Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1998年2月

「ブラス!」
マーク・ハーマン監督、ピート・ポスルスウェイト、ユアン・マクレガー、タラ・フィッツジェラルド
★★★☆

ジョン・レノンに"A Workig Class Hero"という曲がありました。アルバム「ジョンの魂」のなかに入っています。"a working class hero is something to be."というリフレインが印象的なアコギ弾き語りです。というわけで、イギリスの労働者階級について考えてしまいました。炭鉱が閉鎖されそうで、失業どころか、街自体が存亡の危機。家族だって辛い。だけど、人生は続いていく。Life goes on. きっとこの映画評では、音楽だけが誇りだとか、夢だとか、そういうことが言われそうだけど、それとも少し違う気がする。もっと大事なことがある。「フル・モンティ」でも思ったのだけれど、もっとしたたかに生きているんです、人々は。

グリムリー・コリアリー・バンドという炭鉱の街のブラスバンド。リーダーのダニーの息子のフィルが痛ましい。多額の借金を抱えて、でもおんぼろのトロンボーンを新品に買い換えようとする。しかし、ピエロのバイトもむなしく、家財は差し押さえられ、妻と子どもは出ていき、存続か退職金かの投票では組合を裏切って退職金に投票してしまう。その前、妻のサンドラが買い物をしてレジでお金が足りなくなってしまうシーンなんかやりきれないんだけど、それでも人間を信じたい気持ちにさせられる。さらにダニーは倒れて入院。バンドはロンドンでの決勝にはお金がなくて行けない。ここまできたら、自殺したくもなります。それでも、決して暗くないんだな。それは、「音楽があるから」ではなくて、「人生があるから」だと思う。

えーと、誤解のないように言えば、主ストーリーは、バンドがロイヤル・アルバート・ホールで優勝するまでの話に炭鉱の存続か廃止かの問題がからみ、そこに経営側の女性と炭鉱の若者との恋が芽生えるわけです。でも、私は脇筋がいいと思う。亭主がバンドをやめなかった理由の追求からバンドのサポーターになってしまうおばさん2人とか、とにかくすぐにビール(たぶんエールだと思う)を飲んじゃう仲間たちとか。

そして、やっぱり音楽は人を惹きつける。有名な曲が多いので、楽しめます。ブラスバンドへの認識が変わってしまうほどすばらしい演奏はモデルになったグライムソープ・コリアリー・バンドが演奏しているそうです。最後のエルガーの「威風堂々」はサービスだと思いますが、イギリスの誇りでもあり、労働者の誇りでもあり、音楽を愛する人々へのメッセージでもあるでしょう。

それにしてはの数が少ないのはなぜ? というのは、やっぱりストーリーが甘すぎるというか、予想がつきすぎちゃうんですね。音楽が鳴っちゃうとすぐウルウルしちゃう私としては、それでもあまり泣かなかったのがちと不満。

訂正です。グリムリー・コリアリー・バンドという名前は実在せず、グライムソープ・コリアリー・バンドというバンドが、炭鉱の閉鎖にあい、その年にアルバート・ホールで優勝していて、モデルになっているそうです。こんなに似た名前で同じストーリーをわざわざフィクションにするのはまぎらわしいというか、潔癖というか。まあ、いいか。

「ポネット」
ジャック・ドワイヨン監督、ヴィクトワール・ティヴィソル、グザビエ・ヴォーヴォワ、マリー・トランティニャン
★★★
大評判で、2時に行って5時10分の回をようやく予約しました。ところが、期待したほどではなかったんですね、これが。あやうく寝そうになりました。主人公の女の子の演技はすごいですよ。だって、全然演技に見えないもん。完全に役になりきっている。筋は要するに交通事故で死んだ母親に恋いこがれるだけ。子どもの目線でいろいろなドラマが進んでいくところには好感。結構ユーモアもあって佳篇ではあるけれど、私には泣くほどではなかった。好きな人がいたらごめんなさい。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1998