読書録

シリアル番号 745

書名

文明崩壊 上下

著者

ジャレッド・ダイアモンド

出版社

草思社

ジャンル

歴史

発行日

2005/12/28

購入日

2006/1/12

評価

原題:"Collapse" How Societies to Fail or Suceed by Jared Diamond

養老孟司氏が読んだというので即、買う。

人間はどこまでチンパンジーか」、「銃・病原菌・鋼鉄」に続き3冊目。

著者は文明崩壊の原因は5つあるという。

@環境破壊
A気候変動
B近隣の敵対集団
C友好的な取引相手
D問題への社会の対応

歴史を見ると@Aが契機となっているものが多い。 BやCは他の原因で衰退したときの単なるとどめの一刺しにすぎない。ローマやカルタゴはDが原因である。

問題への社会の対応がうまくゆけば、たとへ環境の脅威があっても対処できるとする見方はトインビーの「歴史の研究」と同じ。すなわち自然からの挑戦Challengeに対する応戦Response によって創造力が発揮されたためとする。

環境がからむ過去の例として上巻でモンタナ、イースター島、 マンガレヴァ島を中心とするピトケアン島とヘンダーソン島、アナサジ族とプエ ブロマ ヤ、グリーンランドが くわしく紹介される。下巻では現代の問題と将来への課題として社会が破滅的な決断をする原因と対策が論じられる。

以下に文明崩壊の5つの要因と過去の例の関係を整理してみた。

過去の例 環境破壊 気候変動 近隣の敵対集団 友好的な取引相手 問題への社会の対応
カルタゴ    

   
ローマ帝国    

 

ソビエト連邦    

 

アンコールワット    

   
インダス文明    

   
ミュケナイ文明    

 

 

モンタナ      
イースター島      
マンガレヴァ島を中心とするピトケアン島とヘンダーソン島    
アナサジ族とプエブロ  
マヤ
グリーンランド    
ルワンダ    
ドミニカとハイチ      
オーストラリア      
中国      
ロスアンゼルス      

娘に貸しておいた本書が帰ったので再読。原子力による環境破壊でほろんだ文明はまだない。しかし立地という資源の枯渇で 原子力は使えない資源ということになるのか?

大航海時代前の中世温暖期にバイキングがグリーンランドに植民してから450年後に最後の一人が死に絶えた。中世温暖期に移住したため、寒冷化に無防備 だったこと、お よび過放牧による環境破壊と中世温暖期の終焉という気候変動は直接の原因とはいえ、問題への社会の対応の失敗ということが垣間見える。グリーンランドのノ ルウェー人社会の特徴は「共同体型」、「暴力的」、「階層的縦割り」、「保守的」、「ヨーロッパ志向」である。「共同体型」とは共同体に属する人間同士の 協力が欠かせず、個人ではやっていけないということ。結果として厳しく統制された社会となった。「保守的」とは変化に抗って旧来のやりかたに固執する傾向 の こと。漁労は入稙の初期段階で放棄。彼らは「ヨーロッパ志向」で自分たちが持ち込んだ家畜以外を口にいれることはなかった。すなわちイヌイットが口にする アザラシやセイウチの狩りをすれば、飢餓は防げたはずなのに、それをしなかった。多分軽蔑していたのだろう。もう一つは権力が最上層部つまり、首長や聖職 者の手に集中していた。土地、船を所有し、交易はかれらの威光を示す物品の輸入に充てられた。鉄の輸入を増やし、贅沢品や教会建設の木材の輸入のための羊 の毛皮の増産をやめるということができたのにしなかった。首長たちは他の構成員がそういう改善を試みるのを妨げる立場にあった。そうして首長達は結局、臣 下を失うはめになった。彼らが自分たちのために確保した最後の権利は、最後に飢え死にする人間になるという特権だったのだ・・・

とある。なんだか日本の現状を記述しているようで空恐ろしい。エネルギーと資源を輸入に頼っていたため、高コスト化した社会インフラが負担となって巨大な 投 資の償却ができない垂直統合した製造業を早くすてて、米国が強い競争力を持つファブ レス製造業やネットワーク・流通産業で職場を確保し、経済を回す決断をしなければならない。しかるに日本の各層でおこなっていることは、製造業中心のゾン ビ企 業を低金利で生かし続けるとか、官庁の権益を守るための箱もの、道路建設、鉄道建設、プルトニウムサイクル開発、核融合への投資などの無駄使いを継続する とか、世界最大の国債を積み重ねるとか、最後の大崩壊の原因をせっせと作り出しているようなものだ。新商品開発や新しいネットワーク創出のような職種は英 語がヘ ゲモニー維持に役たっている世界では難しい。言語以外に特別な才能を自ら開花させるよう な個人を育てなければならないわけだが、場がないという問題がある。仮に育てたところで、その他、多数の脳の使い方を知らず筋肉しか能のない人間を どう食わせるか考えてみれ ばどうしようもないことはすぐわかる。各自他人まかせではなく、自分の道は自分で切り開くという覚悟をしないことにはなにも始まらない。

日本が直面している問題は集団の意思決定ができないことだろう。その要因を著者は4つのカテゴリーに分けている。
@集団が問題を予期することに失敗する・・・ 過去に経験が無い故に予測できない。たとえば日本が艦隊決戦主義をもって第二次大戦をたたかったようにフランスの司令官はマジノ線を用意して迂回された。 司令官たちは来るべき戦争が前回と同じであるように計画を立てる。日本の政府は製造業しか眼中にないのと同じ。
A集団がそれを感知することに失敗する・・・「遠く離れた管理者」は環境の変化に気が付かない。「這い進む常態」、「風景健忘症」で認知できなかった。
B解決を試みることに失敗する・・・認識しても”過った類推に基ずく理論”を適用して間違った結論をだした。経済学者 や社会学者が「合理的行動」とよぶもの、小さな集団に「決定的な権力」を授けること、「自分勝手」という合理 的な悪しき行動、「共有地の悲劇」、「囚人のジレンマ」、「集団行動の論理」、「流浪するならずもの」が合理的行動の帰結だ。ところが「非合理的行動」も ある。それは「間違いへの固執」、「石頭」、「否定的徴候から結論をだすことへの拒絶」、「思考停止もしくは停滞」、「埋没費用の効果」という泥棒に追い 銭的な感情、「群衆心理」、「集団思考」、「手段の目的化」という病に罹患、”宗教”という人間 同士の利害の衝突から対処できずに 破滅に向かったであるとしている。
C解決に成功しない・・・解決能力を超える場合や法外なコストがかかったり、努力が不足するなどが成功しない原因となる。
である。
すべての社会が失敗したら人類は絶滅していただろう。成功を収めた社会は困難な決断を下す勇気を持っていた。成功へのヒントはケネディーのキューバミサイ ル危機の審議が参考になる「疑念を捨てずに考えるこ と」、「好き勝手な意見をいえるまで議論を重ねること」、「下位集団とは別々に会談」、権威の圧力を感じさえないように時々席を外すなどの配慮が必要。

日本の産業界の失敗と政府の原発政策もBまで酷似している。そして4人組が原発再稼動を強行しようとしたように、また経団連がいまだ製造業にこだわってい るように日本は失敗する可能性が高い。

とここまで書いたところで堀居氏からジャレッド・ダイアモンドは原発推進派だと聞く。今まで3冊ばかり読んだが原発に関してはなにも言っていない。でも考 えてみればグリーン派だから自然破壊より原発がいいと言いそうだと気が付いた。ジェームズ・ラブロックはガチガチの原発論者だということが分かって支持を やめたいきさつがある。

気になって調べたら確かに朝日新聞の2012/1/3のインタビューで温暖化より原発といっている。ジャレッド・ダイアモンドも ジェームズ・ラブロックも二酸化炭素による温暖化を信じているようだ。それに原発事故の死者は少ないと言う。人為的二酸化炭素が温暖化の原因だという政治 的アジェンダとサイエンスを取り違えたジャレッド・ダイアモンドが自らのプロパガンダに自縄自縛になっている証拠で、ジェームズ・ラブロック、ナオミ・オ レスケス、明日香壽川と同じアジテーターということが分かる。かれらの言い分が正しいかどうかはも少し様子を みていれば分かるだろう。

 本人は図らずも政治活動の片棒を担いでいることに気が付かない。これはもうサイエンスというより「宗教」だ。そして「手段の目的化」という病 に罹患している。「遠く離れた管 理者」が原発事故の遠因だし、小さな集団に「決定的な権力」を授けることで電力供給の不安定さを招いた弊害に気が付いていないタコツボ人間の一人にすぎな い。


著者による同じテーマ講演

このビデオはホール・アース・カタログ(全地球カタログ)の編集および制作者としてよく知られるスチュアート・ブランド (Stewart Brand) が代表を務めるロング・ナウ協会(THE LONG NOW-The Long Now Foundation)がブッシュ大統領時代の2005年に主催した講演である。最後に司会者のスチュアート・ブランドがNation Magazineでフリーランス・ジャーナリストのMark Hertsgaardからの質問として「スチュアート・ブランドが温暖化防止のために原発を もっと真剣に考えなくてはと言っているが、あなたは原発についてどう思うか」と質問され、"I did not know that Stewart Brand said that," と言い、But yes, to deal with our energy problems we need everything available to us, including nuclear power." Nuclear should simply be "done carefully, like they do in France, where there have been no accidents."」と回答。会場はこの回答にどよめく。質問し たスチュアート・ブランドは"I did not expect that answer"といい「Mark Hertsgaardに預けよう」とつぶやいて舞台を去りビデオは終わる。

フリーランス・ジャーナリストのMark Hertsgaardはどんなことを言っているのかと調べると、福島の事故を見てもサンセットイン ダストリーの原発はなくしてはいけないと思うと言っている。

ではアップルのファウンダーであったス テーブ・ジョッブズが影響を受けたヒッピー文化のリーダーだったStewart Brandはどうかというと。長期間反原発のオピニオンリーダーだったが、2009年にWhole Earth Discipline  Anecoplagmatist manifestoという本を出版して温暖化防止という点で反原発は間違っていたと謝罪した。Nuc is greenという。使用済み核燃料からプルトニウムを抽出して発電に使えと主張。小型のマイクロリアクターの片棒を担ぐ。彼は貧富の差が温暖化による環 境悪化によって生じたと言っているが貧富の差は温暖化の結果ではないだろう。温暖化大気中の二酸化炭素量とは直接の相関はない。これは自然現象とすれば原 発を導入しても気候変動も貧富の差も解決できない。遺伝子組み換え食料も歓迎という。ヒッピー文化もついに原子力カルトの軍門に下ったようだ。

彼らはすべて間違っている。IPCCが退けたスヴェンマルク説がCERNで実証されつつあるのだ。

Rev. May 6, 2012


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