オスとメス・性はなぜあるのか / 長谷川 眞理子
Male & Female
書 名:オスとメス・性はなぜあるのか
    (NHK 人間大学、NHK学園通信講座 受講テキスト)
著 者:長谷川 眞理子
編 集:日本放送協会
発 行:日本放送出版協会
価 格:550 円
ISBN4-14-188983-0
なぜ生物にはオスとメスがあるのか? なぜ性は二つに分かれ、 三つにはならなかったのか? 性にまつわるさまざまな不思議を 現代進化生物学の手法で解き明かすとともに、われわれ人間の男女にも 通じる「性のあり方」を考える。(表紙より)

Contents
  1. 性とは何か?
  2. 性の起源
  3. 卵と精子
  4. 生き物たちの奇妙な性
  5. オスとメスはなぜ違う?
  6. 繁殖のチャンスを決定するもの
  7. メスをめぐる競争
  8. 選ばれるオス
  9. どちらの性の親が子を育てるか?
  10. 性比の進化
  11. 配偶システム
  12. 人間の性差と社会

NHK教育テレビ「人間大学」で、1997年4〜6月期に放映された番組の テキストとして出版されたものです。
講師の長谷川眞理子は 「孔雀の雄はなぜ美しい?」の著者、 「性選択と利他行動」 の翻訳者、ということで、行動生態学、性選択のプロです。
進化・性選択は僕の最も興味の あるところなので、毎回期待して、テレビを観ていました。 そしていつも期待通りの楽しい講義をしていました。

テキストの内容はとても濃く、また一般向けに平易に書かれています。 先頭から順を追って読み進むと、性(オス・メスという区別)が何であり、 何のためにあるのか、それによって何が起るのか、ということが わかってきます。それぞれの場面でいくつもの仮説が紹介され、 総説としてとても丁寧です。

「性淘汰(性選択)」については、第5回「オスとメスはなぜ違う?」 で紹介され、詳しい理論については第8回「選ばれるオス」で 「優良遺伝子仮説」と「フィッシャーのランナウェイ仮説」が 出てきます。これらはまだ仮説のいくつかにすぎないのですが。
世界を見回すと、いろいろな生物が実にさまざまな生殖・繁殖戦略を とっていて、それは住む環境や、体の構造や、子育てするかどうか、 どっちがするのか、などによって違います。場合分けして違う説明を 考えざるを得ません。
しかし、どの場合にも、自分の遺伝子をより多く残すための戦略として 配偶行動をとらえることが可能で、その点ではダーウィンの自然淘汰説に 従っています。

ヒトも、もちろん哺乳類の配偶システムを引きずっています。
メスには乳があるし授乳します。しかしヒトの子供は成長が遅いので、 多くの哺乳類(95%)と異なり子育てにはオスの参加も必要と なってきました。オスとメスが共同で子育てしながら生活するなかで、 役割分担や、配偶者防衛や嫉妬の感情も発達してきました。
そんな経緯で現在の状態に至っているようです。 現在のヒトの行動や感情を分析すると、 過去の性選択の名残りと思われるものがいくつもあります。 説明ができるのです。

しかし、問題はここから先です。ここまで説明されてきた、これらの知識は いったい何の役に立つのでしょう? 学問としての意義はあるのでしょうか?
これからの時代を私達はどう生きるべきなのでしょうか? と著者は 問いかけます。ヒトの住む環境は急激に変わってしまったので、 過去の名残りの感情や行動様式は、障害になっているのかもしれません。
どちらに進むべきか、その答えはありません。ただ、なぜ今の私達が こうなっているかを知ることが、正しい方向を決める上で何かの 役に立つだろう、というにとどめています。

この辺は考え出すととても微妙で難しい議論です。 僕も悩んでしまうところです。
「私達はこうできている。だから、こうすれば気持ち良いのだ。」 と説明づけることができるものでも、それが社会的・倫理的に 危険なものとなってしまう場合がありそうです。
例えばオスの浮気(の正当化)。例えば性差別(能力差の説明づけ)。
議論の進め方には注意が必要です。



進化的立場から見た、動物や人間の配偶戦略、という同じテーマを扱いながら、 竹内久美子の本とはかなり趣が違います。 真面目に、真理に近いことを知りたいのならば、この「眞理子の本」を 薦めます。


1997/09/14 T.Minewaki
2002/11/04 last modified T.Minewaki

孔雀の雄はなぜ美しい? / 長谷川真理子 in 書物
性選択と利他行動 / ヘレナ・クローニン in 書物
もっとウソを! / 竹内 久美子 & 日高 敏隆 in 書物
愛はなぜ終わるのか / ヘレン・E・フィッシャー in 書物
性選択のまとめ in 生命のはなし

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