Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1999年2月
「メリーに首ったけ」
監督:ボビー・ファレリー、ピーター・ファレリー、出演:キャメロン・ディアス、マット・ディロン、ベン・スティラー、リー・エバンス、クリス・エリオット、リン・シェイ 、ジョナサン・リッチマン
★★★☆

よく考えると(よく考えなくてもだが)、私はあんまり恋愛映画は見ない。コメディも最近見ない。こちらは好きなんだが、触手がうごめくものがないのだな。ついでにいえば、ホラーもほとんど見ない。とくにスプラッター系は見ない。だいたい、血を見るのはきらいなのだ。別に卒倒するわけではないが。

で、なんでこの「メリーに首ったけ」の前売券を買ったのか、よく覚えていないのだ。すでに見るべき映画が5本以上はたまっているのに、日曜日に「さて、どれに行けるか?」と調べたら上映時間がピッタシなのはこれしか該当しなかったのだ。そんでだな、日曜の午後に一人で見るもんじゃないよな。だいたい、カップルなんて傍若無人だしね。

下ネタだらけのロマンチックコメディ。それ以外に言うことあるのか? しかし、この下ネタが過激とは思えない。この程度は殺菌済みというか、ハリウッド風のフィルターというか。まあ、別に笑えりゃいいのだが。サイコキラーやストーカーや障害者はふんだんに出てくるあたりが少し際どいぐらいか。異常性愛があるわけじゃなし、エロもグロもスカトロもなく、ときどきキャメロンの下着姿でドキドキするくらい。なんか肩すかしだなあ(いったい何を期待してたんだ?)。

キャメロン・ディアスが、美人で性格もよくって整形外科医なんである。そんでもって人を信じやすくて、セクシーでさばけているときている。こういう設定が受け入れられるのは、ひとえにキャメロンがカワイイからである。この映画は、そのことを十分に利用してつくられている。そう、脚本もキャスティングも実に巧み。コメディのくせして、伏線がキチンとあとで意味を持ってくるし、ドンデン返しがいくつもあって、ミステリーでもないのに「なかなかやるなおぬし」と言う感じ。

なお、ジョー・モンタナとかブレット・ファーヴ(ファーブルではないぞ。字幕よ、もうちいと勉強してね)について質問のある方はメールください。最後にブレットが登場するシーンがなぜおかしいのか、ご説明します。NFLファンにとっては、なかなか楽しめるところもあります。

「ラブゴーゴー」(愛情来了)
チェン・ユーシュン監督、タン・ナ、シー・イ ーナン、リャオ・ホェイチェン、チェン・ジンシン、マ・ニェンシェン、チウ・ショウミン、ホアン・ツジャオ
★★★★

不細工で不器用で趣味が悪くてモテナイ男と女のラブコメディ。驚くことに、結局幸せに(あるいは不幸せにでもいいが)結ばれるカップルはひと組もないのであった。さらに驚くことに、それにもかかわらず観たあとはみんなが幸せな気分になるのだ。そしてもっと驚くことには、3回くらいは泣いてしまうのだが、泣きながら笑ってしまうのである。ゆえに、鼻水がどんどん出るのでティッシュペーパーは必須。

「熱帯魚」でデビューしたチェン・ユーシュン監督の2作目だそうです。すみません、よく知りません。俳優も全然知りません。パン屋の職人、ミュージシャン、驚異的なデブの女の子はプロの役者ではなくって、本業はマネージャーやスタッフとのこと。でも、そのキャスティングは見事で、陰影の深い存在感と個性(つまり、美形とはまったく逆)が際だっています。あ、でも、いつもレモンパイを買う足が少し悪いおさななじみの彼女はきれいです。この人は有名な歌手らしいですが。

3話のオムニバスで、登場人物が少しずつ重複してつながる仕組み。それぞれのラストに、ちょっとしたびっくりが用意されていて、さらにオチがついている。素直に笑えて、少し泣いて、それで心が温かくなってくるのは・・・。理由なんかどうだっていいでしょう。人はみんな寂しいのだ。

はっきりいって、このセンスの悪さは確信犯、と言っていい。音楽も映像も小道具も。しかし、それゆえに最後のカタルシスが生きるわけで。細かいところでいろいろキズもあろうが、何かのマネであろうが、よいです。許します。

私が好きなシーンは、パン屋の職人が幼なじみに手紙を渡しそびれて立っている、それを手伝いのガキがひったくって彼女に渡してしまうところ。そして、その手紙には・・・。これが、ただのラブレターじゃない。登場人物でも小道具でもエピソードでも、小さな伏線がうまくて、ニヤリとしますよ。そういえば、この職人のオリジナルケーキがよい。さらに、最後のテレビ番組で彼が歌うあたりはもう鼻水が涙と混じり合うくらいに笑うぞ。ああ、隣に人がいなくよかった。

「マイ・スウィート・シェフィールド」
サム・ミラー監督、ピート・ポスルスウェイト、レイチェル・グリフィス、ジェイムス・ソーントン、ロブ・ジャーヴィス、レニー・ジェイムス、アンディ・サーキス、アラン・ウィリアムス
★★★☆

シェフィールドは「フル・モンティ」の舞台でもあった。主演は「ブラス!」で頑固な指揮者を演じたピート・ポスルスウェイト。こういう佳品が続々出てくるあたりがイギリス映画の復調がホンモノということなのだろうか。

焦点は、「ピンクの鉄塔」。これです。「鉄塔武蔵野線」につづく鉄塔映画なんてすごいなあ。シェフィールドは操業をやめた鉄鋼の街。どこまでもつづくなだらかな丘陵に伸びていく送電線。失業者、クライマー、旅人の交錯。最初のキスはさびれたタンクの上、廃工場で浴びるシャワー、パブの壁面をモルダリングするシーンなどなど、いいんだけど。

意図はよくわかるが、もう少し映像が圧倒的な美しさで迫ってくれればねえ。あ、キレイキレイということじゃなくて。カンタンに言えば、人生に一度は訪れる夢のような素晴らしい時間のメタファーなんでしょう。グレーの鉄塔をまず黄色に塗り、次にグレーに塗る徒労と、いい加減な依頼主への不信感。延々とつづく鉄塔をひたすら塗っていくってのはまったくドラマのない人生みたいだけど、実はいろいろあるわけで。

「俺はインドに行くぞ!」とか、日本にウィスキーを運ぶ男とかも出てきて、ちょっと旅心をそそられます。少しだけサッカーについての台詞もあり(シェフィールドにはちゃんとプレミアリーグを戦うチームがある)、細かいところで楽しめる。まあ、フツーはきっと主人公3人が繰り広げる恋愛模様について思うことを書くんだろうけど、私には恋の行方はどうでもいいのであった。

「のど自慢」
井筒和幸監督、室井滋、大友康平、尾藤イサオ、伊藤歩、松田美由紀、竹中直人、北村和夫
★★★☆

舞台は群馬県桐生市。テーマは「のど自慢」に出場する人々の人生模様。なんか、観たいとはまったく思えない部類なのではあるが、「試写室で拍手が起きた」という風評もあり、そんなにいいのか? と実は期待して行ったのだった。

それにしても「花」という唄は泣けるよねえ。私は、フツーの状態でもこの唄で泣き出す癖があるので、これには参った。それと、「上を向いて歩こう」も、けっこうジーンとくるものがある。相変わらず竹中直人はうまいし。由利徹とか、リリィとか、岸部一徳とか、小林稔侍とか、田口浩正などなど、脇を固めるというよりはピッタリのキャスティングで、登場人物がすごーく多いのに、それぞれ印象的でしっかりドラマになっている。

結局、みんなが持っているであろう想い出の歌と、「のど自慢」という晴れ舞台で交錯する輝く瞬間を利用しただけ、と言えないこともないのだが、それでもこれだけ笑いと涙と感動を叩き込んでくれたら、幸せな2時間を過ごせるというものだ。

難点は、みんな歌はうまいんだけど、どこか魂を振るわせるほどのパワーがなかったのが惜しい。たとえば「花」という唄は、島唄風には少し音を振るわせて琉球音階を強調することで、やや濁った音色が味になるんだけどなあ。でも、伊藤歩はよい。ただのカワイイ子じゃなくって憎たらしいガキの風情ってのがそそる。松田美由紀と、焼き鳥の粘土の模型を作る娘たちが愛らしくってよい。他にもよいキャラクターが目白押し。

そして、私は駅の改札口を通るときにも「泣きな〜さあ〜い〜♪ 笑い〜いなさ〜あ〜い♪」と唄いながら家路へと着いたのだった。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1999