「保守的らぴすらずり」〜第8回かわさきロボット競技大会参加マシン
近接格闘戦を得意とするマシンが多く参加するかわさきロボット競技大会で、 最初に展開による超遠距離攻撃を実現させ、「異質」なマシンとして 着目されてきたのが「らぴすらずり」シリーズです。

このシリーズは1997年の 「らぴすらずり(初代)」から 2000年の「らぴすらずりVI」まで、 フィールドの端から端まで届く細く長いアームを特徴としてきました。 しかし今回は全く新しいコンセプトのマシンで大会に参加することになりました。 それが「保守的らぴすらずり」です。

「保守的らぴすらずり」の背景
「保守的らぴすらずり」の設計/製作は当初の予定より大幅に遅れました。 これは諸般の事情(「伺か」のHALSkinとかinterghostを作っていた)や 突発事故(自転車で転倒して骨折した)によるものです。

図1:らぴすらずりシリーズの設計製作期間の比較

そこで、当初のコンセプトを一旦ゼロクリアし、 8月中旬から大会までの約1ヶ月で、 「(1)確実に出場できて(2)今まで誰もやったことがなくて(3)面白い」マシンを作る、 という目標に置き換えました。 またこれは従来の設計製作期間を8分の1以下にする必要があることを意味します。

再利用と簡素化
まず確実に出場するためには、新しく製作する部品の数とその複雑さを極限まで 下げなければなりません。そこで今までに製作したマシンを再利用し、 そこに新たな機構を付け加えることで新規マシンを作ることとしました。

図2:SkidLEGの改造内容

まず最も製作部品の数が多くなる足機構を「らぴすらずりIII/VI」で 使用していたミラーチェビシェフ2機構と決め、 全てそのまま再利用することにしました。 このことで製作部品点数を70程度削減することができました。

もっとも「らぴすらずりIII/VI」の足機構は押し合いを目的に設計された物ではないので、 改良が必要でした。まず粘着物を足の先端に貼り付けることにより摩擦力を増しました。 次にモータの駆動電圧を少し上げることにより押し合いに強くなることを期待しました。

また今まではチーム内で自作していたモータドライバも、 今回は実行委員会が支給して来るものをそのまま利用することで 製作にかかる時間を減らしました。 自作のモータドライバは軽量でカスタマイズも効くのですが、 デバッグにかかる時間がバカにならないこと、 今回の「保守的らぴすらずり」は自由度が少なく、 支給モータドライバで十分制御できる事を考慮に入れた判断です。

新しい腕機構〜ファランクス〜
足回りと電装品にはオリジナリティと新規性がなくなったので、 腕機構には全く新しく、かつ簡単で有効なものを搭載することとしました。

選んだのは「ファランクス」と言うアイデアです。 これは2000年大会終了直後にMeister君と一緒に考えたアイデアで、 幅1m程度に展開したマシン前面に槍を多数備え、 そのまま前進して相手の機構に槍を突き刺し、押し出すと言うものです。

図3:「ファランクス」(オリジナルアイデア)

このアイデア実現のためには機動性が必要ではないため、 「らぴすらずりIII/VI」で使用した古い足回りでも十分であると考えました。 しかし、マシン全体を巨大に展開するのは機構が複雑になるので、 槍のみを斜めに展開することとしました。

また独自の展開機構は積まず、 マシンを前後させることでアームに振動を与えて展開することとして、 簡素化と軽量化を図りました。

図4:「ファランクス」(修正版)

この「ファランクス」は長さが1000mm近くあるため、 ほとんどのマシンに対してアウトレンジ攻撃ができ、 また展開した槍の範囲が同じく幅1000mm程度あるため、 相手マシンが側面に回ることがほぼ不可能となりました。 また、材料は軽量化と強度確保のためにカーボンファイバーと グラスファイバーを交互に使い、白黒の槍ぶすまがマシンの外見上の特徴となりました。

コンセプトとマシンの目的
以上のように「保守的らぴすらずり」は今までのらぴすらずりシリーズとは 全く違ったコンセプトを持ったマシンとなりました。 コンセプトは「(1)確実に出場できて(2)今まで誰もやったことがなくて(3)面白いマシン」、 目的は「(a)出場すること(b)ファランクスの効果を試すこと(c)格闘戦の経験をつむこと」。

マシン作成
結果として新規作成部品は30程度となり、 そのほとんどが精度のいらない物となったために設計製作は非常に順調に進みました。 今までの「らぴすらずり」シリーズの中では最も早く製作が完了したほどです。

図5:新規製作部品数の比較

設計着手が8月10日、設計完了が8月18日、製作着手が8月下旬で、 9月第1週中には製作が完了し、9月15日・16日にとどろきアリーナで行なわれた 第8回かわさきロボット競技大会に参加することができました。

完成したマシンは以下のようなものになりました。

図6:保守的らぴすらずり(2001年9月14日撮影)

試合結果
「保守的らぴすらずり」はらぴすらずりシリーズでは唯一、 2001年9月15日のかわさきロボット競技大会だけでなく、 その後2001年11月に行なわれた第2回バトルロボットトーナメント (神奈川工科大学)と第5回ロボットウォーズ in SUT(東京理科大)に参加しました。
試合結果は以下のとおりです。

第8回かわさきロボット競技大会予選大会(2001年9月15日)
試合 対戦相手 結果
予選第1回戦 LightBreakerII 正面から押し合ったものの軽すぎて押し負ける。押さえ込み一本負け
敗者復活1回戦 なし 不戦勝
敗者復活2回戦 クレマチス 相手とスタック30秒により水入り。
相手電装品が破壊されており修理できず。一本勝ち
敗者復活3回戦 風鈴 相手とスタック30秒により水入り。水入り後押さえ込み一本負け
第2回バトルロボットトーナメント(神奈川工科大 2001年11月11日)
試合 対戦相手 結果
第一試合 ハチミツボーイ 押さえ込み一本負け
第5回ロボットウォーズ(東京理科大 2001年11月25日)
試合 対戦相手 結果
第一試合 LightBreakerII 相手と正面から押し合い押さえ込み一本負け
マシンの構成、特に足回りが突き押しを前提としたものになっていないために、 相手と正面で突き押し勝負に突入してしまうと押し負けてしまうという欠点が これらの試合で判明しました。試合成績で押さえ込み負けが多いのはこのためです。

一方で、ファランクスが相手の機構に入った場合は、 容易に相手を行動不能に陥れることが可能であるとも判明しました。 また広い正面は相手に対して側面を突く戦略を取らせませんでした。 これらの試合では全て正面で相手と戦闘を行なっています。

図7:試合風景(第8回かわさきロボット競技大会)

マシン総括と「愉快開発」
「保守的らぴすらずり」では今までのらぴすらずりシリーズと異なり、 「安く・早く」作り上げることを目的としました。 そのため、かわさきロボット競技大会でも、 またその後の類似大会でも好成績を収めることはできませんでした。

しかし、当初の目的であった 「(1)確実に出場できて(2)今まで誰もやったことがなくて(3)面白いマシン」の製作と、 「(a)出場し(b)ファランクスの効果を検証し(c)格闘戦の経験を積む」事は十分に達成できました。 また(b)ファランクスはその後 「らぴすらずりIX」 「らぴすらずりIXx」でも 応用され、 「らぴすらずりIXx」のベスト16入賞の原動力ともなりました。

更に結果が未知数のアイデアの検証は、 既存のアイデアの再検証と異なり、 設計製作が非常に楽しいことも判明しました。

趣味のマシン製作においては作っていて楽しい事が重要です。 作っていて楽しいことが、 結果としてマシンの設計製作を早く進めることにつながるからで、 また早く完成したマシンはデバッグに時間を長くかけることができ、 結果として強いマシンとなるからです。

今までの勝利・理念最優先のマシン設計を改め、 マシン設計製作の速さと製作時の楽しさに着目して 強いマシンを作るアプローチを 「Faster, Cheaper, Yukaier(より速く、より安く、より愉快に)」 方式と名づけ、今後のマシン製作の指針としていきます。

マシン略歴
2000年10月 「保守的らぴすらずり(原型)」の開発決定
2000年11月 攻撃用アームを2+1の3本とする事を決定
2001年3月 かわさき技術交流会に参加のため開発中断
2001年4月〜7月 「何か。(仮)」用シェル「HAL9000分の1」「interghost」作成のため開発中断
2001年8月上旬 「保守的らぴすらずり(原型)」の開発中止
「確実に参加できて、今まで誰もやったことがなくて、 面白いマシンを作る」をコンセプトにマシン設計をやり直し
2001年8月下旬 「保守的アーム」の設計・製作完了
2001年9月15日 第8回かわさきロボット競技大会に参加
2001年11月中旬 神奈川工科大学バトルロボットトーナメントに参加
2001年11月下旬 東京理科大学ロボットウォーズに参加
2002年6月 NHK取材時の運転で足機構を破損。以降保管状態

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