◆ 生命のはなし (11) ◆



進化的恋愛論 (1) 生殖のはじまり

さて、誰もが関心のある、恋愛について 考えてみましょう。

現在存在する生物であれば、「生きること」「生殖すること」は絶対です。 つまり、生きるか死ぬか、という選択が目の前に示されたとき、生物は 必ず「生きる」ことを選ぶし、成熟した個体は生殖できるチャンスを 常に求めています。

そういう本能が強いものだけが存在し続けることができたのです。
その結果が現在です。現在の生物は、残ったものだけです。 それだけしか見えないことが理解を難しくしています。

生殖に関する本能的欲望は強大です。 例えば「愛する人のためなら死ねる」と云ってみたり、恋人にふられて 「もう生きていてもしょうがない」と感じたりします。
そこまでに人を追い詰める感情、恋愛の本質とは何でしょうか。 恋愛という行動を、進化論の枠の中で考えてみましょう。


まず、生殖することの起源について考えてみましょう。生命発生の初期、 原始的生物では無性(単為)生殖をしていました。このとき、遺伝子は 自分をコピーするだけで、遺伝子のバリエーションは 突然変異によって作られていました。

やがて有性(2性)生殖が始まり、より高等な生物(動物、植物)では オス、メスの組み合わせ、遺伝子交差による発生が ほとんどとなります。

高等生物になればなるほど、遺伝子長は増え、広大な遺伝子空間のうち、 その生物としての有効な遺伝子イメージの割合も減っていきます。 その狭い有効範囲を外れない範囲で、少しつつ異なる 遺伝子イメージを効率的に検索していく方法が、2性生殖という やり方なのでしょう。


♂♀両親の1次元に長い遺伝子の、ある場所で交差が起こった時、 交差の前の部分をX,交差の後ろの部分をYとしてXY座標にプロットすると、 下図のようになります。

CrossOver
子供は親のXYを片方づつもらった位置に出現します。 もともと両親が、遺伝子イメージの近い、ある生物種の集合内に 存在するなら、子供も、その集合から離れない位置に出現するわけです。
無性生殖、突然変異では、言葉通り「突然」「予測不可能に」 遺伝子は変異するので、子供の遺伝子出現位置を限定できず、 簡単に生物種の集合範囲から外れてしまいます。

* このへんのアイデアは、K.T.さんの話をヒントにして得られました。


オスとメスで遺伝子を交差させて子供を作る、ということは、 必ず親とは違った子供ができてしまう、違ったものを作らなくてはならない、 ということでもあります。 良い子供(個体)ができたらそれはそのままクローンして増えればいいのに、 そうなっていないのはなぜでしょうか?

やはり進化の結果としてそういうものしか残らなかったということですから、 その理由があるはずです。
そのひとつの理由は、ウィルスに抵抗するためだと言われています。 ウィルスに合い鍵を作らせないために、常に鍵を変え続け、 多種類を保ちつづける。
だけど変わり過ぎてもいけない。 最適な遺伝子イメージ(その生物種としての最適値) の近辺をちょこちょこ・ウロウロと変わりつづける方法 が必要だった。
それが、有性生殖というやり方だったわけだ。


1994/06/14 T.Minewaki
2001/02/17 last modified T.Minewaki

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