お鮨の名店で「きよ田」の名前を聞いたことがある方は多いことでしょう。この店が閉店したことを、女優の高峰秀子さんが文藝春秋に書いたエッセイで知ってasktakaはがっかりしました。
「きよ田」は銀座の泰明小学校の前の路地を入ったところにあるカウンターだけの小さな店です。asktakaがこの店に思い入れをもっているのは、先代の鶴八の親方が引退間際に言った言葉が脳裏に残っているからです。
asktaka:
もし気前のいい客がいて、お金に糸目をつけず好きな鮨屋でご馳走するといわれたら、どこに連れて行ってもらいたいかしら?
親方:
(即座に一言)きよ田しかないですねぇ。
とまぁ、こんなやりとりがあったのです。
鶴八の親方が何故きよ田を薦めたかについては、高峰さんのエッセイを読むとよく分かります。
“決して(そこいらの威勢のいいすし屋のように)バカ声などは出さない。入口の格子戸をカラリと開ければ「あ、いらっしゃいまし」と、静かな声で迎える。二、三人の白い仕事着の職人さんが現れたり消えたりするけれど、彼らもまた気くばりは抜群だがこちらから話しかけない限りほとんど音声を発しない。”
なるほど、鶴八もこんな雰囲気でしたね。もちろん味の方も天下一品なのは言うまでもないですが、いい鮨屋には達人との立会いのように静寂の中に何か張り詰めた雰囲気があるのは確かです。この間合いが何ともいえず、お鮨を食べる醍醐味の一つはこのへんにあるのだな、と思ったものです。
きよ田はかっては小林秀雄、今日出海、白洲正子、安岡章太郎、阿川弘之が常連だったし、最近では井上ひろしさんなどが顔を出していたようです。おっと阿川さんはまだご健在ですけどね。
asktakaはもう少し貫禄(というか品格?)がついて、自然体でお鮨とお店の趣きを味わえるようになってから、きよ田にお邪魔しようと思っていましたが、それも適わぬ夢となりました。世紀末とはこうした時代の移り変わりもあるのですね。名人、名店が消えていく昨今、とても寂しく思う、asktakaでした。
(2000年11月19日(日))
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