2001年12月


「模倣犯」上 ☆
宮部みゆき 小学館

 内容も面白いが、厚さも話題には十分になるほど。段組で1300ページ以上。連載モノのせいか、ちょっと長すぎるてメリハリが利いてない気がするし、中途半端なエピソードがあるのが気になる。1,2部は非常によかった。3部のそのまとめという感じになってしまったが、全体ではかなり面白かった。
 
 公園のゴミ箱に捨てられた右腕の、第一発見者の少年は別の事件の強盗殺人事件の家族…この事件が中心に展開すると思いきや、犯人からのメッセージ、そして連続女性失踪へ、さらに意外な展開へ。登場人物も孫娘が行方不明の豆腐屋の有馬老人、事件を追うフリーライター滋子、書類担当のベテラン刑事とその部下、犯人、その友達と数多く絡みあう。なかでも豆腐屋の老人、有馬義男がかっこいい。「頭文字D」といい、豆腐屋のオヤジが今のトレンドか?


「模倣犯」下 ☆
宮部みゆき 小学館


「新中年手帳」
泉麻人 佐伯克介画 玄冬舎

 全体の雰囲気が泉麻人の何かに似ていると思ったら、これは「街のオキテ」の中年版。
 「街のオキテ」は、「東京23区の偉い順」とか「オシッコのシミの隠し方」とか「停車時にカーステレオから流れ出ちゃいけない曲」とか。この「新中年手帳」は「駅でのかっこいい牛乳の飲み方」、「自動改札の抜け方」「いなせな携帯のかけ方」「複上死のしかた」などなど。まるで役に立たないけど、やっぱり笑える、うなづける。
 佐伯克介の挿絵がいい感じ。


「バケツひとつでアジア旅」
オーシロカズミ 情報センター出版局

 アジアの旅でお役だちグッズに取り上げられているのが、ぞうり、バケツ、裁縫道具、名札…タイトルはここから来ている。ゴムぞうりにバケツを下げての旅、なんか姿で見えるよう。半分は絵(漫画?)で体験のエッセイ集というよりは、メモ的な情報の寄せ集めが多いけどなかなか楽しめる。
 料理や音楽への興味が強くて、他のアジアものとちょっと違う味わいもある。
 
南米フォルクローレバンド、「グルーポ・ゆい」- オーシロカズミがメンバーのバンド


「方向オンチの科学」
新垣紀子 野島久雄 講談社ブルーバックス

 「方向オンチな女たち」「話を聞かない男、地図が読めない女」と方向オンチ関係を連続して読んでいるが、その中でも最も真面目、科学的アプローチによる方向音痴の研究本といえる。空間認知、認知地図、道を覚えるスキル、試験、認知科学道を見つけるスキルなど、非常に真面目なアプローチ。
 目次や、本に載らなかったコラムはonchi homepageで読める。

onchi homepage -


「タンジブル・ビット-情報の感触 情報の気配」
- Tangible Bits:Towards Seamless Interface between People,Bits and Atoms -
Hirosi Isii+Tangible Media Group/MIT Media laboratory
石井祐+ タンジブル・メディア・グループ/MITメディアラボ

 MITメディアラボのセミナーでもらった本。「ビーイング・デジタル」を読み返した後に読んでみる。内容的にはICC(初台のNTTインターコミュニケーションセンター)で2000年に行われた「タンジブル・ビット展」の解説書で、ミュージック・ボトル、I/Oバルブ、インタッチなどのインタラクティブなメディア・アートの解説が主。でも百聞は一見にしかず、で実体験にはかなわないかも。


「ライト、ついてますか-問題発見の人間学」
- Are you lights on? :How to figure out what the problem really is.-
Donald C. Gause, Gerald M. Weinberg
ドナルド.C.ゴース、ジェラルド.M.ワインバーグ 木村泉訳 共立出版

 ワインバーグ、翻訳が木村泉という事で、内容をほとんど知らずに読み始める。簡単に言えば、一般的な問題解決方法論の本。非常に実践的であるようで、抽象的な内容。役に立てるには、さっと流し読みするだけではダメでしょう。ワインバーグの本は大抵そうだけど。


「フーテン老人世界遊び歩記」
色川大吉 岩波書店 同時代ライブラリー338

 歴史家色川大吉の著書。自らをフー老(フーテン老人)と称し、30年余り世界中を歩いてきた旅行記。その歩いてきた場所に圧倒される。ウズベキスタン/カザフスタン、シチリア島カターニア(マフィアの巣、バックをひったくられた)、イラン/イラク国境の旅、アフガニスタンの村、グアテマラ、メキシコ国境、アンデスを越えてクスコ/マチュピチュ/チチカカなどなど。治安も情勢も悪いけど、魅力的な所ばかりでうらやましい。
 しっかりした歴史観、知的な視点を持って国、政治、人を見ているのがいい。しかし、連れはいつも女なのは何故?


「十二番目の天使」
- The Twelbth Angel - Og Mandina
オグ・マンディーノ 坂本貢一訳 求龍堂

 ジョン・ハーディング、コンピュータソフトの大手ミレニアム社CEOが主人公。ジョンは愛する妻と一人息子を事故で失い自殺を考えていたが、親友ビルにリトルリーグの監督を依頼される。彼を救ったのは亡き息子に似た一人の少年ティモシー。フライは捕れず、バットはボールに当たらない。しかしティモシーは「決してあきらめない」という前向きな姿勢でチーム全体を引っ張っていく…。

 基本的にはいい話なんだけど、感動させようという意図がミエミエでちょっとうんざり。全体も一つのエピソードにはなっているけど、物語としては力不足。まあ、軽い読み物と言った程度。判りやすいという事ではいいんだけど。

 この訳者、精神世界モノの翻訳が多いのも気になるが、その他にはビジネスものばかりで小説の翻訳経験が少ない。文体はともかく、ところどころヘンな翻訳が多い、コルトガバメントを「政府モデル/コルト」なんて訳す必要ないし、レーバー・デーや、ブルペン、マフィンを注釈にする必要があるのか??


「リヨンの料理人 ポール・ボキューズ自伝」
- Paul Bocuse,La bonne Chere -
ポール・ボキューズ 須山泰秀(辻調理師専門学校)訳

 子供時代、ピラミッドのフェルナン・ポワンの下での修行時代から現在に至るまでの自伝。
 ポキューズの料理に対する姿勢が判る。特に「愛情を基礎とした料理」の喪失に対する深い危惧を感じる。土地とその野菜、動物、果物、家族の愛情、仲間への愛情が料理と強く結びついているのを感じる。
 
 途中からは178cm,109Kgの巨体のダイエットの話。数々のダイエット法が出てきて、結局落ち着いた所は量を減らす事で20Kg痩せる。食べるものを禁止するのは長続きせずに逆効果、健康とダイエットが目的になる料理は間違いと主張している。
 畜産家も、農家も、料理人も材料に徹底的にこだわる姿勢がいい。狂牛病の騒ぎを見ると特に感じる。
 海老沢泰久の「美味礼賛」を再読したくなった。


「史上最強のリーダー シャクルトン」
- Shackleton's Way - Margot Morrell&Stephanie Capparell
マーゴ・モレル&ステファニー・キャパレル 高遠裕子訳 PHP研究所

 アーネスト・ヘンリー・シャクルトン(Ernest Henry Shackleton 1974-1922)。アイルランド生まれ、1914年大英帝国名局横断隊エンデュアランス号で南極へ向かうが船が沈没、南極を約二年間漂流しながら、隊員27人を全員無事生還させる。ほとんどは、この二年間のドキュメンタリ。

 ちょっとしたシャクルトン・ブームらしい。この本は、その中でもリーダーシップという点からみた、ビジネス書的な部分が多い。「何事も恐れずに、寛大さを持て」、「身分、地位よりも、意欲で人選」、「シャクルトン流の、リーダーシップ、人選方法、チームの作り方、長所の伸ばし方、危機を乗り越える方法、難事業に取り組むチーム、などなど。リーダー像としては斬新で面白い。
 1911年のノルウェーのアムンゼン隊南極初踏破、1912年の英国スコット隊の南極到着(帰路に遭難)は有名ではあったが、求められているリーダー像としてシャクルトンが取り上げられるのは、時代を感じられて面白い(今は極地漂流の時代??)。

Sir Ernest Shackleton - 個人によるシャクルトン・サイト(英文)


「伊能忠敬を歩いた」
佐藤嘉尚 新潮文庫

伊能忠敬 - 子午線の夢-」を観た勢いで、読んでみる。
 伊能忠敬の足跡を二年かけて歩き通した伊能ウォークのドキュメンタリと、実際の伊能忠敬の小説風伝記を交互に描く。小説風の部分はそれなりに面白かったが、ドキュメンタリの方は事実関係の記述が多く退屈。ウォーキングに向かう姿勢も、これで歩く文化が伝わるとは思えない内容だった。
 著者の創作ではあるが、伝記の部分では北斎の娘のエイが忠敬の四番目の妻(内縁)になっている。

伊能ウォークWeb隊 -


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