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Like Someone In Love 第3回



「氷室くん、いや零一くんと呼ばせてもらおうか。いやー立派に成長したもんだ、うんうん予想以上に上出来だ。なあ、母さん」
「ええ、本当に。あの頃も中々の美少年ぶりでしたけど、眼鏡を掛けてるのも頭が良さそうでポイントアップだわ。あー、わたしがの娘だったらよかったのに」
「こらこらのお婿さんになるんだぞ、零一くんは」
「あら、そうでした。そんなところに立ってないでどうぞそこに座って。あ、紅茶も飲んでね」
「はい、頂きます」


何なんだ、この能天気な家族は。
確か入学式で会った時はもっとこう知的な雰囲気の漂う落ちついた一家だったように記憶している。ご両親を見ても(と、言っても確か3回目のはず)、さっぱりこの間彼女が口にしたような状況が思い出せない。記憶力にはかなり自信があるのだが、に関するものだけはすとんと抜け落ちているようだ。

しかしこの家族。
父上は有名企業の部長だと言っていたし、母上も大学で教鞭を取られているという話だった。
それが何なのだ、このそこはかとなく漂う軽い空気は。


しかも、しかもだ。すっかり俺がと結婚することを前提として会話をしているのはどうしてだ。俺はひとかけらも納得もしていないし、第一なぜ教え子と結婚などしなくてはいけないのだと、当然だがそう思っている。

出された紅茶を一口飲んだものの、どうにも落ちつかない。
恐らくこの家族の中では暗黙の了解になっているのだろうが、俺にはさっぱり話が見えないからだろう。
そこから生じるとてつもない違和感。
そう、非常に違和感を感じると共に微妙な居心地の悪ささえ感じるのだ。


「ところで、零一くん。さやかさんとはきっぱり切れたんだろうね」
「ぶっ……!」
「おいおい大丈夫かい?母さん、タオルタオル」
「な、な、なぜそれを……?」
「そりゃーもう、大事な大事な娘を君と結婚させようかというんだ。調べもするさ。確かさやかさんの前は茉莉さんで、その前は……」
「お、お父さん、一体どこまでお調べになったんですかっ」
「えっ?どこまでって君の女性関係のことかい?そうだなー、確か彼女が初めてできたのは高校生の頃だったろ、でも大学進学とともに別れた。その後は大学生の時に……」
「それ以上は言わないでくださいっ!今は関係ない」
「そうかな。いや、しかし律儀な男だな、環境が変わる度に恋人をかえるってのは」

と言って豪快に笑う父。
聞いているのか聞いていないのか、じっと俺を見る本人。
そんな目で見るな、俺とて健全な男だ。
むしろこの年になるまで恋人の一人もいない方がおかしいだろう。

悪かったな。会う機会が減ると途端に別れがくるんだ。仕方がないだろう。



-----いや、俺の女性関係などこの場ではどうでもいい。もっと核心部分を聞きたいのだ。



「申し訳ありませんが、私がくんの『婚約者』だという経緯をきちんと話していただきたい。それによっては対処の方法も」
「ああそのことなら、君が生まれる前から決まってたんだよ、だから諦めなさい。でも、ぶっちゃけた話ウチの娘中々美人だと思わないかね。性格にも全くゆがみがないし、いい子だよ。どうだいかなり年下なのはまあこの際目をつぶるとしてだ。悪い話じゃないと思うがね」
「そうですね、ってそうじゃなくて。どうして決まってるのかをお聞きしたい」
「うーん、そうだねー。聞きたい?」
「はい、ぜひとも」
「笑わないかい?」
「笑うようなお話なんですかっ」
「そうとも言えるしそうとも言えない。実に微妙だね」
「しかし、そこをきちんとお伺いしないことには」
「ふぅ……仕方ない。そんなに聞きたいなら話してあげよう。あ、零一くん、ついでにウチで夕飯食べてきなさい。どうせ一人暮しで普段ろくなもん食べてないでしょ、ぜひそうしなさい。今日車じゃないみたいだから一緒に飲もうよ。ね」
「はぁ……」
「よし、決まりだ」

……なんとマイペースな一家なのだ。
場合によっては俺はこの一家に組みこまれるのか。



はぁ……、もうどうにでもしてくれ。

些か諦めの境地に陥った俺は大人しく冷めた紅茶を飲み干した。

、君は本気で俺と……俺と、その、なんだ、け、結婚したいなどと思っているのか。
やめなさい、若気の至りだ。君はまだ本当に誰かを愛したことがないから、6歳の頃の初恋を引きずっているだけだ。いっそ、葉月でも姫条でも守村でも誰か同級生と、年相応の恋愛をしなさい。それからでも遅くはない。

俺がこんなことを言えた義理ではないが、そうしなさい。
そして、それでも俺がいいのだというのなら……その時は……。



いや、その時などありえない。
あってはならないのだ。



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