2001年1月


「蟲」
坂東眞砂子 角川ホラー文庫

 第一回日本ホラー小説大賞佳作作品 。
 整地中の富士川のほとりで拾ってきた、「常世蟲」と彫られた石の器。この器が来てから平凡な主婦のめぐみは奇怪な夢や、超常現象に悩まされる…。
 まあまあ、面白いが、話がデカイ割にはまとまりもない。「蟲」という題から「ムシ嫌いにはとても読めない、生理的嫌悪感を持ったムシもの」だと思っていたけど、そういう部分はまったく弱い。文体は軽く、展開も早く読みやすいのはいいけど。


「ロードス島攻防記」
塩野七生 新潮文庫

 「コンスタンティーノープルの陥落」が、面白かったので読む気になった。
 1452年、コンスタンティーノープル陥落から70年。1522年、西進するオスマン・トルコの大帝スレイマン一世は自らの陣頭指揮によってロードス島攻略線を開始する。島を守る聖ヨハネ騎士団との5ヶ月に渡る、壮絶な攻防を描く。「コンスタンティーノープルの陥落」の様な、戦闘に意外な展開は無いが、戦いはより激しい。城塞都市、大砲の出現により変化した築城技術など、技術論は面白いし、聖ヨハネ騎士団の歴史的な位置なども面白い。
 
 現在、マルタ騎士団の本部はローマのコンドッティ通りにあり、バチカンと同じ様にイタリアの中の独立国として存在しているらしい。


「詐欺とパクリの裏手口」
東西寺春秋 にちぶん文庫

 著者の詐欺師への取材をまとめたもの。
 海外でのトラブル的な詐欺事件、無賃乗車などの小物の話はそれ程面白くなかった。その中でも、印鑑販売会社を作って暴力団を騙す手口と、温泉ポスターコンテストを実施して半分合法的に金を集める手口などは新鮮な内容で面白かった。


「既死感」上 ☆
- Deja Dead - Kathleen Reiches -
キャスリーン・レイクス 山本やよい訳 角川書店

 エドガー賞新人賞ノミネート、カナダ推理作家協会最優秀処女長編賞受賞。
 舞台はカナダのケベック、主人公テンペランス・ブレナンは法人類学者、骨の専門家であり、法医学研究所に勤務する。被害者の骨の鑑定をもとに、連続バラバラ殺人事件にいどむテンペ…。
 著者もシカゴ生まれ、ノース・カロライナ大学教授で、ノース・カロライナとケベックで骨の鑑定を専門にしている。作者そのままが環境を小説にしているので、細部のリアリティなどはさすがに上手い。

 コーンウェルの「検屍官」シリーズを意識している気がする。この小説には、コーンウェルを最初に読んだ様な新鮮さを感じた。ミステリー性は低く、ストーリ自体も大きな驚きは無いが、ディティールとハードボイルドな展開は面白い。
 文章には訳注が多いのが気になる。もっと文に入れ込んでしまっていいのに。あと結末の様々な部分を一気にセリフで説明しているのはちょっと興醒め。


「既死感」下 ☆
- Deja Dead - Kathleen Reiches -
キャスリーン・レイクス 山本やよい訳 角川書店


「心はどのように遺伝するのか」双生児が語る新しい遺伝観
安藤寿康 講談社ブルーバックス

 クローンものを最近よく読むので、ちょっと気になって読んで見る。
 遺伝の基本、メカニズムを解説し、双生児研究や量的遺伝学のモデルについて言及する。遺伝規定性は成長とともに増大するなんて話は意外。最後の「遺伝概念をめぐるさまざまな誤解を解く」の部分が1番大事だと思う…が、十分理解は出来なかった。


「異能の画家 小松崎茂」
根本圭助 光人社NF文庫

 子供の時の小松崎茂との接点は少年マガジンの巻頭特集など。特に「世界大終末」の「地球大脱出」など印象的。「サンダーバード」などのプラモデルの箱は知っていても、買えなかった。小松崎茂としては、後期の近未来画の小松崎茂の印象がある。
 
 この本の内容は、原体験となっている南千住、日本画との出会い、挿絵画家時代、絵物語作家時代、戦記物、ボックスアート、「地球防衛軍」「宇宙大戦争」「海底軍艦」などのストーリボード、メカデンザインなどの作品と歴史、そして人間としての小松崎茂。小松崎茂的世界に興味があれば、是非読んで欲しい。

「小松崎茂の世界」 - 昭和ロマン館内


「脳男」
首藤瓜於 講談社

 第46回江戸川乱歩賞受賞作。
 連続爆弾魔のアジトで発見された心を持たない男、鈴木一郎。爆弾魔を追う茶屋警部、鈴木一郎の精神鑑定を担当する鷲谷真梨子。題名からも鈴木一郎の謎、そのキャラクタが1番の面白さだと思うのだけど、なんとも中途半端で、魅力的とは言いがたい。最後はいかにも続編が書きたいです、って感じの終わり方で気に入らない。


「告白エステ蟻地獄」
尾崎弥生 小学館文庫

 摂食障害の著者が、エステにはまる姿を赤裸々に綴る。その手口がなかなか凄い。去年読んだ「カツラーの秘密」に繋がる、業界の構造を感じる。。
 痩せるという強迫観念と著者の摂食障害の話は、別の本にまとめられていて、あんまり出てこないのが残念。でもエステ業界の手口だけでも読んでいて損は無いと思う。


「ポップ1280」
- Pop.1280 - Jim Thompson
ジム・トンプスン 三川基好訳 扶桑社

 「このミステリーがすごい20001」海外編の一位なので読む。ジム・トンプスンは「内なる殺人者」「残酷な夜」と三冊目だけど、どうも、ワンパターンな気がしてきた。

 舞台は米国南部ポッツヴィルという人口1280人(Pop.1280)の街。保安官のニック・コーリー、口うるさい妻マイラ、間抜けで覗き好きのその弟レーニー、昔の婚約者エイミー、愛人ローズ、売春宿のヒモのカーリーとムース…登場人物はろくでもない奴らばかりで、保安官が主人公の暗黒小説。そして、なんとも唐突な終わり方には驚き。

「このミステリーがすごい20001」海外編ベスト20


「のほほん絵日記」
さくらももこ 集英社

 サントリー「続のほほん茶」のキャンペーンで1999年に24話づつ2回に書いたさくらももこの絵日記48話分に、さらに40話を追加したもの。基本的にさくらももこの日常。父ヒロシ、母、息子、姉、スタッフなどが絡む日常で、のほほんというよりは、トホホな話が多い。しかし子供時代から今になるまでネタを提供し続ける父、母は大したもんである。


「残酷な夜」
- Savage Night - Jim Thompson
ジム・トンプスン 三川基好訳 扶桑社

 田舎町ピアデールに現れるカール・ビゲロウ。背が低く、結核。聴講生になるためにウィンロイ家に下宿する。家主ジェイクは被告として裁判を控えている。ジェイクの美しい妻ファイ、世話好きの老人ケンダル、足の悪いルース…トンプスンらしい暗黒小説、最後は訳が判らない結末…。

 小説はイマイチだったが、「内なる殺人者」ハードカバー版のスティーブン・キングの序文が訳出されているのは必読。
「注意!注意!ヒッチハイカーは逃亡中の異常者の恐れあり!」
(Warning! Warning! Hitchhikers may be Escaped Lunatics!)


「バンコク・ボロアパート奮闘記」☆
岡崎大五 青春出版社

 「意外体験!イスタンブール」から追っている岡崎大五の新刊エッセイ。内容は、時期的には「熱闘ジャングルアイランド」への放浪の前の時期にあたるみたい。バンコクで金が無いながら職を得た主人公のダイゴが転がり込んだアパートでのドタバタ。おかまであばた顔のピン、牧場主を夢見みながら騙されるオヤジ、裏家業を持つオーストラリア人などなど、ヤバイながらも人間味ある住人たちが面白い。なかでもアパート1番の美人ツタカーとの恋物語が面白かった。
 アパート見取り図に、さりげなく「偽札工場」なんて書いてある所が恐ろしい(^^;)。


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