2002年3月


「インディアン・ジョー -フェンスポスト年代記」
- The Fencepost Chrolicles - W.P Kinsella
W.P.キンセラ 永井淳訳 文藝春秋

 「フィールド・オブ・ドリームス」の原作「シューレス・ジョー」のキンセラ、その作品は野球モノ、インディアンものに大別されるらしが、そのインデアンものの短編集。

 舞台はカナダ、アルバータ州のクリー・インディアンの架空の居留地。そこに住むサイモン・アーミンスキンが語り手であるが、その友達のフランク・フェンスポストが主人公。狡猾でずるがしこく、傍若無人、白人をあの手この手で小馬鹿にするのが痛快。わき役の女呪術師のマッド・エンタ、酋長も味があって面白い。不思議な魅力がある小説。インディアンを従来の視点である、気高い人間とも、野蛮人とも、迫害の対象とも見ていない新しい視点がいい。


「なぜかれらは天才的能力を示すのか サヴァン症候群の驚異」
- Extraordinary People:Understanding "Idiot Savants" -
Darold A. Treffert
ダロルド.A.トレッファート 高橋健次訳

 映画「レンンマン」や「火星の人類学者」にも登場した精神障害/知的障害者が高度な天才的能力を示すサヴァン症候群、徹底的にそのサヴァン症候群だけを解説している。特殊な内容ではあるが、一般向けの本なので分かりやすい。

 著者は精神科の臨床医 過去100年の文献を参照、研究している。カレンダー計算、電光石火の計算能力、音楽の完全な再生、猫のラファエロなどの実例を示す。著者はあくまでも科学的で、「知能が低いからこそ、サヴァンになる」と神秘性を否定し、冷徹にも感じさせる。またサヴァンの感情は平坦であり、創造力は乏しいとしている。
 サヴァンの80%は男性であること、障害を除去することにより突然能力が失われること、才能を延ばそうとすると能力が失われることなど興味深い。


「想い出の定番アワー」
泉麻人 角川文庫

 1984年光文社刊行「10 Years Before」を改題文庫化。
 70年代あたりからの定番モノ、E.T.レターセット、ソックタッチ、レイバン、ウォークマン、ママレンジ、ルービックキューブ、ムートンのコートなどなど。青春の懐かしさ、哀愁をモノから解く手法がいかにも泉麻人。二編は短編小説。


「山旅浪漫記」
小林信彦 山と渓谷社

 小林信彦が山と渓谷に描いた/書いたものをまとめもの。小林信彦は1935年生まれ、いつのまにやら60歳半ば、しかし行動は今でも若い。
 ネパール山村道中記、山道具に関する自分小史、イラストルポ・アルプス山麓を行く、ヨーロッパ・アルプスの名峰、グランド・ティトンのトレッキングなどなど。
 面白いところ、平凡な所いろいろだが、絵も味があって楽しめる。


「いまだ下山せず」
泉康子 宝島社文庫

 北アルプス槍ケ岳、猛吹雪の中、のらくろパーティの三人が行方不明に。他のパーティの証言から三人の軌跡を追うドキュメンタリ。前半、三人の行動を追う推理性は結構面白かったのだけど、事実が明るみに出るに連れて、事実の重みで楽に読めない。後半、死の過程を追うという作業が重すぎた。


「韓国美人事情」
川島淳子 洋泉社

 著者はソウル在住のフリーライター。ワールドカップ前の日韓友好ブームの出版なのか。韓国文化を知るという意味では、ちょっと変わった視点で面白い。
 韓国におけるエステ、韓国式メイク、美人になるための食事、整形、その背景の見栄っ張りの性格。そして結婚観、玉の輿などなど。似なくなるのが不自然だと親子で整形する話には驚いた。
 おとこの視線が美人を作るというのも、男社会の儒教思想が背景にあって悲しい感じ。


「鬼子」
新藤冬樹 玄冬舎

 デビューの「黒い花」のヒット以来、以来22作泣かず飛ばずの売れない中年作家恋愛小説家、袴田勇二が主人公。袴田の母が死んだ4か月前から、息子浩は家庭内暴力、妻は知らんぷり。そんな中、隣家の犬が無惨に殺される…。

 何とも薄っぺらいストーリ。細かい調査せずに頭の中で書いているのがミエミエでリアリティに欠ける。日本の作家にありがち。とくに、何度か出てくる"横浜関内の閑静な住宅地"ってのが参る。ちょっと調べりゃ、関内が閑静な住宅地とほど遠い事なんか判るだろうに。こういう下調べに時間をかけないでプロと名乗るのがおこがましい。主人公も脇役も、なんとも真実味がない。マスターの橋口、ヒットメーカーの編集者など、いかにも最初からうさん臭いし。


「ダーウィンの剃刀」
- Darwin's Blade - Dan Simmons
ダン・シモンズ 嶋田洋一、渡辺康子訳 早川書房

 保険会社の依頼で交通事故の状況を調査する、事故復元調査員ダーウィン・マイナー(元海兵隊のスナイパー)がロシアン・マフィアに襲撃される、背後の大規模な保険金詐欺の犯罪組織、ソ連軍の狙撃手がダーウィンを襲う。
 ダン・シモンズは「殺戮のチェスゲーム」などちょっとしか読んでないが、これはサスペンス、アクションとしてはかなり面白い。タフでクールな主人公は、ちょっと「極大射程」などのスティーヴン・ハンターのボブ・リー・スワガーを連想させる。マニアックな武器へのこだわり、車へのこだわりも面白い。能天気な部分も多いが、お気楽に楽しめる。


「30前後、やや美人」
岸本葉子 読売新聞社

 週間読売、サンパワー、日本ベニアタイムスに連載されたエッセイ。タイトルの、やや微妙な年代の感じ方を上手くまとめてあるものの、軽いエッセイで、もっとポイントが絞られた話題がないのでまとめて読むにはちょっと辛い。女性的な生き方の話が中心。
 年齢的に一才違いなので、共通体験はあって共感出来る部分は多いんだけど、この本では共通するネタが無かった。まだ、「よい旅をアジア(わたしの旅はアジアから)」の方が面白かったかな。


「ロンドンでフラット暮らし」
岩野礼子 中公文庫

 タイトル通り、ロンドンでのフラット暮らし体験記、エッセイ。英国人の友達とのシェア。
 内容的には、やや平凡。文化的な違いや、ちょっとした体験など。お吸い物の中の椎茸を、虫だと思う英国人の反応なんか面白かったけど。
 岩野礼子では「英国解体新書」の方がまとまっていたし、経験がリアルに感じられて面白かったかな。


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