Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1998年4月

「エイリアン4」
ジャン=ピエール・ジュネ監督、シガーニー・ウィーバー、ウィノナ・ライダー、ロン・パールマン、ダン・ヘダヤ、J.E.フリーマン、ブラッド・ダーリフ、マイケル・ウィンコット
★★★☆

リドリー・スコット、ジェームズ・キャメロン、デビッド・フィンチャーと実力派監督が並ぶ「エイリアン」シリーズの最新作にはジャン=ピエール・ジュネが抜てきされた。この人、ブラック過ぎて笑えない不気味なユーモアが何とも言えない。最初から、エイリアンと(ガラスごしにせよ)キスする科学者が出てくる。この科学者はエイリアンを愛しているみたい。ばかばかしくて笑ったのはラスト近くの「4、3、2、1、thank you.」ですね。

前作のラストでリプリー(シガニー・ウィーバー)が自殺するとき、腹を突き破って出てきたエイリアンの子どもをいとおしそうに撫でていたのが印象的でした。今度は、血液からDNA再生するわけですが、エイリアンの遺伝子と融合してしまっているという設定。だから、記憶も保持しているという強引な理屈。かなり無理ですが、こうすると、復活リプリーは人間でもあり、エイリアンでもある。そして、その体内から取り出されたエイリアン(クイーン!)には人間の遺伝子が融合している。ということは? そう、まさにリプリーはエイリアンの母なのです! そして、クイーンはなんと卵ではなく、子宮から出産する!

理屈はともかく、グロテスク趣味には面白い設定で、DNA再生に失敗した1〜7号は見物です(悪趣味好きな人向け)。タイトルバックから、そういう期待は持てます。シガニーはエイリアン遺伝子を持つだけあってまるで超人。血を流せば床が溶ける。ウィノナ・ライダーは、別に秘密にするほどの役ではなくて、容易に想像がつく。ただ、もっと突き詰めればSF純文学的には面白い人物ではある(詳しく書けないのが辛い)。でもこの人、どうしてもまだ小娘にしか見えないんですが。1971年生まれなんですけどね。

エイリアンとのバトルシーンは凡庸。ただ、エイリアン同士の口論とか、罠、水中遊泳、毒液飛ばしが見られます。そうそう、リプリーがエイリアンの舌を抜き取ったりして、ファンにはたまらない(もちろん、エイリアン・ファンにとって)。そして、クイーンが出産した怪物には眼がある! H.R.ギーガーのエイリアン造型が卓越していたのは眼がなかったのが大きなポイントでしたが、人間とエイリアンの融合はついに感情を訴える眼を与えた。この怪物、しかし全然つまらない。というのは、人間に近づけすぎたために、怖くないのだ。リプリーが「forgive me.(許して)」とつぶやくのが自然なぐらいで、実に弱い。というより、奇形児の哀れさが漂う。

原題は"ALIEN RESURRECTION"、「エイリアン復活」。しかもこの復活は「イエス・キリストの復活」で使われる単語で、深読みすれば、世界の支配者の君臨を暗示しているかも。映画としては難点が多いが、カルトに楽しめる悪趣味ワールドです。

「ゲット・オン・ザ・バス」
スパイク・リー監督、リチャード・ベルツァー、アンドレ・ブラウアー、トーマス・ジェファーソン・バード、イザイア・ワシントン、オシー・デイビス、チャールズ・S.ダットン
★★★★☆

ここ5年間ではじめて映画のプログラムを買った。 それぐらい、強烈な迫力だった。理屈ではなくて、体で受け止める感動を味わった気がする。映画の魔力というか。どこがいいのか、うまく説明できないのだけれども。

気まずくなっているゲイのカップル。手錠でつながれた父と息子。白人との混血の警官。イスラム教に改心した元ストリートギャング。何かとイチャモンをつける俳優志望。いまにも爆発しそうな面々が1台のバスに乗って3日間かけてワシントンに向かう。ミリオン・マン・マーチに参加するために。

批判は簡単だ。 図式的。ご都合主義。説明的。ロードムーヴィの焼き直し。しかし、そんなことにはおかまいなしに、じつに明瞭なメッセージをストレートに投げ込んでくる。しかも、それがなんともいえないムーヴメントを心の中に巻き起こすのだ。

黒人が解放され、向上するためには? ほとんどが狭いバスの中で展開する会話(というか口論)で成り立っている。アメリカの黒人問題の論点は、だいたい出てきます。細かいギャグはともかく、背景知識がなくても十分理解できる範囲です。タイトルバックの首輪、足枷からラストでリンカーン像の前に捨て去られた鎖にいたるまで、わかりやすく黒人のためのメッセージを形作っています。だけれども、それだけの映画ではない。いかに生きていくのかを突き詰めて普遍的な高みにまで到達している。

こういうシンプルな映画でこそ、スパイク・リーの天才がよく発揮されるのかもしれない。演技も音楽も申し分なし。60年代をひきずったおやじの祈りが、最初と最後に出てくるのも効いている。いまどき、こんな台詞にリアリティをこめるのなんて恥ずかしいというかクサイのになりがちなのに、素直に胸を打つのはなぜだろう?

ところで、BOX東中野は決して悪くないハコだと思うし、志をもった興行を打っていると思うが、どうもロードショー扱いではないらしい。「@ぴあ」では上映スケジュールが出てこない。あのスパイク・リーに、この仕打ちは何なのだろう?

「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」
ガス・ヴァン・サント監督、ロビン・ウィリアムス、マット・デイモン、ベン・アフレック 、ステラン・スカルスゲールド、ミニー・ドライヴァー、キャセイ・アフレック、コール・ハウザー
★★★☆

アカデミーの脚本賞(マット・デイモン)、助演男優賞(ロビン・ウィリアムス)。作品賞、監督賞、主演男優賞にもノミネートされ、非常に高い評価をうかがわせた。こういう小ぶりで渋そうな映画って好きなんですけどね。

しかし、観てみればやっぱりアメリカ映画なのだった。稀にみる天才なのに自分の殻に閉じこもる青年と、彼の心の扉を開こうとする(かつてキャリアを棒に振った)精神科医。天才を世に出そうとレールに乗せたいエリート数学教授、青年を愛してしまうハーヴァードの女子学生、毎日ビールを飲みバカ話で騒ぐ仲間たち。MIT、ハーヴァードというエスタブリッシュメント(要するにインテリ、金持ち)と労働者階級、敗残者との対比がいくつもの変奏をなしてボストンという街を流れていく。わかりやすいというか、図式的というか。大企業に勤めるとか偉い賞を取るだけが成功じゃないぞ、いやいやこれだけの才能を無駄にするのはもったいない、といった争いは表面的すぎる。もっと深いメッセージを読み取ろうと頑張ってみたが、どうも伝わってこない。「僕はいったい、人生に何を望んでいるのかわからない」とか? 少なくとも泣ける映画ではない。

でも、ひとつひとつのエピソードはけっこういい。とくに、ボストン・レッドソックスのワールドシリーズの挿話とか。全体に抑制した演技にも好感。ラストへの持って行き方も、まあうまい。デートで観るには悪くないかも。

結局、アカデミー賞という権威は、やっぱり全然頼りにならないということを再認識してしまった。

どうでもいいけど、最後の献辞はアレン・ギンズバーグとウィリアム・バロウズに捧げられています。サブ・カルチャー好きなのかもしれないが、すごく違和感が残るのだった。

「恋愛小説家」
ジェームズ・L.ブルックス監督、ジャック・ニコルソン、ヘレン・ハント、グレッグ・キニア、キューバ・グッディングJR.、スキート・ウールリッチ、シャーリー・ナイト
★★★★

よくできたロマンチック・コメディ。偏屈で意地悪で病的潔癖症で差別的で嫌われ者の作家と、子持ちのウェイトレスのラブ・ストーリーなんて、ハリウッドお得意のシチュエーション。若くも美しくもない2人が、魅力的に見える瞬間こそ、いわゆるハートウォーミング・ムービーの真骨頂。

これ、実は全然ほめてないのでして、安易で予定調和的で、毒がありそうでない、いつもの枠の中の映画。そうと片づければ簡単なのだが、そこは役者と小技で見せてくれるわけですね。

まず、ヘレン・ハントはいい。完全に私の目は曇っています。ひいきしています。なんといっても、表情がダイナミックでいきいきしている。ジャック・ニコルソンは、不気味です。淀川長治はミスキャストを演じきったとべた褒めしていました(「淀川長治の新シネマトーク」で。もっとうまい言い方でしたが)。それに、犬がうまい。ゲイの画家、その友達の黒人の画商、ウェイトレスの母など、性格づくりも配役もぴたりで安心して観られます。

企画意図はともかく、映画としての出来はいいです。台詞、仕草、小物の扱い、ストーリーの紆余曲折、笑いをとるツボ、2時間を越えるのに長く感じません。最後に、「焼きたてのパンを買う幸せ」をもってくるあたり、あざといぐらいに巧み。見終わってしばらくは疑似幸福感を味わえます。それはそれで、映画の力です。ヘレン・ハントのオスカー受賞祝いでひとつプレゼントして、★★★★

「シーズ・ソー・ラヴリー」
ニック・カサヴェテス監督、ショーン・ペン、ロビン・ライト・ペン、ジョン・トラヴォルタ
★★★☆

巨匠ジョン・カサヴェテスの息子のたしか第2作。「ミルドレッド」がなかなかよかっただけに、期待しましたよ。ちなみに母ジーナ・ローランズもちらっと出てきます。そういえば夫婦役のショーンとロビンは私生活でも夫婦。というわけで、なんかファミリーっぽいつながりが多いぞ。

こういう、登場人物の少ない映画っていうのはいい。個人的には主人公のおともだちのショーティのキャラがなかなか。

キレテル男をやらせると、ショーン・ペンはうまいですね。今度はドラッグというより、感情過多というか、あふれる愛情ゆえに狂気に墜ちていく感じでしょうか。対して、ロビンもバカタレだけどカワイイ女を演じているわけですが、どこかピントが定まらなくて、じりじりします。え? トラヴォルタは? 聞くだけ野暮です。別に嫌いじゃないんですけど、いかにも場違い。

全体に粋とは言わないまでも、ユーモアもあって、人情もあって、小さいけれど、たしかな手触りを感じられる映画です。こういう愛もあるんだろうなあ(決して羨ましいとは思わないが)と素直に感動することもできます。誤解を恐れずに言えば、ある種のおとぎ話かもしれない。

それにしても、ニック、けっこうやるじゃないか。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1998