最近思うこと

グリーンウッド

政府はデフレスパイラルに入ってしまったかもしれない日本経済を救出するために、公共投資を増しました。

アジアの通貨危機を予言し、ノーベル賞の最有力候補といわれるグルーグマンMIT教授の[経済入門]("The Diminished Expectations" と"Japan Trap"を収録)によれば

「日本は出生率が低下し、移民も受け入れていないため、人口が減りつつあり、未来の生産力が今の生産力より低く、流動性トラップに陥っている可能性が高い。流動性トラップ(liquidity trap)から脱出するためには実質金利をマイナスにするインフレを発生させる必要がある。しかし、生産能力より需要が低い状態ではインフレは発生しない。短期的な金融拡大やケインズ流の赤字国債による政府支出増大もどんなに大規模であってもインフレを発生させる効果はない。日本国民すべてにインフレ期待をいだかせるしか、流動性トラップから抜け出せない」

と言っております。

すなわち、

「物価が上がり始めても今の金融拡大方針を継続すると日本銀行が確約するしないかぎりダメなのでは」と。

この秀才の理論は全く倒錯した政策のようで、明晰な思考をやめ、過去の記憶だけで行動する日銀・日本政府が採用す るとは考えられません。グルーグマン教授もこの行動を自動車事故で人ひいてしまった運転手がすみません、こんどは間違いませんからやりなおしさせてくださ いといって車をバックさせ二度ひいてしまうことにたとえております。ところで調整インフレを提案したのは梶山氏ではなかったでしょうか?

しかし、「流動性トラップ」は永久には続かない。デフレで物価が下がればいつかはインフレが自然に始まり、流動性 トラップから抜け出せる。ただどれくらい時間がかかるかわからない。ジタバタしていると自然と抜け出るんだそうです。5-20年間は地獄の苦しみで、この 苦しみは必要悪ではなく、無用なものなのです。なにもしない金融当局の責任でしょう。

このように、公共投資はないよりはましだが、景気回復には役立たずとの御宣託です。

でもせっかくやるのですから国民がほしがっているものをしてほしいですね。たとえば:

(1) 高速道路網の計画をみますと人口密度に関係無く全国一律に同じ密度で計画しております。東京近辺では道路は渋滞しているのに北海道など田舎で人口密度が小 さく利用者があまり期待できない高速道路建設に予算がついたとか。利用者が少なければ利用者の多い、東名高速などの高速度料金で償還されることになるので はないでしょうか。どうなっているのでしょうか?独立採算にすればこんな無駄なことは生じないでしょうに。日本高速道路公団は将来の国鉄の二の舞になるの ではないでしょうか?

(2) 東京近郷は土地代が高い、住民が反対するなどが理由のようですが、丹沢山塊をぶち抜くトンネルで東海道と中央道を結ぶと東京の西側のバイパスができるのだ がなと思ってゼネコンの方に聞くと、あるフランスのコントラクタがこの構想を建設省に提案したことがあったそうですが、なぜか、役所は却下したとのことで す。

(3) 上下水道、電力ケーブル、電話線が共同で計画・工事されず、未だに都市空間の景観を汚し、世界標準からすれば貧相な都市景観を呈しております。なぜか今回も予算がついたという話しが聞こえてこきません。

(4) 海の埋め立ては伝統的に自然海岸線をつぶす方式です。出島方式にすれば、自然と共存できます。韓国のほうがこの点で先輩となっております。仁仙がその例です。関空も良い例ですが。

(5) 山の中に砂防ダムを作りすぎて砂が海に供給されず、海岸がやせ細っております。そこで海岸のエロージョン防止に海岸と平行にテトラポットを投入していま す。多量のテトラポットを必要としかつ、景観を著しく劣化させ、かつ水質劣化など環境にもよくありません。なぜ外国のように海岸と直角にに突堤を築かない のでしょうか?景観も向上し、釣り人にも喜びを与えるはずです。千葉県の大洗海岸がこの良い例です。

(6) そもそもダムを作り過ぎました。米国ではもうダムを作らないという方針とのこと。

日本がヒックス提唱のIS-LMモデルでいう流動性トラップに陥っていることそしてここからの脱出法に関するクルーグマン提案に関するフォローアップ論文はグルーグマン教授のホームページに収録されております。ご覧ください。

英語なにがてな人には山形浩生(ひろお)氏のホームページに翻訳があります。

景気がわるくなったら財政支出が望ましいというケインズ理論は金本位制下の固定為替相場制を前提として組み立てられているが変動為替相場制下でのケインズ理論を修正したものに金融政策を景気対策にし、財政政策は対外収支不均衡是正につかうべしというマンデルフレミング命題 があります。IS-LMモデルで説明できます。日本のバブル経済もそのパンク後のデフレスパイラルも変動為替相場制下でのケインズ修正理論を理解していないことにあるような気がします。まことケインズが その古典的労作の最後で語っている「経済・政治哲学の分野では、25才ないし30才を過ぎてから新しい理論の影響を受けるものはあまり多くなく、したがっ て公務員にしろ政治家にしろ、あるいはまた扇動家でさえ、日々の出来事にたいして適用する思想は、最新のものでないのがふつうだからである。しかし、良き につけ悪しきにつけ危険なのは、結局のところ、既得権益ではなく思想である。」という言葉のとおりであります。

以上1999年1月17日にアップした意見ですが、その後の報道をフォローアップ-1およびフォローアップ-2として追ってみます。

1999年1月17日


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