読書録

シリアル番号 052

書名

皇帝の新しい心

著者

ロジャー・ペンローズ

出版社

みすず書房

ジャンル

コンピュータ・サイエンス

発行日

1994/12/16発行

購入日

1995/02/12

評価

1995年当時5975円もした高価な本だったが、当時まだ仕事が忙しく、途中で挫折していた。 そもそもこの本はコンピュータは心を持ちうるか?という問いではじまっている。そしてチューリングテストが紹介される。AIは裸の王様だという。 なぜならAIには意識がないから。我々の意識はアルゴリズムだけからでてくるのかそれとも物質を支配する未知の物理法則からくるのかはまだ分かっていない。特殊相対性理論と 量子論を完全に整合する「量子重力論 」が完成しないかぎり心は理解できないとするのが著者の立場であった。ここで挫折したのである。

しかし12年後「時間はどこで生まれるのか」を読んでから再び紐解くと、意外に面白く、まだ読んでなかった2-4章のアルゴリズム とチューリング機械、数学と実在、ゲーデル型の定理などをとばして第5章古典的世界、第6章量子マジックと量子ミステリー、第7章宇宙論と時間の矢、第8章量子重力を求めてを読んだ。

第5章古典的世界はニュートン力学とアインシュタインの相対論を論ずる。そしてハミルトン理論、マクスウェルの電磁理論、ローレンツの運動方程式、ミンコフスキー時空が紹介される。

第6章量子マジックと量子ミステリーは量子理論を説明する。量子理論は古典理論が現実を説明できなかったことから発見された。原子核の周りを廻る電子はマクスウェル方程式にしたがって電磁波を放射するのだが、古典理論にしたがうとすると放射の強さがたちまち際限なく大きくなって電子は原子核に突っ込んでしまうことなる。古典理論では連続して変わる振動数の電磁波が放出されるはずなのに現実はスペクトルとなる。黒体輻射でも予想された紫外線カタストロフィーはないことからプランクが量子論を提唱したのである。そしてハイゼンベルクの不確定性原理、シュレーディンガー方程式、ディラックの方程式が紹介される。

第7章宇宙論と時間の矢では意識と時間の経過が関係あるのにニュートンの法則、ハミルトン方程式、マクスウェル方程式、アインシュタインの相対論、シュレーディンガー方程式、ディラックの方程式はすべて時間に対し対称である。そこで時間非対象性を含む理論が必要となるが熱力学の第二法則がこれに応えてくれる。そしてエントロピー、宇宙における低エントロピーの起源、ビッグバンへと話は移ってゆく。低エントロピーの起源としてビッグバン前の宇宙が小さかったことにあるとする。 ここまでは確立した理論なのですんなり頭に入る。

しかし第8章のまだ存在しない量子重力こそペンローズが提唱する時間非対称的理論である。これにより、生命も理解できるようになるというのである。しかしよくわからない。ダニエル・C・デネット の「ダーウィンの危険な思想 生命の意味と進化」によればロジャー・ペンローズ はダーウィンのいう進化すなわち「機械的なアルゴリズムによるプロセスである」というテーゼでは不足でなにかもっと重要な仕組みが隠されているのではと思っていると批判している。

ついで実際の脳とモデル脳の紹介があって、最終章の心の物理学はどこにあるのか?がある。ここで人間原理がでてくる。ここに もペンローズの限界がでている。

進化論からみればAIチューリングマシンはいつか心を持ちうるのである。

ジョン・ホーガンの「科学の終焉」で引用されている。

Rev. August 3, 2007


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