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Like Someone In Love 第7回



今朝からが挙動不審である。
恐らく原因は、先日例え話でごまかしていた葉月との件ではないかと推測される。
一生懸命他人のことのように話していたが、すぐにピンときた。葉月が君を誘ったのだと言う事に。別段高校生の付き合いに過ぎないのだし、節度ある交際をするのであれば俺が口出しをする筋合いはない。もっとも『教師』としては、そう言った一言を言い添えるべきかとも思ったが、同居を始めてからの彼女の行動や言動から斯様な心配はないと判断したから特別何も言わなかった。

だが、『保護者』としては果してどうなのだろうか。
また、彼女とご両親が言う『婚約者』としては果してどうなのだろうか。


あのような態度を取ってはみたものの、些か引っかかるものはある。
まるで喉の奥に引っかかった小骨のように、わざわざ俺に話をした彼女の態度が気にはなる。





「姉ちゃん、デートか?」
「しーっ!」
「何だよ。誰だ相手?」
「だから尽、ちょっとうるさいわよ」
「まあ、ちゃんと帰って来いよな。もしもん時はうまくごまかしてやるからさ」
「な、な、何をごまかすっていうのよっ!行ってきます」
「まったく世話が焼けるよな」


ばたんっと大きな音を立てて玄関の扉が閉まった。
姉弟の会話はリビングで新聞を読んでいた俺の耳には筒抜けだ。


…………帰ってくる?
どこからだ…………、一体?

あの弟はマセた口を利きすぎだ。今度注意しておかねばなるまい。

「先生、気にならないのか?」
「何を気にするのだ。私が気にするとしたら君の言動の方だろう」
「もしもさ、このまま葉月とどっか行っちゃったらどうするんだ?先生と姉ちゃんは結婚するんじゃなかったのか?それとも単に姉ちゃんが思い込んでるだけか?」
「…………」


葉月とがどこに行くというのだ。
今日はたまたま断わりきれずに出かけただけだろう。

いや、待て。
そう思っているのは俺だけなのか?
婚約者だと言ってはいるが、やはり俺なんかよりは年の近い葉月の方がいいのではないだろうか。

もちろんその方が俺としても大助かりだ。




―――本当にそうなのか?
―――本当に助かったなどと思っているのか?
―――おい、どうなんだ、氷室零一。


「なあ先生」
「何だ?」
「きっぱり言ってやればいいじゃないか。姉ちゃんのことは生徒以上でも以下でもないってさ」
「…………」
「姉ちゃんのことだから、1晩泣いたら大丈夫だと思うよ。それとも先生、姉ちゃんと結婚とかしてもいいと思ってたりする?全然思ってないなら早い内にはっきりしたら?」
「き、君にそのようなことを言われる筋合いはないだろう」
「あるよ」
「なぜだ?」
「なぜってそりゃオレの姉ちゃんのことだからさ」
「そうか、…………そう……だったな」

確かに彼の言うことにも一理ある。
はっきりと告げればよいのだ。君と将来結婚する気などさらさらないと。だが、言えないのだ。この簡単な一言が言えないから困っているのだ。

今はまだ好きでも嫌いでもない。当然のことだが、生徒以上でも以下でもない。そのような不純な目で彼女を見たことは一度たりとてなかった。しかし、それならなぜ今俺は葉月とのデートに出かけた君が気になるのだ。


「出かけてくる」
「夕飯は?」
「お姉さんが戻ったら二人で食べなさい。私はいらない」
「ふーん」



自分の気持ちがわからなくなってきて、ふいに出かけたくなった。別にが気になるから外に出るわけではない。尽くんの言葉に動揺したわけでもない。だが、なんともいたたまれない気分なのは確かだ。


はっきりするべきだと言う彼の言い分はもっともだ。しかし、今ここでとはこれ以上進展しようがないと告げたなら、彼女が泣きはしまいか。俺は君のことをなんとも思っていないつもりだが、それでも君の笑顔は見ていたいと思う。

矛盾していると思う。
好きではないと言う一方で、君を泣かせたくはないと思っているなど、矛盾しているどころの問題ではない。



この頃自分の感情が把握できなくなっている。
1か0かいつもはっきりと割りきって生きてきたのに、最近は『白』と『黒』の間の『灰色』が気になって仕方がない。その『灰色』は、恐らくに対する自らの感情なのだろう。

が誰とどんな風に付き合おうと本当に気にならないのか?
ああ、そうだ。全くもって問題ない。
そう言いきる自信はあるのか?



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