Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1998年5月

「ビヨンド・サイレンス」
カロリーヌ・リンク監督、シルビー・テステュー、タティアーナ・トゥリープ、ハウィー・シーゴ、エマニュエル・ラボリ、シビラ・キャノニカ、マティアス・ハービッヒ、ハンザ・ツィピィヨンカ
★★☆

一言でいうと、「ズサン」な映画ですね。

両親は2人とも耳が聞こえない。 まだ雷を怖がる女の子なのに、手話で通訳をして大活躍。銀行や学校での融通無碍な訳しようは、なかなか笑える。こまっしゃくれた子だけど、共感できるキャラクターです。

なのに、どうしてズサンかというと、まずテーマの追求が不十分。たぶん、頑固な父と外の世界に憧れる娘との葛藤がメインテーマの家庭ドラマなのだろうけれども、くっついたり離れたりする筋の起伏が納得いかない。なんかぎくしゃくしている。また、出てくる人物像があいまい。叔母(父の妹)のクラリッサだけが奔放にして一種魅力的な女で音楽を通じて外の世界への窓になるのだけれども、他はどうでもいい感じ。個人的にはクラリッサと離婚するグレゴールなんていいキャラだと思うけど、断片でしかない。

個々のエピソードはいい。演技だって悪くない。印象的なシーンだってある。母が自転車に乗るところとか。しかし、観客が受け取る映像と音の総合的な印象が薄いのだ。

それはなぜかというと、脚本が細切れになっていて、全体の流れがうまくいっていないせい。また、映像への定着が甘い。細かいことだが、クラリネットの運指がでたらめ(とくに子どものシーン)なのがすぐわかるぞ。子役から娘役に変わるにしても、顔も声も全然違う(声変わりしたのか?)。こうしたことで、完成度の評価はがた落ち。また、意味ありげなアイススケートとか、クラリネットのコンサートを聞いて感動するところとか、意図したほどには全然よくなくて、感動するどころか、しらけちまいました。

そして何より、音楽シーンに迫力がない。ベルリンのクラブでの飛び入り、ろう学校での腹這いになって音楽を感じる授業、ラストの音楽学校の試験、うまくやればおいしいシーンはたくさんあるのに、どれとして成功していない。

ともあれ、ハリウッド以外の各国の映画がもっと公開されるといいのですが。ちなみにこれはドイツ映画。ヴェンダースを除くと、ここ10年間で観たドイツ映画はほとんどゼロに近いような気がする。

「ジャッキー・ブラウン」
クエンティン・タランティーノ監督、パム・グリアー、サミュエル・L.ジャクソン、ブリジッド・フォンダ、ロバート・デ・ニーロ、マイケル・キートン、クリス・タッカー、ロバート・フォスター
★★★☆

QTはやっぱりうまい。ただし、これは2時間31分の長尺にもかかわらず、小品なんだろうな。スクリーンサイズがうんたらかんたらと「シネマ通信」(テレビ東京)のインタビューで言っておったが、製作費とか配役とかではなく、ストーリーも作りも小作りなのですね。まあ、粋というか、こだわりの趣味を愛でるというか。

やっぱりキャラクターとそれを生かす演出が秀逸。三流航空会社の中年スチュワーデス(パム・グリアー)、大口をたたく武器密売業者(サミュエル・L.ジャクソン)、冴えないムショ出たての仲間(ロバート・デ・ニーロ)、軽薄女(ブリジット・フォンダ)と一癖もふた癖もありそうな連中の振る舞いに、妙にリアリティがある。

要するに、現金の運び役のスチュワーデスがつかまってしまうのだが、おとり捜査に協力するとして当局と取り引きし、なおかつ50万ドルをかすめ取ろうとする。筋もカメラアングルも、昔のB級映画をほうふつとさせながら、新しさもあり、何よりセンスがいいのですね。とくに音楽、車。

とはいえ、そんなに絶賛するほどのもんではない、と思う。QTなら、これくらいはいつでもできるだろう。手慣れた世界をいつもの技で見せてくれるだけでなく、もっといろんなことにトライしてほしいものだが。

なお、原作はエルモア・レナードの『ラム・パンチ』

「スターシップ・トゥルーパーズ」
ポール・バーホーベン監督、キャスパー・ヴァン・ディーン、ディナ・メイヤー、デニース・リチャーズ、ジェイク・ビジー、マイケル・アイアンサイド
★★★

期待にたがわず、ウルトラB級にして、豪華SFXを駆使した駄作にして怪作。あなたは果たして怒るか、笑い出すか?

「ロボコップ」「氷の微笑」「トータル・リコール」のヒットメーカーという冠はバーホーベンには似合いません。何しろ、年度最低最悪の映画を選ぶラズベリー賞の最多部門受賞を果たした「ショーガール」の監督として授賞式に出席してスピーチをした人ですから(ちなみに今年のラズベリー賞はケビン・コスナーの「ポストマン」) 。こうやって作品を並べてみても、娯楽大作という仮面のもとに製作費を集めて、実は歪んだ笑いの対象にしてしまおうという斜に構えた姿勢がほの見えます。

ハインラインの原作(『宇宙の戦士』)を読んでいないのですが、この映画の場合は関係ないみたい。ハインラインのファンは悲しむでしょうが。だって、映画は完全にファシズムと戦争と差別そのもの。バーホーベンはインタビューで戦争の悲惨な真実を描くことで平和や反ファシズムを訴えたとか言っているようですが、むしろ、全編が皮肉というかパロディというか、ブラックなリアリズム。相手が虫だからいいようなものの。「いい虫は、死んだ虫だけだ」とか(黒人差別の有名な発言のもじり)、「最初に侵略したのは人類だという声もあります。共存共栄の道はないものでしょうか」というレポーターの発言は兵士によって罵倒され、なにより、軍に参加しないと市民(citizen)になれず、選挙権もないという軍統制社会なのだ。

でもって、ストーリーは安易に青春スポーツ恋愛ものから卒業して新兵訓練成長ものになり、宇宙戦争ものやエイリアンものやスプラッターものや超能力ものまでなぞってできあがっている超チープにして薄っぺら。演技とかドラマとかいうレベルではなく、既成のあらゆる要素の寄せ集めで、ここまで来るとあきれるしかない。友情とか正義とか勇気とか愛とか平和とか、そういうヒロイズムをせせら笑う一大叙事詩とでもいおうか。

見所はもちろん、もっともお金を使ったであろう、虫たちのアクションと宇宙戦闘シーン。数百、数千にも及ぼうという虫たちの来襲と殺戮のなめらかな動きは、フィル・ティペットの独壇場。特筆すべきは宇宙戦艦が真っ二つに折れるシーンで、断面といい、脱出する宇宙船の描写といい、SF映画の歴史に残るべきもの。なお、原作のパワードスーツ(ガンダムのネタ元になったらしいモービルスーツ)は予算の関係で実現しなかったそう。

思えば、私は「北京原人」をまともに批評するという過ちを冒してしまいましたが、あの作品はよくぞ作ってくれたというべきキッチュにしてカルトなZ級エド・ウッド映画でした。そして、この「スターシップ・トゥルーパーズ」も、パロディ元の映画を思い出し、地球連邦軍のプロパガンダを味わいつつ、感動も涙もなく次々に死んでゆく登場人物を見送って、シニカルに笑うというマニア向けの一品。

ああ、映画の日に1000円で見るにはふさわしいかも。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1998