限なく相手を信じられなくなる。そしてどんどん俺の心は冷えていく。
これではいけないと若い頃はそれでも努力をしてみたことはある。それでも駄目だったのだ。難しい数学の問題を解くよりも難しい。



、これは強制ではない。万が一用ができた時には早急に知らせなさい」
「は、はい」
「では、先に出る。君達は10分後に戸締りを確かめたら出なさい」

できるだけ俺は君の傍観者として、できる限り君の相談に乗るだけの「教師」としての立場を明け渡したくはない。あのバレンタインに見せた涙の訳を俺は恐らく判っている。だが受け止めようという気持ちよりも勘弁してくれという気持ちの方が強いのも確かだ。

君がどういうわけか一途に思ってくれていることは判る。判るがダメだ。
俺は君を受け入れられない。

なぜ心の底から誰かを好きになったりといったことができないのか。それを両親の離婚に求めることはあまりにも簡単過ぎて、答えにすらなっていない。少なからずショックではあったが、それで困るほど俺はもう子供ではなかったし、かといって完全な大人にも成りきれていなかった。に初めて会った頃だってウチの家族の内情はバラバラでとてもじゃないが、人様に見せられるような状態ではなかったように記憶している。だからこそ、あのひと時の和やかな空気だけを覚えているのだろう。

誰かを愛していると言ったところで、そんなもの永遠には続かない。例え神に誓ったとしても、日々生活している内にだんだん相手のことを疎ましく思うようになり、やがてはウチの両親のように別れてしまうのだ。そして、それぞれに新しい家族を作り、二人の間に存在した何もかもが過去になってしまう。そういうものだ。







「先生、日曜日はダメになりました。すみません」
「そうか。別に構わない」
「何も聞かないんですか?理由……とか」
「聞いてほしいのか?」
「……いえ」
「ならいいだろう。私は忙しい」

はい、と小さく答えては廊下を早足で去っていった。大方友人との約束でもできたのだろう。別にいい。むしろその方が好ましい。俺みたいな男に拘るよりも友人との時間を大切にするべきだ。

まだ、俺は自分の中にあるもやもやした影の正体に気付いていなかった。
二人の姿を目の当たりにするまでは。



back

next

go to top