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Like Someone In Love 第6回



「ねえねえ、
「なーに?」
「明日の日曜にさ、遊びに行ってもいい?」
「どこに?」
「どこってそりゃもちろんあんたんち」
えーっ!!!
「どしたん?そんなびっくりするほどのことじゃないっしょ。前はよく行ってたじゃん」
「ご、ごめん。その日はちょっと用事が……」
「ふーん。何葉月王子にでも誘われた?」
「な、なんでそうなるのよ!そ、そ、そんなことないってばっ!」
「藤井悪い、俺が先に誘った……」
「は、葉月くん!?」
「だから藤井はだめだ」
「へぇー、そうなんだ。へぇーそっかー、へぇー、なるほどねぇー。ま、がんばってね」
「ちょ、ちょっとなっちん!?ちょっとっ!」


今わたしは氷室先生の家に同居している。実を言うと4月になったばかりの頃、意を決して彼に結婚してくれと迫ったのだ。だけど、予想以上に氷室先生(心の中ではいつも零一さんって呼んでるけど)は難攻不落で。なんとか両親が海外赴任するからってことで家に上がりこんだまではよかった。

そう、そこまではよかった。

だけど、どうにも彼は他人行儀でわたし達には目もくれずマイペースに自分のことだけをしている。まるで一つ屋根の下に家族が二つあるように。もしくはわたし達の存在に気が付いていないかのように、(恐らく)今まで通りの生活を頑なに守り通しているのだ。
時折、尽がちょっかい出しても涼しい顔して受け流し、わたしが食事に誘っても決してテーブルにはつかないし。だけど、夕飯を冷蔵庫に入れておくとちゃんと食べて、おまけに食器をきちんと片付けてくれたりはする。だからわたしの作る食事に不満がある訳でもなさそうだし、生活自体をそう厄介だと思っている様子でもない。ただ、どこまでもよそよそしいだけなのだ。

はっきり言って非常に手のかからない人、だった。
でもちょっと淋しいなぁ。





てなわけでもうすぐ夏休みで期末試験も無事終わって、開放的な気分ではある。
だけど今なっちんに家に突撃されるとあまりにも差し障りがある。さすがにわたしだってそのくらいわかる。だけどね、だからって葉月くん嘘吐いちゃダメだよ。

「葉月くん、さっきのだけどごめん話合わせてくれただけでしょ」
「いや、俺お前のこと今度誘おうと思ってた……。迷惑……だったか?」
「えっ、いや、その、あの」
「じゃあ、今週の日曜日10時に駅前広場の噴水の前で待ってる……。来るまで待ってるから……俺」
「ちょ、ちょっと葉月くんってば……!」

なんてマイペースなの。
そんなこと顔赤らめて俯き加減で言うことじゃないでしょ。

いや、ちょっと待て。さっきのは本当にデートのお誘いだったりする?
でもわたし別に葉月くんのこと、どうこう思ってないんですけど。
なんでいろんな女の子達を差し置いてわたしなの?



、何をしている。もうチャイムは鳴ったはずだが」
「は、はい!」
「早く座りなさい」


あーあ、零一さんに叱られちゃったよ。
期末テストの成績も微妙だったし、中々零一さんの言う『エース』には到達できそうにないなー。
でも、『エース』にならなきゃわたしの未来はないのよ。
がんばろうっと。
そして卒業までには完全無欠な『エース』になって、ご褒美をもらうのだっ!





。今日は授業中ぼんやりしていただろう」
「えっ?気付いてましたか?」
「ああ、心ここにあらずと言った様子だった。何か悩みがあるのなら『教師』として相談に乗るが」
「えっと……ですね。例えば、例えばですよ。今まで何とも思ってなかった相手から突然デートに誘われて、来るまで待ってるって言われたらやっぱり……行くしかないんですよね……」
「なんだ、それは。君自身のことか?」
「た、例え話ですよ。あくまで例えばってことですって。やだなー先生ってば」
「私はいかなる理由があろうとも約束は破るべきではないと思うが」
「でもね、誘われた方は相手のことなんとも思ってないんですよ」
「だが、約束は約束だ。ところで誰に誘われた?」
「は、葉月くん……です。でも、でも、わたし葉月くんのことなんとも、全く、全然、微塵も好きじゃないんですよ」
「ふむ、そうか。早く寝なさい」
「へっ……?」

珍しく彼の方からわたしに声を掛けてきたというのに、話を聞くだけ聞いて、アイスコーヒーの入っていたグラスをキッチンに持って行く。そしてそのまま読みかけの本を持って寝室に引っ込んでしまった。

まさか、怒ってるわけじゃないよね。
でも行くなよって言ってほしかったな。
嘘でもいいから。
例え『教師』としてでもいいから、学生の本分をわきまえろって言ういつものセリフででもいいから言って欲しかったな。

行くなって。


零一さんにとってはただの迷惑な女子高生としか思えないんだろうけど。
でも、わたしは初めて会った時からずーっとあなたと結婚することしか考えてなかったんだし。もちろん小さい頃からのおばあちゃんの刷り込みってのもあると思う。女学校時代の氷室先生のおばあさまとの楽しいお話を聞かされて育ったし、そんな風に仲良しだった二人が羨ましいとも思ってた。
だけど、6歳の時本物の氷室零一さんに会ってからは、あなたがわたしの王子様になっちゃったの。
あの時もらった学生服の金ボタンや、そっと撫でてくれた手のひらの感触や、だっこしてくれた腕の暖かさも全部覚えてる。
だから本気でわたしはあなたが好きなんですよ。
って、毎日毎日あの無愛想な背中に向かって叫んでるのに、零一さんと言う人はしらんぷり。
気付いているのかいないのか、どこまでも彼はわたしの気持ちを無視し続ける。



わたしが婚約者ってそんなに迷惑ですか?
そんなに嫌なことですか?

もしこのまま葉月くんとお付き合いしちゃっても気にならないんですか?
ねえ、零一さんってば。

わたし、このまま浮気しちゃいますよ。
って、ちゃんと付き合ってるわけじゃないから、浮気じゃないか。



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