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Like Someone In Love 第14回



結局、日曜は朝からも弟も出かけ、俺も手持ち無沙汰になり街へ出た。特にしたいことも行きたい場所もなかったから、商店街の本屋で少々立ち読みをして、目に入ったセルフのコーヒーショップで購入したばかりのミステリーを一時間ほど読みそのまま帰宅した。

本来ならまっすぐに自宅へ行くのだが、なぜかその日はの家の方へと足が向き、久しぶりに車で前を通った。一事停車したところで何か人の話し声が聞こえ細く窓を開けると、予想通りというか予想外というか、と葉月が話し込んでいたのだ。思わず、ドアを開けて外へ出た。物音に気付いた二人がこちらを振り返る。君の表情には少しの驚きと多くの不安が宿っていた。葉月はというと一瞬挑むような目付きをしたが、すぐにまたいつもの無表情に戻った様子だった。

「せ、んせい……」
「何でもない、通りかかっただけだ。もう遅い、早く帰宅しなさい」
「……」

胸の奥で何かがずきずきと音を立てていた。別に構わないじゃないか、常々俺は年相応の付き合いをしろと彼女に言ってきたのだから。別に構わないだろう、彼女が俺ではなく葉月と出かけていたとしても。責める理由もなければ、逃げる必要もない。
そうだろう?




だが、はどうするつもりだ?
当然今一緒に暮らしていることは誰にもばらすわけにはいかない。だからこの家の前まで一緒に帰ってきたのだろう。うまく葉月をかわして帰宅できるのだろうか?


待つともなく俺は車のシートを倒して、路上に止めたままじっとしていた。少し時間をずらして帰宅した方が互いのためになるような気がしたからだ。

静かな車内に突然携帯の着信音が響いてびくりとした。
画面にはとある。留守電に切り替わるまで放っておくか、それとも出るか一瞬だけ逡巡したが結局俺は通話ボタンを押した。

「氷室だ」
「先生、お話したいことがあります。今どちらですか?」
「君の家から徒歩5分の児童公園前の路上だ」
「今行きます」
「わかった」

何の話があるというのだ。
ようやく俺のことは諦めて、葉月と付き合うとでも告げるつもりか。
いいだろう、俺の望んだことだ。それならそれで「大人」の俺としてはできる限り応援することにしようじゃないか。




10分ほどして、運転席側のガラスを小さく叩く音に気が付いた。シートを戻して助手席のドアを開けると彼女はちょっとだけ周囲を見回してからそっと隣に座った。

「話というのは何だ?」
「葉月くんのことです」
「そうか、海にでも行くか」
「はい」

ここで停車したまま話をするのもどうかと思った。それほど彼女の顔はたった今デートをしたばかりとは思えないほどに青白く見えたのだ。
ロックを確かめると、いつもよりゆっくりと発進し、夕刻の幹線道路をまっすぐ海へと飛ばし始める。バックミラー越しに見えるの顔は何となく罰が悪そうに見えるが、それはきっと俺にデート帰りを見られてしまったからだろう。別にこちらを断って葉月と遊びに行ったことを責めるつもりは最初からない。むしろ……むしろ喜ばしいくらい、だ。

だというのにこの胸のもやもやした不快感は何なのだろう。



3月とは言えまだ薄ら寒い海辺に車を停めて、俺達は無言で外へでる。誰もいなくなった海の見えるベンチの端と端に座るとしばらくは何も言わずただ海を見つめていた。何を言えばいいのか、どうしたらいいのか。よかったな、と祝福してやればいいのか、それとも、どうしてだと詰め寄ればいいのか。どちらもできない。なら、先手を打ってこちらから彼女の気持ちを誘導しよう。



……別に隠す必要はない」
「隠すなんて……そんなつもりは」
「そうか。まあ、いいだろう。何か困ったことがあれば言いなさい。大して経験があるわけではないが、話を聞くことはできる」
「れ……、先生……」
「冷えてきた。帰ろう。尽君が待っている」
「…………」

そんな顔をするな。
君はあの葉月珪を選んだのではないのか。

何を言っても何をしても決して振り向かない俺を諦めて同級生と付き合うというなら、何も悪くない。むしろ当たり前の行動だ。だから、君達を見守ろう。できるだけ応援しよう。俺はそういう役回りで十分なんだ。



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