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Like Someone In Love 第8回



なんだか視線を感じる。

尽が変なこと言うから、約束の時間にしてはずいぶんと早すぎる時間に零一さんちを飛び出しちゃった。
携帯の時刻表示はまだ9時30分を過ぎたあたり、葉月くんは自分で10時って言ったからまだ来てないよねー、きっと。だけどね、ホントはちゃんと断わろうと思ってたんだよ。だって、葉月くんに失礼だもの。
だから、断わりたかったの、ホントは。



何か視線を感じる……。
どこかから見られてるような気がする。
気のせいかな、気のせいだよね。



、早いな……」
「えっ?あ、うん、葉月くん待たせちゃったら悪いかなと思って……ってそっちこそ早すぎない?」
「俺……お前待ってるの嫌じゃないから……」
「……あ、あははははっ、冗談ばっかり」
「冗談……なんかじゃない」
「……へっ?」

ヤバイよ。そんな綺麗な顔で伏目がちにほんのり頬を赤らめながらそんなこと言うなんて、違反だよ、反則だよ、葉月くんってば。



あ、また視線を感じる。



、どこか行きたいところはあるか?」
「別にこれと言ってはないかなー」
「じゃあ、バス亭までちょっと歩くけど、遊園地……行かないか」
「うん、行く」
「よし、決まりだ」

と、言って葉月くんはちらりと後ろを振り返ったかと思うと、突然わたしの手を握った。

えーっ!
ちょ、ちょ、ちょっと待ってよっ!
こんなのファンの子に見られたらどうするのっ!

「葉月くん、その手マズイよ絶対」
「いや、いいんだ」
「えーっ、でもーっ!」
「行くぞ」


葉月くんを意識したことなんて今まで一度もない。
大きくなってからは零一さんとだって手をつないだこともないし、一方的にでも握ったことだってない。
なのにどうして今葉月くんと手をつないで歩いてるの?


あー、なんだか視線が痛い。
そっか、さっきから感じてる視線って葉月くんに向けてなんだ。
じゃあやっぱりこれはまずいよ、写真撮られちゃうかもしれないよ。



なのに彼はしっかりと握り締めていて離してくれない。
あのー、すっごく困るんですけど、わたし。



結局、半ば連行されるみたいに葉月くんに手を握られて遊園地へ到着。

観覧車に乗って、ジェットコースターで絶叫して、お昼にハンバーガーを食べて。その間ほとんどぎゅっと手を握られたままだし。行き交う女の子達の視線が痛いし。相変わらず背後にも視線を感じるし。

楽しいような楽しくないような、変な時間。
でも、絶対に零一さんとこんなところで白昼堂々とデートなんてできないんだろうなー。
それ以前にあの人はわたしのことを好きじゃない。
わたしはこんなにも零一さんのことを大好きですって、毎日全身で叫んでるのに。


、ここ入ろう」
「えっ?どこ?」
「お化け屋敷」
「遠慮しときます」
「……」
「いや、だからわたしすっごく苦手なんだ……って」
「大丈夫だ、俺がついてる」


ねえ、人の話は最後まで聞くようにって言われなかった?葉月くん?嫌だって言ったのにどうして無理矢理連れこむのよ、わたし本気で苦手なんだから。泣いちゃうかもしれないんだから、泣いたらどう責任取ってくれるのよ、葉月珪。



ひんやりした内部はもうそれだけで全身に鳥肌が立ってくるのがわかる。小学生の時、間違ってお父さんにおいて行かれてからトラウマ状態なのだ、お化け屋敷は。

あ、だめだ、心臓がバクバク言ってる。
背中がぞくぞくしてきた。
だめだ、助けて零一さん。

怖くてつい立ち止まって目を閉じてしまった。
と、その時。

うっかり握っていたはずの葉月くんの手を離してしまった。横から飛び出してきたお化けにビックリして、しりもちをついてしまって動けなくなってしまったから。

「いや……だめ……怖い……。怖いよ……助けて……誰か助けて……。葉月くんどこ?ねえどこ?」

真っ暗な中、葉月くんの手の平が見当たらない。遠くでぎゃーぎゃー騒いでる声が聞こえる。だめだ、死にそう。目の前が真っ白になって……頭の中も真っ白……。
もう、だめ。





、しっかりしなさい」
「……ん?誰?」
「俺だ、氷室だ」
「れ……ちさん?なんで…?」
「どうでもよろしい」
「あ……れ、葉月くんは?」
「……そこにいる」


ぷいっと不機嫌そうな顔をして、わたしが寝かされている木陰のベンチから少し離れたところに立っていた。えーっと、どうしてこんなことになったんだっけ?

「そんなに苦手か」
「何がですか?」
「お化け屋敷だ」
「大っ嫌いです。苦手なんてもんじゃないです。でも…」

「ところで先生、どうしてタイミング良く現れたんですか?」
(ぎくっ)い、いや、その、あれだ。社会見学の下見だ」
「へ〜、そうなんですか。駅前からずーっとついて来てましたよね、確か」
(ぎくぎくっ)き、気のせいだろう、葉月」
「俺今日は帰ります。、またデートしよう。俺誘うから」
「……」
「……」



葉月くんは意味深なセリフを残して帰っていった。
零一さんはすっごく複雑な表情を浮かべてわたしに向き直った。

、せっかくのデートを邪魔してしまったな」
「別にいいですよ」
「もし君が大丈夫なら今からナイトパレードでも見て行くか?」
「いいんですか?」
「ああ、詫びのつもりだ」


朝から感じてた視線はもしかして……零一さんだったのかも。
だとしたら一応心配してくれたってことなのかな、それともまさかとは思うけど……いいや、それはありえないよ、いくらなんでも。


でも、少しくらいは可能性あるって自惚れちゃってもいいのかな。
ねえ、零一さん?



「あっ!」
「どうした?」
「どうしてお化け屋敷にいたんですか?」
「……どうでもよろしい」



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