読書録

シリアル番号 722

書名

世界文明の一万年の歴史

著者

マイケル・クック

出版社

柏書房

ジャンル

歴史

発行日

2005/7/1第1刷

購入日

2005/11/11

評価

題:A Brief History of the Human Race by Michael Cook 2003

妻の蔵書

グローバル化=均質化が急速に進む現代世界は果たして歴史の必然だったのか?

文明ビッグバン以降の一万年。

筆者はプリンストン大のイスラーム史の専門家だがジャレッド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」に触発されて本書を書くつもりになったと告白している。 ジャレッド・ダイアモンドはヨーロッパがアジアに対し一歩先んじたのはヨーロッパが小国乱立、中国が中央集権の統一国家であったためであるとしている。

しかし松原久子は「驕れる白人と闘うための日本近代史」でヨーロッパは気候寒冷につき農産物でアラブ経由アジアの産物とトレードするものがなく、生きた商品すなわち白人奴隷をアラブ人に売らねばならなかった。すこしでもアラブ人の中間搾取を減らそうと、直接貿易めざして冒険航海に乗り出したのがその世界制覇へのモーティベーションだったとしている。また デビッド・S・ランデスは「強国論」においてフランスの「ソアソンの花瓶」に象徴されるヨーロッパの私有財産制がその活力の源泉だったとしているのに対し、 松原久子は徳川政権が維持した農地共有財産制は貧富の差拡大防止として再評価すべきとしている。 農地共有財産制は徳川政権の権力維持のキーだったのだろうが、稲作が必要とした灌漑システムの維持のためにもこの共有制が必須だったのだろうと感ずる。

西の成功と東の立ち遅れに関し、本書がどのようなロジックを展開するのか興味をもって巻末から読み始めるとユーラシア大陸の西のイギリスとヨーロッパと東の中国と日本は16世紀の初めにはほぼ同じ航海術をもっていて南北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどに殖民を始める能力を持っていたにもかかわらず。スペイン、ポルトガルにはじまり最後にイギリスが成功したのは時の一方の政府はそれを支援し、一方の政府が支援しなかったためである。ではそれぞれの政府がそのような支援をしたりしなかったのはなぜかというと単なる偶然と考えるのが自然であろうと結論している。進化が偶然によって駆動されるというのと同じアナロジーである。力が拮抗しているとき、それぞれの方向を決めるのはただの運ということのようだ。 ただジャレッド・ダイアモンドの指摘するようにユーラシアの西の果てではベネチア、ジェノア、スペイン、ポルトガル、オランダ、イングランドなど小国乱立だったため、 少なくとも6回サイコロが振られ、偶然が多方面に作用し、たまたまポルトガルとスペインが成功のキッカケをつかめたといえるであろう。生物学が指摘する多様性の重要性が指摘できるのだろう。これに対し ユーラシアの東の果てでは広範な領土をカバーする中央集権の中国そしてその周辺国の朝鮮、日本ではサイコロは3回しか振られなかったのだ。

一神教のキリスト教が果たしたことはイエスの言葉「死んでいる者たちに、自分たちの死者を葬らせなさい。あなたは行って、神の国を言い広めなさい」に凝縮されている。これは孔子の教えの対極にある考え方だ。なぜこのような考え方の差が出たかについてはわからないとしている。

マイケル・クックはグリーンランドの氷床コアから話を始める。そしてプレートテクトニックス理論、ミトコンドリアDNAによる人類史、進化理論、言語学、宗教、考古学を随所にちりばめ、過去1万年の人類史を西洋中心史観でなく、サイエンティフィックに概観していて、公平なロジックを展開していると感じた。日本にもサンプルとしてかなりのページ数を割いている。松原久子の論が英訳されていたら、マイケル・クック の目にとまっただろうにと残念に思う。従来の情緒過剰な文系歴史家の枠を踏み出していて好感を持った。

ただなにせ大部な著作のため読破するには時間がかかる。


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