2000年7月


「ディック・フランシス読本」
早川書房編集部編 早川書房

 日本の多くのディック・フランシスのファンが、その素晴らしさを語るのが中心。真保裕一、野田知佑、井崎修五郎、内藤陳などなど。誉めまくりの予定調和的な所もあるけど、共感出来る部分が多くて面白い事は面白かった。ディックを読んだ事無い人にとってはどうなのか判らないけど。資料的にも価値はある。
 二つの短編、「ブラインド・チャンス」- Blind Chance - 「キングダム・ヒル競馬場の略奪」 - The Rape of Kingdom Hill -、来日記念講演、座談会なども含まれている。


「アメリカン・ゴシック」1
ショーン・キャシディ他 長橋美穂訳 角川文庫

 TVドラマになったらしいけど、それは未見。南部の田舎町、サウスキャロライナ州トリニティが舞台。「ツインピークス」「X-ファイル」に続く話題作、という話で、サイコ・ミステリーに心霊、超能力、超常現象と、ありったけ入れ込んでいる。そもそも文章があまりに下手なんで、第1巻で挫折。


「ボーダーライン」☆
真保裕一 集英社

 主人公は総和信販ロサンゼルス支社の調査部主任調査官、永岡修。 P.I(私立探偵)ライセンスを持ってはいるが、普段はクレジットカードの会員の旅行中のトラブルの後始末に明け暮れている。ある時、一枚の写真を手がかりに安田信吾という男を探す事になるが…。

 題名の「ボーダーライン」は舞台となる米国とメキシコの国境を示すが、p236「この世の中には、人間と獣を隔てる境界線を踏み越えてしまった者が時として生まれ落ちてくるものなのでしょうか」とあるように、人間と獣の境界という意味もあるのだろう。この悪役がなかなか凄い、p309「握手をするように人を殺して平然としていられる男」である。
 主人公のまっすぐな性格、絡みつくようなストーリ展開、乾いた文体と真っ当なハードボイルドに仕上がっている。そこに、親子問題などを巧みに組み込んでいるのが上手い。面白かった。


「熱闘ジャングルアイランド」
岡崎大五 青春出版社

 「意外体験!イスタンブール」が結構面白かったので読んでみる。ツアコンになる前の、20代の頃のアジア放浪時代の話。 
 中心はバンコクの近く、スマトラ島より先のニアス島あたり。著者のダイゴと、恋人同士のサーフとジュンコ、ばくち好きのヨシ、煮えきらないタイプの四郎などバックパッカーの仲間。サーフィンには興味ないけど、お気楽に楽しく読めて面白かった。普通のバックパッカーものとはちょっと雰囲気が違う。


「トルコの東トルコの西」
保科眞一/望月敦子 叢文社

 トルコの本となるとなるべく読む様にしている。二部構成のこの本は両方ともツアーでトルコに行った話をまとめたもの。団体ツアーで行った旅行の話が出版される事自体なんか信じられないけど、「パッケージツアーで行ったトルコ共和国」なんてのもあったし、トルコ関係では当たり前なのか??
 内容的には、なんかしょうもない話ばかり。プロの文章とは言えず、臨場感や新鮮な視点も無く、単なるメモ書き、日記みたい。
 前半はトルコの東の方だからちょっとは珍しい。1995年、一行17人の旅、ドーウバヤズット、ネムルート山、第四の都市アダナ、ヴァン湖などなど。後半は、イスタンブール、コンヤ、エフェッソス、トロイ、カッパドギア、おまけにツアーで連れていかれた絨毯屋にベリーダンスとしょうもない内容。

 p66でヴァンのクルド人経営のキリム屋に行って、キリムの事を"絹織りのカーペット"と説明しているけど単純な間違いか?100cm×90cmで5,6万円、座ぶとんぐらいで1万円というからキリムにしては高すぎる。本当に絹のカーペットなのか、だまされているのか?日本語が上手い絨毯屋がいかにアヤシイが。


「地獄で仏」
ナンシー関/大月隆寛 文春文庫

 「テレビ消灯時間」と同時に買って、トルコ旅行中に途中までだったものを読み終わる。「クレア」に連載されたもので、民俗学者の大月隆寛と消しゴム版画家のナンシー関のエッセイ的対談。1992年12月から1995年11月までの話で、話題的には古いのだけど、昔を思い出す感じで読めて面白い。視点は相変わらずに辛辣。ネタはJリーグ、細川内閣、角川春樹コカイン逮捕、米不足、オウムなどなど。時事ネタから芸能までワイドショー的。

 ところで、知り合いが、あるエステでナンシー関を見かけたと言ってた。


「ファン・メイル」上
ロドナルド・マンソン 飛田野裕子役 角川文庫
- Fan Mail - Ronald Munson

 セントルイスのKMIS-TVのTVリポーターのジェーンは"ウォッチャー"と名乗る狂信的なファンから手紙を受け取る。その言葉通り、視聴率を上げる様な事件が起きていく…。
 著者はミズーリ大学の哲学の教授で、これがニ作目。全体が手紙、ファックス、留守番電話、電話、メール、録音で構成される。構成ストーリは面白いのだけど、どうもこの構成が疲れる。普通に書いても十分面白かったと思うけど。犯罪のせいで上がる視聴率などマスコミについて考えさせる部分も好感持てるし、強い恋愛感情を抱く偏執狂の"エロトマニア"を扱いも面白い。しかし、こういう小説の形態では、主人公の人間的な魅力や成長が十分に描けないので、小説としては満足出来ない。


ファン・メイル」上
- Fan Mail - Ronald Munson
ロドナルド・マンソン 飛田野裕子役 角川文庫


「家族狩り」☆
天童荒太 新潮社

 天童荒太は「永遠の仔」が余りに面白かったので、他のも読んでみる事にする。
 中学の美術教師須藤俊介、その隣の家で一家惨殺、自殺という悲劇的事件が起きる。教え子の芳沢亜衣、俊介の同僚の教師清岡美保、事件を捜査する警部補の馬見原は昔長男をなくしている、その妻の佐和子は精神を病んでいる、馬見原の部下の椎村、馬見原の恋人の冬島綾女、その子供の研司、冬島綾女の夫の油井は子供への暴力で服役していた、さらに児童相談センターの氷崎游子…中心の人物だけでこれだけで、さらに脇役も多い。最初読んでいるうちは、あまりの複雑な人間関係に混乱してしまったが、中盤からはのめり込んだ。話は面白い…というか恐い。
 「永遠の仔」よりは推理の面白さは少なく、犯人はすぐ判ってしまう。現代的な病んだ精神というというテーマは変わらないが、随分とラストには救いがある気がする。


「ももこのおもしろ健康手帳」
さくらももこ 幻冬舎

 さくらももこと、玄冬舎の山口ルミコが健康について語り合う…風に書かれているが、実際は二人の会話を元にさくらももこが書き直したもの。
 真面目な健康の本だと思って読むと後悔する。まったくのトホホ本。バカな健康マニアの見本としてのさくらももこは面白いのだけど、それを意図して書かれてはいないと思う。この本の企画意図が見えてこないが…まあ、面白いから許す(^^;)。
 
 さくらももこは健康マニアだけど、食事はちゃんとしない、多量の薬を飲んで、睡眠とらないし、運動しないで、ヘビースモーカー…、どういうこっちゃ。
 流行ものに弱い、マイナスイオンとかポリフェノールとか科学っぽい言葉に弱いし、真氣なんて超自然的なのにも弱い。まさに新興宗教に簡単にだまされるタイプ(^^;)。
 
 さくらももこ自身が装丁をやっているとはいえ、さくらももこのエッセイは出版社が集英社、玄冬舎、新潮社と違うのに大きさや厚さが同じで、並べても装丁にまるで違和感が無いのが面白い。


「ももこの話」
さくらももこ 集英社

 「あのころ」に近い、さくらももこの子供の頃の話。「あのころ」の方が、のほほんとしていて面白かったけど、これも面白かった。
 バレンタインデー、食欲の無い子供、忘れ物、紙芝居屋、きもだめし、書初めなどなど 。


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