◆ 生命のはなし (10) ◆



宗教・思想と生物


宗教や思想は、人間の脳を住みかとする寄生生物です。

生物は、「生き続け」「増殖する」ものだ (Life1) と前に言いました。
宗教は、生物としての性質を備えています。

キリスト教の歴史を思い浮かべてみるのも興味深いでしょう。

人間から人間へ、宗教がコピー/伝達されていく時に使われるものは、 「言葉」です。音声や活字、これらは有機生物(B-Life)での「遺伝子」 にあたるでしょう。

有機生物にとって、種が繁栄するための方法は、効率良く食べ、早く成長して 沢山の子供を作ることですが、宗教の場合、

ことが必要です。
人間は非線形で曖昧で複雑な系ですから、それに対して上記の評価の最適値を 見つける探索問題だと考えると、とっても難しい問題なわけですが、 現在繁栄していることから察すると、キリスト教や仏教やイスラム教は なかなか良い戦略を見つけだしたようです(*)。
人間にとっての利益とは、「精神の平安」だったり、 「集団生活がうまくコントロールされること」などです。
教義が「真実」かどうかではなく、どれだけ支持されるかが問題です。



宗教だけではなく、人間の脳を住みかとして伝えられていくものは他にも 沢山思いつきます。学問、教育、科学、 資本主義、ベジタリアン、禁煙、言語、 ファッション、などなど。 音楽もそうです。
「情報」はある意味で生物の側面を持っていると言えるでしょう。

人間のように、「親から子へ教える」ということができると、「教育」という 形で知識のコピーが行われます。もっとプリミティブなレベルでは、「真似」 「言い伝え」「タブー」「民話」「信仰」という形でそれが行なわれてきました。 これは新しいタイプの遺伝とも言えます。

生物進化は、遺伝子という媒体での知識の蓄積でしたが、 遺伝子とは違う形である「脳の記憶」や「紙」や「フロッピーディスク」を媒体と しての「知識の蓄積」ができるようになり、情報という新生物が生まれたからこそ、 人類はそれと共生し、共進化し、ものすごい早さで発展していると いえるでしょう。
全く新しい生物は、すでに生まれていたのです。



かなり後(1996/1)になってから知ったことですが、知識や情報を 非生物の遺伝システムととらえてその進化を考察する、という学問は 「Memetics / ミーム学」として海外の進化生物学者(?)の間では 話題になっているようです。
例えば alt.memetics FAQ : Sources of Infection を参照してみてください。

また、非生物の系統についての学問というものも分野によってはかなり 進んでいて、聖書はもちろん、古文書(例えば 源氏物語)の原本から 少しずつ異なる写本が産まれていく系統と変異を研究している人たちが いたりもします。(紹介記事


< 世界の宗教別信者人口 >
キリスト教 19.4 億人 カトリック 14.1 億人
プロテスタント 3.2 億人
正教 2.1 億人
イスラム教 11.6 億人
ヒンズー教 7.6 億人
仏教 3.5 億人
非信者 7.6 億人
無神論者 1.5 億人
(1999 年版英ブリタニカ百科事典より、を参考)

1994/02/14 T.Minewaki
2001/10/22 last modified T.Minewaki

11: 進化的恋愛論(1) 生殖のはじまり
生命のよもやま話
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