updated Oct.10 2001
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2275. 突然、今月で契約が終了すると言われて困っています。
 昨日、派遣元の営業担当者から電話がありました。「いまの派遣先会社との契約が今月いっぱいで終わりになりました」ということです。
 先月の半ばの時点で、この担当者から「今後も契約更新の意思があるか」と確認があり、次の更新は3ヶ月契約という話でした。
 派遣先会社は、来月に他会社と合併して新組織としてスタートするのですが、新組織の組織図にも私の名前と席が記載されていました。一昨日まで、契約が継続すると確信していました。
 たしかに、いまの契約では今月末で契約期間が終了することになっていますが、契約更新をしないという通知は昨日がはじめてです。
 常識的には、契約を更新しない場合1ヶ月前には知らせていただけるはずだと思いますが・・・。今回、突然に契約終了となったのは、派遣先会社の現場では、今月一杯ということで人事の方へ知らせていたのに、人事部で情報が滞っていたからだそうです。私には「申し訳ない」の一言だけしかありません。
 契約の継続を確信していましたので、すでに通勤定期券も購入しております。この場合、通勤定期券代金、1ヶ月分の給料の保証などを請求できるでしょうか? このままでは、泣き寝入りです。仕事もすぐあるという保証もないし、生活もできません。

 労働者派遣の場合、派遣元、派遣先、派遣労働者の三者の関係になります。通常の労働関係とかなり違った判断になることがあります。まず基本的な点として、派遣先と派遣労働者の間に労働契約関係(雇用関係)はありません。
 解雇というのは、この労働契約を使用者から一方的に解約することです。したがって、派遣労働者を解雇するのは派遣元しかありません。派遣先が派遣労働者を解雇することはできません。
 また、派遣元の「解雇」についても下記の通り、派遣労働者だからと言って、勝手・自由にできるわけではありません。

 【1】労働者派遣契約中途解約をめぐって「誤解」が少なくありません(注意!)

 派遣労働者の方は、直接の就業(就労)先である派遣先から「解雇」されたと「誤解」する事例が少なくありません。しかし、派遣先と派遣労働者の間には労働契約関係(雇用関係)はない、というのが労働者派遣の特徴です。派遣労働者を「解雇」するのは派遣元にしかできません。

 派遣先と派遣元の間の労働者派遣契約を派遣先が契約期間途中で一方的に解除することは許されません。派遣先の法的責任、とくに、派遣労働者の雇用責任も問題になります。1996年の労働者派遣法改正にあたって、派遣先からの労働者派遣契約の中途解除をめぐる弊害が大きな問題になりました。
 本来であれば、直用従業員と同様に、整理解雇の4要件に相当するものを労働者派遣契約の解除について派遣先に課することも考えられます。しかし、法改正としては、労働者派遣契約のなかに、中途解約の場合には、派遣先が派遣元に対して損害賠償責任を負うことを明記することが義務づけられ、派遣労働者に対して派遣元が示す就業条件明示書にも、労働者派遣契約中途解除の場合に、派遣元としての就労あっ旋や雇用保障の努力義務が明記されることになりました。
 労働省からの行政指導では、派遣先が、系列会社・関連会社などに派遣労働者の就労をあっせんすることなどを求めることができます。
 【参考】派遣元・派遣先が講ずべき措置に関する指針(労働省告示)
 少なくとも、派遣先が派遣期間途中に労働者派遣契約を解約する場合(中途解約)でも、労働者と派遣元との間の労働契約関係(雇用関係)は残り期間いっぱい継続します。派遣元に対して残期間の雇用責任(従来と同等以上の条件の派遣先紹介義務、それができないときの賃金相当額支払義務、最低でも労働基準法第26条の休業手当支払義務など)を追及することができます。この点をしっかり理解してください。
 この中途解約の問題については、下記のFAQを読んで下さい。

 なお、中途解約の場合、派遣元の雇用責任を追及することが第一です。しかし、派遣労働者の弱い立場もあって、争わずに、すぐに雇用保険受給を思いつかれる方が多いと思います。しかし、雇用保険の実務では、登録型派遣労働者の場合、簡単には「離職」「失業」を認めてくれない、というハローワークの運用があるようです。

 3317. 派遣先の都合で契約が短縮されたのに1ヵ月待たないと離職事由を「自己都合」とされ、雇用保険を支給制限されると言われました。派遣の場合、仕方がないのでしょうか?

 この運用そのものに問題はありますが、本来の派遣元の雇用責任を追及することが筋ということになります。労働省(現厚生労働省)も下記の通り、派遣元の雇用責任を明確にする通達を示していますので、労働者としても、この点もしっかりと理解しておくことが必要です。

 派遣110番のホームページに特別の解説記事を掲載していますので、読んでください。
 中途解約の際に休業手当の周知徹底 労働省+脇田意見(朝日新聞1999.11.21)

  【2】派遣元による解雇と解雇制限

 ご相談の場合、労働者としては、「契約期間の満了」ではなく、「解雇」だとして争うことがポイントです。
 ご相談者の場合だけでなく、派遣労働者の場合には多くが、派遣元(使用者)との間に有期契約(契約期間の定めがある労働契約)が結ばれています。しかし、とくに問題がなければ、期間を過ぎても更新をして継続することが予定されている労働契約と考えられます。
 有期契約の場合、本来であれば、決められた契約期間だけ労働者は労働する義務を負い、使用者は雇用を保障することになっています。契約期間の満了で労働契約は終了するのが建て前です。
 これに対して、一般の正規従業員は、長期の雇用を前提にしており、「期間の定めのない労働契約」を結んでいます。この場合、労働者からの退職と使用者からの解雇で、当事者から労働契約の終了を申し出ることができます。
 このうち、使用者から一方的に労働契約を終了させる「解雇」は、労働者にとっては生活の手段である雇用を失うことになりますので、結果が重大です。そこで、解雇には、様々な法律上の制限(差別的解雇の禁止、労災・産休中の解雇制限、解雇予告など)が設けられています。
 さらに、これまで多くの労働者が解雇反対の取り組みをしてきました。裁判で争われた事例のなかで、裁判所は、使用者の「解雇権の濫用(らんよう)」は許されないことを確認しています。

  【3】短期契約の反復更新と更新拒否

 使用者は、こうした解雇制限を逃れるために、短期契約の期間満了という方式を利用しようとします。つまり、短期の有期契約を反復して更新し、会社の都合で一方的に契約更新を拒否することが広く行われるようになりました。


 つまり、契約更新拒否は、これまでの継続的な雇用を一方的に打ち切る解雇ではなく、新たな「採用をしないこと」である、という理屈です。
 しかし、短期契約とはいえ、これを反復して更新していれば、一つずつは鎖(くさり)の輪でバラバラですが、長くつながれば、「連鎖(れんさ)」(英語のチェーン chain)となり、実態としては長く続いた雇用を継続しているのと同様な状態を生み出すことになっています。
 ご相談の事例も、
「先月の半ばの時点で、「今後も契約更新の意思があるか」と確認があり、次の更新は3ヶ月契約という話でした。」
 ということですので、短期契約ではありますが、長期に労働力を確保しようとする意思があらわれています。
 長期の雇用(労働力確保)はしたいが、解雇制限を受けるので自由に労働者のクビを切れないのは困る。こうした使用者(経営者)の得手勝手な考えを反映したのが、短期契約の反復更新と実際には解雇の意味をもつ「契約更新拒否」なのです。
 裁判所は、使用者のこの得手勝手な理屈を否定し、実態に基づいて、有期(短期)契約の反復更新拒否についても、解雇と同様の制限がある、という判断を下しています。つまり、脱法的な契約更新拒否を許さないというのが、裁判所の立場です。
 最近では、1998年4月24日、盛岡地裁が、雇用期間の定めがあるパート(派遣)労働者についても、「パート労働者が契約更新に相当程度の期待を持つ事情があり、経営者に拒否できる正当な理由がない場合、契約更新の拒絶は権利の濫用であり無効」という判決を言い渡しました。ビルメンテナンス会社に一年契約で雇用され、病院の食堂に派遣されていた労働者の事例でした。
 有期(短期)契約の更新拒否=解雇と考えられるとすれば、解雇には正当かつ合理的な理由が必要ですので、短期契約更新拒否も同様に理由が必要ということになるのです。
 この解雇理由については、【4】で詳しく述べます。
 ところで、労働基準法の最低基準として、解雇をする場合、使用者は少なくとも30日前にその予告をするか、予告をしないときは平均賃金の30日分以上の「解雇予告手当」を支払わなければなりません(労働基準法第20条)。
 登録型の派遣労働者も、派遣期間が2ヵ月を超える労働契約の場合や派遣期間が2ヵ月でも契約を延長されていたり、契約が反復更新されている場合には、この解雇予告手当の支払が義務づけられます。
 そうしますと、ご相談者の場合には、契約が2ヵ月を超えているようですし、反復更新を予定していたとのことですので、派遣会社には、解雇予告の義務か、それに代わる手当を支払う義務があるということになります。
 平均賃金の「30日−解雇通告から解雇までの残り日数分」を解雇予告手当として受け取ることができます。例えば、解雇まで10日であれば、30−10=20日分となります。
 解雇予告手当を支払わなければ、労働基準法違反ですので、労働基準監督署に申告することができます。監督署からの是正や行政指導を通じて、解雇予告手当の支払を派遣会社に強制してもらえます。もし、派遣会社が、どうしても従わないときには、労働基準法第20条には罰則がありますので「刑事告発」をすることもできます。罰則の適用を受けますと、派遣会社は、労働者派遣事業の許可を取り消されるなどの大変な事態につながりますので、法律に従うと思います。

 ただし実際的な対応としては、解雇されたときにはよく考えて、すぐに解雇予告手当を請求することを考えないで下さい。  労働者から、解雇予告手当を請求したり、それを受け取ったりしますと、労働者も解雇を受入れているのだと取られかねないからです。
 解雇が不当だ思われるときには、解雇そのものを拒否する態度が重要になります。解雇予告手当の受け取りを拒否し、次の日にも堂々と出勤して、本来の労働契約通りに就労(勤務)を続け、「解雇不当=>就労継続」の姿勢を示すことも一つの方法です。
 いずれにしても労働者が解雇を拒否する意思を示すことが重要です。地域労働組合などの援助も得て解雇の撤回を求めることが筋です。解雇予告手当は労働基準法の最低基準ですので、時効(2年間)で消滅しない限り、後からでも請求できます。

  【4】派遣先との労働者派遣契約打ち切りと派遣労働者の解雇

 派遣先と派遣元の間には、労働者派遣契約が締結され、それに基づいて労働者派遣が行われます。派遣先が、この労働者派遣契約を契約期間の途中で解約することは、「契約違反」となります。その場合には、【1】で指摘したとおり、労働者としては、契約期間いっぱい派遣元の雇用責任を追及することができます。
 しかし、ご相談のように、労働者派遣契約の契約期間が終了したときには、「中途解約」とは言えなくなる場合が多いかもしれません。  経営組織の合併などの業務上の必要に基づいて、従業員の削減をすることを目的にした解雇は「整理解雇」といいます。労働者に責任のある懲戒解雇などと違って、労働者には責任がありません。会社の勝手な都合で解雇するということですので、判例では、特別に厳しい要件が使用者に課されています。通常、整理解雇の4要件と呼ばれているものです。
 つまり、
 (1)整理解雇の必要性があること(会社の維持・存続のために整理解雇が必要であること)
 (2)解雇回避の努力を尽くしたこと(会社として解雇回避のために他の手段を尽くすなど最大限の努力をしたこと)
 (3)人選が合理的で公平であること(整理の対象となる労働者を公平に選び、合理性があること)
 (4)労働者との協議・手続を尽くしたこと(解雇の必要性などについて手続をふんで十分な説明をし、納得を得るように努めたこと)
 の四つの要件です。
 もし、ご相談者が、派遣先の直用の従業員であれば、今回の解雇は、整理解雇に当りますので、この4要件を満たしていなければ、裁判になれば、解雇は無効と判断されることになります。
 ところが、派遣労働者の場合には、派遣先で、直用の従業員と同様に派遣先の指揮命令を受けて働いていますが、派遣先の従業員ではなく、派遣元との間に労働契約があることになっています。派遣先が、派遣元との労働者派遣契約を解除し、派遣元がそれを理由に派遣労働者を解雇することになります。
 つまり、派遣先としては、整理解雇の4要件などの制限を受けることなしに、労働者派遣契約の解除によって、実際には派遣労働者を「解雇」し、しかも解雇の責任は派遣元に転嫁できるという、使用者にとってはきわめて好都合な結果を生み出すことができることになります。
 逆に、派遣労働者としては、直用の従業員の解雇をめぐって裁判例で確立してきた解雇制限の判例法理などを利用することが難しいことになっている訳です。派遣労働者が「解雇と背中合わせの不安定な雇用」と言われるのは、こうした不利な地位があるからです。

 しかし、不安定雇用と呼ばれる派遣労働者と言っても、派遣先や派遣元が好き勝手に解雇できるものではありませんし、解雇に対抗できる権利や手段が法的に保障されています。こうした権利や手段を活用することによって、不当な解雇をはねかえし、雇用を保障させたり、雇用に代わる金銭的な補償を獲得することができます。これまでにも、多くの解決事例があります。

  【5】派遣先の法的責任の追及

 ご相談の場合にも、【1】で指摘しました通り、まず、今回の事態が、派遣先からの派遣元との労働者派遣契約の解除(中途解除)ではないかを確認して下さい。
 派遣労働者と派遣元との契約期間と、派遣元と派遣先の労働者派遣契約の契約期間とは一致していません。ご相談内容からは、派遣先は派遣元との労働者派遣契約の継続を前提にしているようですし、労働者派遣契約としては、今月末ではない長期の継続を予定しており、今回の労働者派遣契約解約が実質的には中途解約であると推測します。
 法的・形式的には契約期間満了で派遣先は責任を逃れるように思えますが、違法な派遣(無許可派遣、請負偽装派遣、長期派遣、二重派遣、事前面接をともなう派遣など)の場合には、形式にとらわれず実質的な指揮命令者であった派遣先に雇用責任を追及できる場合があります。
 労働者が、労働組合に相談して労働組合の援助を得て交渉力をもてば、派遣労働者であっても、派遣先と団体交渉をすることができます。労働者派遣契約の途中解約については、労働省の行政指導としても派遣先に一定の責任(系列会社など他の就労先の斡旋など)を認めています。労働組合を通じて、関連会社への就労などの要求を示して団体交渉をすることが考えられます。
 長期の違法派遣の事例で、期間満了を理由に契約更新を拒否された労働者が、地域労働組合の援助を得て、派遣先で直用(嘱託社員)になって雇用を継続し、待遇を大幅にアップさせた事例もあります。次のページを参照してください。
 解雇を撤回させ、派遣先に直用社員化を実現

  【6】派遣元に対する法的責任の追及

 派遣元に対しては、【3】で示しました解雇予告手当だけでなく、雇用契約を結んだ使用者として、雇用継続を中心とする雇用責任を追及することができます。
 まず、就業条件明示書に記載されている「労働者派遣契約中途解除」の場合の措置として、通常は、他の派遣先の紹介などの措置が記載されていると思います。この措置をとるように派遣元に迫ることが可能です。
 次に、契約更新拒否は不当な解雇であるとして、雇用の継続を求めることができます。解雇を争うということになります。
 ご相談者が指摘されていますように、派遣元には、契約更新を期待させた営業担当者の発言があります。法的には、契約更新の「期待権」があるのに、それを侵害したことについて、金銭的な賠償責任があるという理屈の構成も可能です。3ヵ月の契約更新が実際に行われている場合には、3ヵ月分の賃金全額の支払を求めることが可能です。
 少なくとも、次の仕事を見つけることができないまでご相談者を引っ張って期待を持たしたことについて、派遣元の責任を追及することが可能です。ご相談にある「通勤定期」の代金もこうした期待権侵害の具体的な被害として損害賠償の中に含めて請求することが可能だと考えます。他にも、年次有給休暇が6ヵ月の勤務で最低10日間発生します。もし、残りの期間にこの年次有給休暇を請求しても未消化分が残ったり、使用者(派遣元)がこれを拒否したときには、その取得できなかった年次有給休暇分も損害として損害賠償請求できることになります。
 派遣労働者個人では、交渉して解決を図ることは実際には難しいと思います。地域には、労働者個人で加入ができる地域労組や地域労連といった組合があります。こうした労働組合に力になってもらい、その顧問弁護士から法的なアドバイスを得て、具体的な雇用保障を追求して下さい。少なくとも、それに代わる金銭的な解決を図ってください。
 関連したFAQの項目を見て下さい。
2300. 4年も同じ派遣先会社の同じ部署で働いているのですが
2320. 半年契約のはずであったのに5ヵ月で辞めろと言われた
2380. もう不要(解雇)だといわれたのですが
3133. 契約満了前に残っていた年次有給休暇を行使したい
4070. 派遣先に団体交渉を申し入れようと思う

目次に戻る
110番の書き込み欄へ