書 名:もっとウソを!
著 者:日高 敏隆 竹内 久美子
発行所:株式会社 文藝春秋庫
価 格:1,300 円
発 行:1997/1/30 第1刷
ISBN4-16-352530-0 C0095
知と笑い
あなたはどこまで信じるか?
ダイエットの本当の理由、精子と卵の隠れた闘い、 戦略としてのファッション、天才科学者の仰天エピソード等々、 京大動物行動学の師弟コンビが科学の本当の面白さについて 徹底的に語り合った、知のエンターテインメント
(帯より)
噂どおり、なかなかの本です。
人間の誰もが関心がある通俗な「性」の話題を、ちょっと科学的
( 進化論的 ) な味付けをして、突拍子もない観点で面白おかしく
解説する。
とりあげる話題で多くの興味を引き付け、読むとなんだか後ろめたかった
ところに光が射したような気になる ( 浮気性は遺伝子のせいなんだ! ) 。
そのうえ最新科学理論で頭が良くなったようにさえ感じる。
これは売れてしまう本ですねぇ。物書きの戦略としてはすばらしいものが
あります。
これは科学についての本だけれども、( 一般的な意味での ) 科学書ではない、 と僕は思いました。
彼らが考える「科学」とは、「新しいことがわかること」や
「価値観が変わること」を目的とする、純粋な脳エンターテインメント活動
のことであって、何かの役に立つ機械を作ったりすること ( 技術 ) とは
また別のことだ、と言っています。
また、堅苦しく回りくどく理論を突き詰めるよりは、どーんと突拍子もない、
人がびっくりする仮説を立てる方が面白くて意義がある、とも言っています。
「科学は知識欲の快感を得るためのゲームなのだ。」
といったところでしょうか。
そういう前提を彼らで合意した上で、進化論からとらえた、主に 人間男女の性行動についてのいろいろな仮説をぶちかまします。 冒頭から「人間のペニスはなぜああいう形をしているのか?」と来ちゃいます。 そこでの竹内さんのパワーがすごい。飛躍しよう、外れよう、 とするのを日高さんがおい待て待てと引き留める、という感じで 対談が続きます。
それはちょっと違うだろー、という仮説が多い ( 違うだろー率 50% )
のですが、反論するためにはもうすこし深く考えなければならない。
そういう意味で、自分で何かを考えるきっかけを沢山与えてくれる
本ではあります。( 仮説を言うだけなら先に言った奴の勝ち。)
逆に、そういう考える人向けに書かれた本でもあって、これを
竹内仮説のままに「あ〜なるほど。(膝をポン!)」と信じてるようでは、
ちょっと世の中への悪影響が心配されます。
面白いけど、信じてはいけない。これ大事。
たぶん、世の中から見れば少数の、科学者と自認する真面目な人達に
とっては、まず前提「科学とは…」が受け入れられないだろうし、
「ちゃんと検証してからものを言え!」と怒鳴りたくなることでしょう。
竹内さん ( と日高さん ) はそれを知ってるしそれでも良いじゃないか、
と割り切っていますが、両者の間には深い深い溝があります。
正しいか、正しくないか? そんなこととはおかまいなしに、本は更に
売れ続けるでしょう。
( この本の後に「BC!な話」1997/3 が出版され、ベストセラー街道を つっ走っています。)
T.Minewaki / minew@post.email.ne.jp