先日の「独り言」で散歩の話をしました。どうも私の場合、散歩と食べ歩きは切り離せないのです。そこで、今回は私のお気に入りの和食の店のうちお鮨屋さんを紹介することにします。続編として、その他の和食、お肉料理、洋食系、中華系、その他を考えています。
お鮨といえば、有楽町の駅前にあった“すしや横丁”を思い出します。今の交通会館あたりまでが少し小高い丘のようになっていて、お鮨やさんが集まっていました。子供の頃はその中のある鮨屋で家族と一緒によく食事をしたものでした。確か1964年の東京オリンピックの前後に、横丁一体が取り壊されたので、皆さんはご存じないかもしれませんね。
その頃の私の好物は、トロとトロ鉄火、ヒモキュウ巻き、平貝で、いつもこれしか食べませんでした。祖父と一緒に行くと、明治の人なので、鮪は赤身しか手を付けず、昔はトロは人間が食べるものではなかった、とかいってすましていたことを思い出します。
大人になってから、自分で行くようになったお鮨屋さんは「金寿司」です。以前は神田の三省堂の裏にあったのですが、小川町郵便局のそばに移転し、その後現在の店に落ち着きました(JR御茶ノ水駅から明治大学の前を通って、駿河台下の交差点の手前のファストフードの店の角を神保町方面へ右に折れます。すぐカジュアルウエア・ショップが目に付きますから、その角を右に入って3軒目あたりです)。
金寿司の目玉は、マグロの頭をスプーンで引っかいた“ひっかき”です。ちょっと中落ちと似た味ですが、一味も二味も違います。
“ひっかき”は親父さんからの味を引き継いだものです。70年代の前半頃に亡くなった、映画評論家の荻昌弘さんがある雑誌に“ひっかき”について書いていました。それを見た私の友人と二人で、当時三省堂の裏にあった店に行ったのがきっかけでした。その時のはじめて“ひっかき”を食べた際の感動は今でも忘れません。そして、昨年亡くなった、すし職人としての親父さんの顔も。
現在の店は、2代目の誠(せい)さんのセンスの良さが表現されていて、落ち着いた店になっています。今は“ひっかき”以外のネタも揃っていますから、鮪の頭は気味が悪いという方でも大丈夫です。でも、少し手が空いたときに、鮪のほっぺたを焼いてもらうのも、また格別ですよ。老化防止にもなるようですから。それから、カウンターが禁煙なのも気に入っていますし、なんといってもお酒をたくさん飲んで、つまんで、握って、1万円でお釣がくるのも人気の原因だと思います。
30代の半ばになって、ある方に神田神保町の「鶴八」に連れていかれてから、すっかり鶴八フアンになりました。当時は先代が握っていて、引退して丸2年になりますが、先代の頃の江戸前の握りは、姿も味も天下一品で、しかも値段はリーズナブルでした。現在は二番弟子が後を継いで、先代の名人技を引き継いでいますし、二人で2万円前後なのでお値打ち感もあります。ただ、先代と比べるのはちょっと酷ですよね。相手は名人ですからね。
私は鶴八で鮪の三点セット、つまり、赤身、中トロ、大トロ、それから平目や鱸(すずき)などの白身の魚、鯵、こはだ、穴子、貝類をいただきます。この店で鮨だねとして初めて美味しいと感じたネタは、鯵、さより、鱸(すずき)、こはだ、ミル貝などです。鯵とさより等は独特の酢洗いでおまじないするため、全く生臭さは感じない、病み付きになる味ですよ。
ただ、残念なことに、たまにカウンターでたばこを吸う人がいることです。せっかくの味が台無しになるので、鮨屋での喫煙はご遠慮願いたいですね。
最近では、一番弟子がやっている新橋鶴八も結構人気があるようです。私にはこちらの方が近くて便利なのですが、まだ先代に義理立てして顔を出していません。近くの行きつけの料理屋の女将に聞くと、なかなかよい仕事をしているようです。
なお、先代が書いた「神田鶴八鮨ばなし」は何と19刷も売れているので、皆さんも本屋で見かけたことがあるかもしれません。引退後、次の本が出るはずなんですが、どうなりましたかね。
それから、渋谷の桜ヶ丘にある「すし処紅池」は面白い店です。この店は私の友人の住まいのそばだったので、かってはよく行きました。星鰈とかぶどう海老など、よその店ではめったにお目にかかれないネタを賞味できるのが特徴です。その上時々、浅野ゆう子が来ていて観賞できますよ。隣に座っていると、失礼なので顔は見ないが手はよく見えます。随分荒れた手が印象的でした。一緒に髪の毛が長いころの工藤静香もよく来ていて楽しめました。
ところで、この店はネタはいいのですが仕事が遅いのが玉に傷です。どうもちゃんとした鮨屋で修業したことがないらしい。一度、二人で行ってほとんど貸し切り状態の時、いつもの2〜3倍取られて以来足が遠のきました(いつも会社に請求書をまわしてもらっていたので、その場で文句をいえなかったのです。なじみの店でもあり、その場で払っていれば、”勘定どうなってんだ”といって一件落着だったかも)。食欲が勝って、近いうちにまた顔を出すような気がします。
上記の他、老舗のお鮨屋さんや話題の店にはほとんど顔を出しています。だが、今でも贔屓にしているのは近場の鮨屋を除いて、鶴八と金寿司だけです。自腹で行ける店として、asktakaのお薦めの2店です。ちなみに、先代の鶴八の親方に、一番連れていってもらいたい鮨屋はどこかと尋ねたところ、これは内緒ということでしぶしぶ銀座のきよ田をあげました。一人3〜5万円はするので、あまりお薦めはできませんし、私もまだ行っていません。
お鮨の話となると、想像できたことですがどうも長話になります。今回はお鮨で終わってしまいましたので、次回はふぐ料理、あんこう料理、加賀料理、蕎麦、うどんすき、うなぎ・どじょうなどの和食のお店を紹介します。
(1999年12月12日(日))
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