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「らぴすらずりIX」(LIXU)〜第9回かわさきロボット大会参加マシン | ||||||||||||||||||||||
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発端 | ||||||||||||||||||||||
かわさきロボット競技大会では相手を押し出すか、ひっくり返せば勝利となります。
しかし相手に及ぼした力は「作用・反作用の法則」に従って自分のマシンにも
及ぼされることになります。
そこで相手マシンを押し出すためには相手より摩擦係数の大きな足機構が必要となり、 相手マシンをひっくり返すためには相手よりも安定したマシンの構成が必要となります。 |
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これを逃れる術はないでしょうか? それにはフィールド上でマシンが触れている二つ目の素材、空気を利用することです。 空気を利用することで、足の摩擦係数が少なくとも相手を押し出すことができ、 あるいは自分のマシンの安定性を増すことができます。 きっと。
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![]() 図1:マシンに働く力
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他の空気利用マシン | ||||||||||||||||||||||
かわさきロボット競技大会における空気力利用の歴史は古く、
そのスタートは第4回大会における「桐蔭横浜大学チョチョリーナーズ」の
「我ーさん」あるいはチーム「人間の自主規制」の
「人間の自主規制」などにさかのぼることができます。
しかしこれらのマシンは空気力を利用する上で問題がありました。
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「人間の自主規制」ではマシンの下側に吸盤をつけ、
掃除機のモータを使ってマシンを床に吸着させました。
十分な吸着力が発生するので、
吸着中にマシンを移動させることは事実上自分も相手もできませんでした。
しかし現在のフィールドは凹凸起伏が非常に激しいので、 このような方式では床に十分に吸着することができず、 効果を発揮できません。 また「人間の自主規制」の攻撃アームのレンジは短いので、 相手を追いかけて移動するためには吸着を切る必要がありました。
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「我ーさん」はマシンの上に扇風機のプロペラを搭載しました。
これによって発生する反力は僅か300gですが、
地形に影響されることはないので、
現在のような激しい凹凸を持ったフィールドでも使用できます。
しかし、近接格闘戦を行うマシンに高速回転するプロペラをつけると、 相手のアームがプロペラ回転面に入ってしまうかも知れず、 いわゆるバードストライクによる事故の危険性が非常に高くなります。
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LIXUの考え方 | ||||||||||||||||||||||
「人間の自主規制」のような吸着機能を備えた近接格闘戦マシンは、
現在のようなフィールドでは十分に効果を発揮できません。
「我ーさん」のような垂直反力発生方法では、
安全性を確保するために十分なガードが必要になり、
結果としてマシンは複雑になります。
また、吸着や垂直反力増加を使うと、
その分機動性が犠牲になるため、
どうしても性能のトレードオフが発生していました。
しかし「らぴすらずり」シリーズはロングレンジアームで相手を攻撃するので、 よく考えるとそもそも機動性が必要ありません。 そのためマシンの総合性能を下げることなく、 プロペラ推進や吸着機構を取り付けることができるのです。
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マシン構成 | ||||||||||||||||||||||
「LIXU」では、
吸着で摩擦を増して相手を押し出すアイデアを吸着と押し出しの二つの機構が必要なことから廃し、
単純にプロペラの推力のみで相手を押し出すこととしました。
大まかに推計してプロペラの推力は相手マシンの重量の3割程度、1[kgf]は必要と考えました。
また危険性を考えて、 バードストライクのない位置にプロペラ推進機構を追加することと、 プロペラ推進機構の追加に伴う重量増加は足機構の軽量化によって補償することを 主眼としてマシン構成を行いました。 そのため足機構についてはミラーチェビシェフ2 にこだわらず最適なものを検討することとしました。 自社技術を放棄する羽目になる時もあります。
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腕機構〜心理障壁とスローアーム〜 | ||||||||||||||||||||||
「らぴすらずり」〜「らぴすらずりVI」までのストラトリンク腕機構は
ICBEと呼ばれるエッジ機構を相手の足元に
いち早く打ち込むことを主眼としていました。
しかし近年の足機構の発達と歩行スピードの向上に伴って、
ストラトリンクは十分に早くないことが明確となってきました。
高速化する相手に対応するためにアームを高速に動かそうとすると、
結果として重い物体を早く動かすことになります。
まともに計算すると加速度が10Gも必要になり、
実現するのはかなり面倒です。
そこで「LIXU」ではアームを3本として、 そのうち2本には高速に展開して相手を挟み込む役目を負わせました。 このアームは相手に対する攻撃能力を持たず、 心理的障害にしかならないため「心理障壁(Psyco-barrier)」と名前をつけました。 これならばカーボンファイバーのパイプで軽く簡単に作ることができます。 残る1本は「スローアーム(slowarm)」です。 構成はストラトリンク(StratoLINK)とほぼ同一ですが、 ICBEの姿勢を決定するために取り付けていた寄生並行リンクは ありません。 ここにプロペラ推進機構を取り付ければ、 早く移動する必要のあるのは軽い物のみとなり、 質量のあるものはゆっくり移動すればよいことになって力学的には有利です。
![]() 図4:心理障壁とスローアーム
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プロペラ推進機構 | ||||||||||||||||||||||
「LIXU」ではバードストライクの危険を第一に考えて、
まず図5(b)のような機構は危険として排除しました。
次に図5(a)のような機構をパイプがHANDSでは特注品になってしまって高いことから
却下しました。そこで折衷案として図5(c)のような機構としました。
これならば特注品のパイプは使用しないので低コストで、 1000mm近い遠距離から相手を押すのでバードストライクの危険も少ないはずです。
![]() 図5:プロペラ推進機構の位置
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足機構〜完全補正足先〜 | ||||||||||||||||||||||
足機構は軽量化と部品点数削減の観点から流行の補正足先を使用することとしました。
しかし単に足の先端部を漫然と円弧状にするのでは、
チェビシェフリンク機構のような上下動のない歩行はできません。
よって、足機構の方程式と原動節の上下動を0とするという条件から
足先端の曲線を計算にて決定しました。これにより達成したのは、
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図6に示すのがLIXUの補正足先機構です。
赤い円が原動節の運動を、青い楕円が足先点の動きを表しています。
斜めの弧状の線は足先の補正曲線で、 原動節の回転180度以上にわたって、 原動節から地面(y=0の線)までの距離がまったく変わっていないことがわかります。 ただし補正足先のみではピッチング方向の姿勢を決定できないので、 実際に使用する際にはアウトリガーを前後に出して安定を図りました。 |
![]() 図6:補正足先機構のグラフ (クリックするとアニメーションします)
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また、この足機構の採用により部品点数は劇的に減少し、
新作マシンとしてはじめて
「らぴすらずり(初代)」を下回りました。
また加工精度の必要な部品も減少したため、
製作は順調に進みました。
これにより加工工数削減が実証されました。
![]() 図7:歴代らぴすらずりシリーズの作成部品点数
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マシンスペック | ||||||||||||||||||||||
「LIXU」のスペックを以下に示します。
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結果 | ||||||||||||||||||||||
LIXUは2002年8月24日に行われた「第9回かわさきロボット競技大会」
に出場しましたが、一勝することもできませんでした。
主に敗北の要因となったのは、
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図8:LIXU
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マシン総括 | ||||||||||||||||||||||
「LIXU」はプロペラ推進による推力での相手の押し出し
というまったく新しい方法を提案し実現しました。
また、新しい足機構を実証し設計に当たっては劇的な部品点数削減を実現しました。
しかし旧式な機構の実装と動力源の不十分さにより、 好成績を収めることができず、 例年のように大会関係者にインパクトを与えることはできませんでした。 勝利しないマシンのアイデアは、他者には無意味なアイデアに見えるのです。 プロペラ推進の効果を関係者に認識してもらうためには、2003年の 「らぴすらずりIXx」を待たねばなりませんでした。
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マシン略歴 | ||||||||||||||||||||||
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