現代書館「町工場の人間地図」「町工場の磁界」の二冊をベースにしたのが本書。
山根一眞「メタルカラーの時代」などを読んで、日本の産業技術の基幹が、町工場にある事はよく判ってきた。この本は、そんな町工場の技術にスポットを当てている。
著者自身が、旋盤工を続けながら執筆をしてきただけあって、町工場の生活や人間関係、現状についてはリアリティがあって面白い。
ジャーナリズムという点では、確かに山根一眞の方視点が面白いし、文章力もあるけど。
「大江戸えねるぎー事情」の石川英輔、「江戸の想像力」の田中優子の共著。
江戸的意識ではボランティアな行動が当たり前であり、タイトルのボランティという言葉もちょっとヘンな気がする。
江戸時代の共同生活的な住空間である長屋、寺子屋、火消し、旅などに注目し、そのボランティア精神を著者二人が各章でまとめている。全体にはまとまりが無い気がするが、まあ面白いか。
フジテレビの番組「ワーズワースの庭」をベースにまとめた既刊「ワーズワースに庭で」の続編。
まあ、蘊蓄の塊であるけど、その内容は銀座の洋食、餃子、アジアの粥、焼肉、ヤキトリ、エスプレッソなどの食い物関係が半分、その他にライカ、グルカ・バックなどなど。
んー、あんまり面白くなかった。番組の方がよかった。文章にすると、イマイチ、軽い雰囲気が強すぎる。
主人公メンリー・ニコルズは、娘を踏切事故で亡くしたPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩む児童文学作家。18世紀に建てられた船長の家、リメンバー・ハウスで療養、執筆するメンリーが、様々な奇怪な現象に直面し自分を失っていく。ヒッチコックのサイコスリラー風な筋立ては、それ程珍しくはないけど、18世紀の事件との絡ませ方などはさすがにクラークの巧さが出ている。
ただ、全体には冗長で間延びしている気がする。もうちょっと短ければもっと面白かったのに。
ジム・トンプソンを読むのは初めて。映画「ゲッタウェイ」の原作は有名であるけど、翻訳されているのはほとんど無い。「安物雑貨店(ダイムストア)のドストエフスキー」と称される、とか紹介されている。でも、この意味は確かに本書を読むと理解出来る。文章も展開もかなり粗削りな部分があるけど、本質的な部分で面白い。
主人公は丸腰の物静かな保安官のルー・フォード。ウェスト・テキサスの田舎町が舞台。町を牛耳る建設業者コンウェイを義兄の仇と復讐の機会を狙っている…。
主人公をストーリ的に外から見れば単なる異常者ではあるけど、その精神の内面に深く入って描いているのが面白い。表面的には物静かで、心の奥底では病的な暴力性を持ち、おまけに暇つぶしにラテン語や微分積分をするというかなりヘンな奴。
再読。昔読んだのを忘れて、また読んでしまった。おまけに、映画も観ているのに。
最初に読んだ時も結末は結構早いうちに判ってしまったけど、ストーリ展開もテンポよくて、それなりに面白い。
このシリーズ結構面白そうなので買ってみる。
米国文化については、情報がかなり多いので、色々と判っているつもりでも、こうまとめて読むと興味深い。
「もっぱらの関心事は金と健康」、「話を額面通りに受け取り、理解できない事は無視する」、「最良の時は高校時代であり、この段階を卒業できず、いつまでも欲望にふけり老年に突入する」、「災難にあったら忘れる事より、訴える事を考える」などなど。ポリティカル・コレクトネスについても言及。
これを読むと、ハリウッド映画の中の色々な人々の考え方が判ってくると思う。
原題のXenophobeは外国人嫌いの意であり、笑って外国人嫌いを直すために本というのが趣旨らしい。確かにこれを読めば、より身近に感じられる様になるだろう。
面白かった。
「本の窓」連載の「親子のための世界史」に、書き下ろし原稿を加え1994年に「羽仁進の世界歴史物語」で単行本化し、さらに加筆改題して文庫本化したものが本書。
基本は非常にうまくまとめられている上に、十字軍により野蛮なヨーロッパへイスラムの文化が流れ込んだなどイスラム文化についても公平に評価し、ポリネシア文明などにも言及している。勉強になる。
ところで、羽仁進には恨みは無いけど、彼の娘は何か嫌いなタイプだ。
今年「フリッカー」を読んでなければ、文句なくナンバーワン。面白かった。
リンカーン・ライム・シリーズ第一弾。首から下は左手の薬指一本しか動かせない四肢麻痺、元ニューヨーク市警の科学捜査本部長、世界最高の犯罪学者ライムが主人公。
周辺の人物もいい。とくにライムの手足となる、美女アメリア・サックスの成長物語にもなっていて、話を深くしている。
四肢麻痺というハンディキャップにより安楽死を求めながら、かつての情熱を取り戻させるというのが連続殺人鬼だというのが皮肉。しかし、動きだすとそのエネルギーに脱帽させられる。
現場に残されたわずかな遺留品、そのメッセージを科学捜査と犯罪心理学を駆使していく様のリアルさは今までに無いもの。ニューヨークが舞台であり、臨場感が素晴らしい。ニューヨークを知っていると、ずっと面白いと思う。現在のニューヨークを地理的に捕らえているだけでなく、地下までの三次元、さらに過去へ遡る時間軸まで深く入り込んでいる。ニューヨークが歴史ある土地だという事が判る。
しかし、徹底的に調査された背景がすごい。日本人の作家が忘れている事だと思う。
著者の前作「眠れぬイヴのために」「静寂の叫び」「監禁」も面白い事だろう。
次作「The Coffin Dancer」でも同じメンバーが活躍するそうで、楽しみ。もっともシリーズにはならないみたいだけど。
→ 映画「ボーン・コレクター」感想
画廊で働く主人公ジェニーは、夫と別れ二人の子供と苦しい生活をしている。新進画家のエリックと知り合い結婚、ミネソタの広い農場で暮らすことになるが…。そこからの展開が、ヒッチコックの「レベッカ」「サイコ」などに似ていて、展開はまあ判ってしまうのだけ、それなりには読ませる。
エリックの異常性格ぶりが、今となっては平凡に思えてしまうのは残念な所。
書き下ろし。
前作「クリムゾンの迷宮」はイマイチ好きになれなかったけど、この本は前半は凄くいい。人間がうまく出ていると思う。
17才の殺人者、櫛森修一。舞台は鎌倉、湘南あたり。
働く母を気づかい、妹を思い、離婚した父を憎む。家庭を守るための殺人は実にまっとうな理由で、読者に共感を感じさせる。
しかし実際の殺人がいかにも技巧的で、この辺になってしまうと納得できない面も多い。前半の殺人にしか解決を求められなかった主人公を、もっと最後までうまく動かしてくれたらと思う。ラストは嫌い。
→ 映画「青の炎」感想