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Like Someone In Love 第9回



夏休みが終わるとあっという間に2年生は修学旅行だ。今年も京都・奈良へ往復を含めて丸々1週間の行程で行って帰ってくる。
しかし、俺とが旅行に出ている間、尽君の生活をどうにかしなければならない。いくらしっかりしているとは言え、まだ彼は小学生なのだ、非常に不安だ。

、修学旅行の時に尽くんはどうするのだ?」
「はぁ、考えてませんでした。どうしましょう。わたし休んだりしちゃだめでしょうか」
「姉ちゃん、俺のことは気にするなよ。行って来いって。ねえ、氷室先生、行った方がいいですよね」
「そうだな」
「あ、そうだ。先生の友達、何て言ったっけ?」
「益田か」
「そう、益田さん。あの人今の事情知ってるでしょ?だったら、俺あそこんちに泊めてもらうよ」
なに?
「だから、益田さんちにいるって」
「ああ、そうね。それがいいわ。いいですよね、先生」
「む……他に当ては…あるはずがないか。知られてはいけないことだしな。仕方がない、そうしなさい」
「「はーいっ!」」

おい、本当に大丈夫か?
心なしか頭痛がする。どうやらこの二人を抱え込んでから、秘密が多くなり気苦労が増えたような気がする。この間など、益田に眉間の皺が増えたなどとからかわれてしまう始末だ。





それでも他にあてなどあろうはずもなく、仕方なく益田に尽くんを預けて1週間の修学旅行に出発した。二人の企んでいそうな笑顔が些か気にはなったが、今はとにかくこの生徒達を無事連れて行って連れて帰ることに専念しなくてはいけない。
そうだ、ここからは1個人としての氷室零一ではなく、教師:氷室零一なのだから。



の周囲にはいつも誰かしらがいて、彼女も久しぶりに学生らしい笑顔を見せている。葉月との1件以来、まだ時たま誘われるらしく学内でも断わっている姿を見かけることがあった。しかしそれでも完全には断わりきれないのか時折そーっと家を出ていくことがある。

せめて修学旅行の間くらいは学生らしく、笑顔で友人と過ごしてもらいたいものだ。
婚約者だなんだという戯言はこの際横に置いて、同級生と遊んできたらいい。その間はいつもの巡回に出かけるだけだ。

自由行動日になった3日目、いつものように生徒を送り出してからホテルを後にした。
今朝方自由行動の注意事項を周知した時、はちゃんとロビーにいた。その後誰と出かけたのかまでは、さずがに把握していない。
大方、藤井か有沢などの女子生徒達と行動をともにしているのだろう。



一通り生徒を送り出すと、巡回と称して教師達も三々五々京都の街に散っていく。他の教師達はそれなりに年に一度の京都旅行を楽しみにしているようで、穴場を探しては観光に出かけていく。俺は例年特別見たいものもなく、食べたいものも無いため午前中に一回りしたら後は宿舎で生徒が帰着するまで待機している。
今年ももちろんそのつもりで、時間をつぶすための本もちゃんと持参していたのだ。

だが、先ほどまで姿が見えなかったはずのが今俺の前でにこにこと満面の笑みを湛えて立っているのだ。
、何をしている。早くでかけなさい」
「あのーですね、先生。わたし時間がなくて予定表が真っ白なんです」
「なんだと。真っ白とはどういうことだ」
「いや、だから真っ白なんですって。れーいちさん」
「そ、そういう呼び方は止めなさい、
「はーい」
「で、何か用か?」
「もしご迷惑でなければ一緒に回ってくださいませんか?もう誰も残ってませんので」
「…………」
「だめ……ですか?」

だめとかだめじゃないとか問題はそんなことではない。そもそも教師と生徒が二人きりで、自由行動を取ってどうする。教育的見地から言って非常にまずいだろう。

「ごめんなさい、一人で出かけてきます」
「ま、待ちなさい。君は一人にしておくと何をしでかすかわかったものじゃない。ついて来なさい」
「はーい!」
「静かに」
「はい」


わざとだろう。、君はわざとやっているだろう。
俺のことは早くあきらめなさい。そして葉月でも姫条でも誰でもいいから、年相応の恋愛をしなさい。そうすれば今の君の俺に対する感情がまやかしであったことに気付くだろう。


「先生」
「何だ?」
「すっごく迷惑だって顔……してますよ」
「ああ、その通りだ。何が悲しくて君と二人で京都の街を歩かなくてはいけないのかと考えていた」
「わたしは先生の隣にいるのが嬉しいんですけど」
「俺は何の感情も抱いていない」
「わかってます」
「それなら……」
「でも、好きだって気持ちに変わりはないし、これからもずっとずっと好きです」
「……?」
「わたし……零一さんの生徒だし、11歳も年下だし、きっかけはおばあちゃん達だし。でも、でもね、好きなんですよ、すごく。零一さんが今すぐ死ねって言ったらこの場で死んでもいいくらい好きなんですよ」
「死ぬなんて言うんじゃない、
「じゃあ、じゃあどうしたらいいんですか?」
「好きにしなさい」


のまっすぐな感情を受け止められるほど、俺は大人でもなかったしましてや子供でもなかった。だから、はっきり言うと彼女の無条件の好意はただ戸惑いの元でしかないのだ。



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