2002年4月


「アイスマン」☆
- Freezer Burn -Joe R. Lansdale -
ジョー.R.ランズデール 七搦理美子訳 早川書房

年金の小切手を横取りするために死んだ母親を寝室に隠すが、換金出来ないビル。仲間を誘い手近な花火の屋台を強盗するが、動揺した仲間が店員を射殺、警官に追われ仲間は蛇に襲われ、ビルは蚊の大群に襲われる。助けたのは、旅回りのフリークスのカーニバル、黒人のシャム双生児、ドックマン、ひげ女、座長のフロスト、その妻のブロンド美人のギジェットだけは普通の人。ビルはカーニバルとともに行動する事に…。

文体も面白く、展開もスピード感があり斬新。終わり方もなんとも凄い。社会の底辺、ダメダメなビルが、さらに下と見るフリークスたち。その生活や視点が面白い。すごく新鮮な感覚だった。
同じ作家のMWA(アメリカ探偵作家クラブ)最優秀長篇賞受賞の「ボトムズ」も面白そう。


「妖櫻忌」(ようおうき)
篠田節子 角川書店

著名な女流作家大原鳳月が死去、担当編集者堀口のもとに大原の秘書若桑律子が訪れる。大原をモデルに綴った原稿を持ち込んで来た若桑…。
篠田節子は初めて読んだ。モダンホラーではあるが、日本的な味が強いという所で、「死国」などの坂東眞砂子などを思い出させる。全体には面白いが、短いせいか最初のアイデアから広がりが無くもの足り無い印象。他の作品も読んでみないと、この作家のホラーについては評価出来ない感じ。


「論破できるか!子供の珍説・奇説-親子の対話を通してはぐくむ科学的な考え方」
松森靖夫 ブルーバックス

子供の珍説、ではあるが大人も陥りやすい科学的間違いを扱い、科学的な考えというものを楽しく解説している。面白かった。北極から南極へ通る穴に石を落とすとどうなるか、3÷3=1だから0÷0=1、お湯からのぼっている白い煙が水蒸気などなど。物理、数学、科学、生物学、と広い分野に渡っている。
ブルーバックスではひさびさに面白い気がした。


「身近な数学の歴史」
船山良三 東洋書店

数学の歴史、一般的な豆知識的なもの、ちょっとしたエピソードがほとんど。
エジプト時代のピラミッド、バビロニア、ギリシャ時代のピタゴラス、ソクラテス、プラトン
ヘレニズムのユークリッド、古代インド、数学と天文/暦の関係、中世ヨーロッパ、近世ヨーロッパ、デカルトなどなど。話題は広いが、読みものとしてはイマイチ面白く無い。


「アガサ 愛の失踪事件」
- The Search for Agatha - by Kathleen Tynan
キャサリン・タイナン 夏樹静子訳 文春文庫

映画「アガサ・愛の失踪事件」(1979)の原作。1926年12月4日、36歳の推理作家アガサ・クリスティが夫アーチボルド・クリスティ大佐と7歳の娘ロザリンドを残して自宅から失踪、11日間の謎の行動をフィクションとして作り上げている。
映画もそれほど印象には残ってないが、原作も印象は薄い。クリスティの考えや行動に踏み込んでいけていない感じ。時々見せるいたずら心がクリスティらしくて、ちょっと微笑ましいけど。


「砦なき者」
野沢尚 講談社

「殺されたい女」、「独占インタビュー」、「降臨」、「Fの戒律」の全4章で'97,'98、'99、2001年の10月号小説現代に初出。主人公の赤松直起は、「破線のマリス」のMBC首都テレビ報道局放送センター、報道番組「ナイン・トゥ・テン」のディレクター。後半の二章は、特集コーナー「事件検証」の虚偽報道による自殺により、恋人を失った悲劇の青年、八尋を軸に話が進む。

最初の二章に、後の二章を取ってつけた様に組み合わせ全体を構成したような感じ。展開がちょっと「模倣犯」を連想させる。面白い事は確かに面白いのだけど、最後のまとめ方などは不満。


「微熱の島台湾 新版」
岸本葉子 凱風社

「30前後、やや美人」を読んだ勢いでまたまた岸本葉子。やはり旅行記の方が面白いだろうという確認の意味もあるが。
那波からの国際航路で向かった台湾、台北中心でも無く、観光、食べ物の話は少ない。アミ族、ヤミ族の住む島、ルカイ族など少数民族の話が多いところがいい。また日本がかつて占領していた影響、また大陸との関係という視点が多い。「よい旅を、アジア」に比べてディープな話が多くて面白い。


「失われた10年を問う NHKスペシャル」JMM Extra Issue
村上龍編著 

タイトル通り、「失われた10年」について、バブルとは何だったのか、各界の人物に問うている内容であるが、前半は対談編で、早稲田大学教授西村吉正、マーケット・アナリストのピーター・タスカ、吉川洋、森永卓郎小倉昌男、カルロス・ゴーン。後半はメール編。

特に前半の対談編では多くの視点から「失われた10年」の総括が語られている。ピント外れや(特にインターネット業界の見方、数年の対談なので)、甘い部分もあるが、それも含めて内容的には面白い。「失われた25年」という見方や、価値観の変化など、多くの考えさせられる要素がここにはある。
「あの金で何が買えたか バブルファンタジー」といい、バブル総括という意味では、村上龍はなかなかいい仕事をしているかも。

JMM(Japan Mail Media)
JMM&Ryu's Book Library - NHK出版の村上龍特集ページ
ryu-disease.com - 村上龍公式サイト


「不眠症」上
- Insomnia - Stephen King
スティーヴン・キング 芝山幹郎訳 文芸春秋

舞台は「IT」と同じメイン州デリー、人で暮らしの70歳の老人、ラルフ・ロバーツが主人公。妻を脳腫瘍で亡くした後、不眠症に悩む彼がオーラのような不思議な幻覚を見るなど不思議な体験をするようになる…。

ストーリは一筋縄ではいかない展開で、不思議な生命体「チビでハゲの医者」の三人、キャロリン・ロバーツ(68歳未亡人)、妊娠中絶反対グループ、女性救援団体が複雑に絡み合う。最初は、「痩せていく男」みたいなストレートなホラーかと思ったが、読後はラブストーリのような印象。ともかく、途中で見せる、別の次元の表現などはキングらしい冴えが見える。全体では、やや冗長。


「不眠症」下
- Insomnia - Stephen King
スティーヴン・キング 芝山幹郎訳 文芸春秋


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