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Like Someone In Love 第4回



家での夕食は思いの外美味であった。
いや、この際そんなことはどうでもよろしい。


俺が問題にしたいのは、なぜと婚約しているのか、と言うただその一点のみなのだ。
夕食前、の父親は妙に含みを持たせた言い方をしていた。果たしてそれ程もったいぶるような内容なのだろうか、それとも婚約と言う言葉の裏に何かもっと驚愕の真実というものが隠されているというのだろうか。どちらにせよ、今日この場ではっきりしてもらわないことには、今後どのようにに接すればよいのかわからないのだから。

やがて、食事を終えてリビングに移動した家の面々は、俺を取り囲むようにしてそれぞれの恐らくは指定席に座る。そして、は当然のように俺の隣に座る。

「お父さん。先ほどの話の続きなのですが」
「えっ?ああ、そうそう婚姻届いつ出しに行く?それから君の方の保証人は誰がいい?式はこの際だから省略しても……」
「コッホン!私はそのような話の続きを聞きたいのではありませんっ!なぜお嬢さんと私が結婚しなくてはいけないのかという一点のみについて、手短かにお聞きしたいのです」
「やっぱ……聞きたい?」
「当然です」
「そうか……仕方ないなぁ。じゃあ言うけど、絶対に馬鹿にしたり笑ったりしちゃだめだよ」
「はい、わかりました」

北川父はぐっとコーヒーを飲むと、俺の方をじっと見てからおもむろに口を開いた。

「実はね、君のおばあさまと私の祖母が大親友でね」
「申し訳ありません、今そのこと何の関係があるのでしょうか」
「まあまあ零一くん、きちんと説明を聞きたいんだろう?じゃあ黙って最後まで聞きなさい」
「……」
「でね、よくあることに女同士の友情が高じちゃったんだな、これが。それで二人は考えた。私達は女同士だから結婚なんてできないけれど、子供ができたらぜひ一緒にさせましょうねって。だけどね、君も知ってると思うけど氷室さんちにできたのは男の子が一人、家にできたのは男が二人。これじゃあ当然結婚なんて無理だわな。そんでその頃まだ健在だったばあさま達が協議して、次の代へ持ち越したって訳さ。そうしたらね、今度はうまいぐあいに君が産まれてさ、ずいぶん年が離れちゃったけどなんとかこっちにも女の子ができたからね。それで両家で再び協議した結果OKと……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
「なんだい?」
「そんな理由で俺とは婚約者にされたっていうことですかっ?」
「そうだよ。だから笑うなって言っただろう」
「笑うとか笑わないとかそんな次元ではありません。大体この21世紀にそんな時代錯誤なことが許されるはずがない」
「そんなこと言ったってね〜、もう決まってるんだからいい加減諦めてくれない」
「嫌です」
「しかしね〜、年のこととか君達の現在の関係はちょっと横に置いといて冷静に考えてごらんよ。こんないい子いないよ、いやホント親ばかでもなんでもないけどさ。それに君今フリーでしょ、彼女いないんだから試しに付き合ってみたらどう?」
「う……いや、それはそうなんですが……しかし……!」
「じゃあ、いいじゃないの。ウチの娘もOKだって言ってるし」
「いや、そういうことでは無くて……私が言いたいのは……つまり……」
「つまり……何?」
「俺にもにも選択の自由があるはずです。俺はともかくはまだ子供です、これから好きな男に出会うかもしれませんし、将来結婚という選択すらしないかもしれない。その無限の可能性を今から奪い去ってどうしようというんですか」
「あの……先生」
「なんだ、。君もやはり嫌だろうこんなこと」
「いえ、全然」

にっこりとは満面の笑みで俺の問いに答えた。
今俺は目の前で力一杯君を拒絶したんだぞ、それでもまだそんなことを言っているのか?これはロマンティックな小説でも映画でもマンガでもない、紛れもない現実なのだぞ。11も年上の俺と君が付き合って何が楽しい。少なくとも俺にはとうてい楽しいとは思えない。なのにいきなり結婚などどうかしている。時代錯誤も甚だしい。話にならない。


「でさ、零一くん。保証人とかどうする?結婚式は卒業してからでもいいけどさ、とりあえず婚姻届出すのはOKってことで……いいよね?」
「経緯は先ほど伺いました。では、質問を変えます。決まっていることとおっしゃるならなぜ今すぐに結婚しなくてはいけないのでしょうか?明確な回答をお願いします」
「そ、それはだね、えーっと。あ、母さん、ちょっと例の書類持ってきて」
「なんですか?まだ何かあるんですか?」
「理由はこれだよ」

母が持ってきたもの。
それはどこかの大学のパンフレットのように見えた。これと結婚騒動に一体何の関係があるのだ。

「これは?」
「早々に行かなくちゃいけないんだよ、実は」
「どちらに、ですか?」
「ああ、実はちょっとスコットランドにね」
「はぁ?」
「妻がね、彼女の専門は比較文化なんだけど、今度客員で行くことになって。いい機会だし私も一緒に行くことにしたんだよ。会社の方もねついでにあっちの支店に転勤してもいいってことになって……」
「ちょっと、待ってください。私には話がよく見えないのですが」
「ああ、ごめんごめん。つまり行くのは私と妻の二人だ。子供たちは置いて行こうと思っている。そこで後見人も兼ねて君と娘をさっさと結婚させてしまおうと思ったわけだ。すまない、こればかりは家の都合だ」
「まあそういうことならば後見人にはなりましょう、しかしの夫にはなれません」
「なんで?」
「私はまだきちんとを理解できていませんし、も私のことを何も知らない。第一教師と生徒が婚姻関係を結んでどうするんですか?」
「それはそうなんだけどね……」
「私が時折この家を家庭訪問でもすれば済むことでしょう」
「それがね……、これ見てくれる?」
「賃貸……契約書……?」
「そう、来月からこの家は知人に貸すことになっている。したがってこの子達は来月からいや正確に言うと2週間後にはもう住むところがない。君が娘を預かってくれなければ二人はたちまち路頭に迷うってことだね。どうする?責任感の強いマジメな氷室零一くんとしては」
「う……し、しかし……だからといって無闇に生徒を自宅に入れることは……」
「だから君の妻にしてしまえば……」
「だから……それは!」
「零一さん、どうしてもだめですか?だったら一人暮らししてる葉月くんとか姫条くんに相談しますけど」
それは絶対にだめだっ!
「じゃあわたしどうしたら……」
「君達は俺が預かる。しかしとの結婚は無しだ」
「じゃあお前達いい子にしてるんだぞ」
「えっ?本気ですか、お父さん」
「もちろん100%本気で言ってるよ。頼んだよ、零一くん。別に娘に手を出したって構わないしさ」


ちょっと待て。
後2週間で二人が俺の家に住むことになるだって。
どこに寝かせる?
どこで寝る?
食事は?

そもそもと俺は同じ学校に通わなくてはいけないのだ、ばれたらどうする。


今更何を言っても仕方がないとは思う。
しかし、そうか、あの時のあの光景はここにつながるのか。


やはり……悪夢だ……。



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