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Like Someone In Love 第2回



いつになく憂鬱な日曜日の朝になった。
こんな気分は2年前に彼女と別れて以来かもしれない。
それでも、あの時はただ虚無感に襲われただけだったが、今日は少し意味が違う。
なんといっても意味不明なことを言って結婚を迫る教え子とその家族に、きちんと向かい合わなくてはいけないからだ。教師になってから今だかつてこのような困難な状況に陥ったことはなかったように思う。

しかし、氷室零一たる者、目の前の困難から目を逸らすようなことは決して……。
ないのだ、断固そのようなものに屈しては……ならないはず。


ダメだ、自分自身がわからなくなってきた。
はぁ〜、もし真実だったらどうする?
どうするんだ、一体。
なあ、氷室零一よ。



木曜日の衝撃的な発言の後、は何事もなかったような顔をしてクラス委員としての責務をきちんと果たしていた。言われっぱなしの俺は逆に拍子抜けしたものだ。であるから、やはり悪い冗談だったのだろうと一人納得していた。
だが、昨日の帰り際から再度念を押されてしまった。ダメ押しに『明日の2時に必ずウチに来て下さい、両親も楽しみにしてますから』、と言ってにっこりと微笑む彼女。ついついその笑顔につられてこちらも微笑みそうになったが、寸でのところで表情を引き締めることには成功したが、なんというかすっかり彼女のペースにはめられているような気がする。

確かには可愛らしい生徒だと思う。
成績もまあ中の上といったところだ。
友人も多く、性格も前向きで明るい。

こうなると逆に、積極的に嫌う理由を見つける方が難しいくらいだ。
しかし、担任とその生徒である限り厳しく一線を引かなくてはならない。仮に彼女のいう『婚約者』というのが本当のことだったとしても、そこのところはきちんとしなくてはいけない。



-------は、いかん。これではのペースだ。今何を考えたんだ、俺は。
-------ダメだ、ダメだ。俺は生徒を恋愛対象として見たことはないのだ。
-------今後も絶対にそんなことはありえない。俺はそんな年下は鬱陶しくて嫌いなんだ。





こんな時自分の恐ろしく律儀な性格を恨めしく思う。
確かに性格的に土壇場でしらばっくれるのは性に合わない。
むしろそのような行為はするのもされるのも大嫌いだ。
したがってここはおとなしくの家を訪問するしかあるまい。

しかし。

ああ、俺は何をやっているのだ。
ばかばかしい。
まったくもってばかばかしい。
こんなことなら今この場にさやかがいてくれたらいくらかマシだったかも知れない。そうすればとにかくの言い分を断る口実にはなったのだから。だが、もう2年も前に別れた恋人を今更連れ出すわけにもいくまい。だいたいもう別れた相手を連れて歩いたところで、二人の間にできてしまった距離は埋めようもなく、すぐにばれるだけだ。第一、そんな嘘はよくない。


やはりここは、行くしかないのだろうな。




日曜日の朝、嫌味なくらいに晴れた空を見上げて大きなため息を一つ。
日課である洗濯と掃除を簡単に済ますと、シャワーを浴び服を着替える。何を着てよいものやらわからず、とりあえずいつものスーツに腕を通す。手土産くらいと考えて思わず頭を抱えた。俺はどこまでおめでたいんだ、まったく。

あの車では目立ち過ぎるから徒歩での家に向かう。途中の公園までようやく辿り着いたが、どうにも俺はまだ観念しきれていないようだ。だってそうだろう、『婚約者』というのが本当だったらどうするのだ。俺は決してそういう趣味はない、健全な恋愛経験しかない。一回り近く年下の女子高生にそういった興味を持ったことは1度もない、こればかりは神に誓ってもいいくらい俺は潔癖だ。
10年近く昔だとすれば俺は17くらいで、彼女は6才くらい。そんな幼児を相手に何をしたんだ、俺は。

はぁ〜。
口は災いの元とはよく言ったものだ。


まだ、約束の時間には早い。
少し休んでからにしよう。

つまり、俺は行きたくないのだ。


はぁ……。
しかし、如何なものか。


「先生、こんなところで何やってるんですか?」
「うわ〜っ!」
「あー、今のすっごい失礼ですよ。まるでお化けでも見たみたいに驚くことないでしょう、零一さん」
「名前で呼ぶなと言ったはずだ、。コホン、些か驚いただけだ。君こそ何をしている」
「えへへっ、実はお迎えに参りました。逃げたりしないようにと思って。まさかと思いますけど、この期に及んでしらばっくれようなんて思ってませんよね、氷室せんせいともあろう方が」
「そ、そ、そんなことは断じてない」
「ほんとに?力一杯目が泳いでますよ」
「な、な、な、何を言うのだ。私が今まで嘘を吐いたことがあったかっ。ほら行くぞ、

実は非常に驚いた。柄にもなく、放心していたようだ。恐らくは現実逃避ではないかと思う。
それにしても突然後ろから呼びかけるんじゃない、まだ心臓の動悸が収まらないではないか。
ああしかし、何をそんなに驚くことがあるというのだ、一体。
落ちつけ、落ちつくんだ。
まだ、何もと俺が『婚約者』だと決まった訳ではないのだ。
そうだ、落ちつくんだ。


ダメだ、ダメだ。
またしてものペースだ。

あれ以来どうも俺はに主導権を握られているような気がする。
気のせいだろうか、いや気のせいではない。


楽しそうに前を歩くを見ながら、俺は今日何度目かもう判らなくなったため息をついた。



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