2000年12月


「エクスペリメント」☆
- The Experiment - John Darnton
ジョン・ダーントン 嶋田洋一訳 ソニー・マガジンズ

 ダーントンの「ネアンデルタール」はそれほど面白いと思わなかったが、これは面白かった。
 
 米国南東部沿岸の離れ小島の施設で生きるスカイラーという男、ニューヨークで働くジュードという新聞記者、双子を研究する生物学者ティジーの絡み合う運命。謎の施設ラボの正体、スカイラーの出生の秘密、老化の謎、ラボの謎、リンコン博士の正体、<W>の目的…様々な謎が交錯し、読者の興味を引き付けラストまで一気に引っ張っていく。
 科学的な解説をうまく小説に盛り込んでいく著者の得意技が、老化、DNA、クローン、テロメアの働きなどの話題の盛り込み方に生きている。「クローン羊ドリー」の知識などが役に立ってよかった(^^)。

遺伝学電子博物館 - 国立遺伝学研究所内、判りやすい解説でこの本を読む参考にした


「Mr.クイン」
- Quinn -
シェイマス・スミス 黒原敏行訳 ハヤカワミステリ文庫

 主人公クインは麻薬王パディ・トナーの影のブレイン。不動産業者の一家を事故に見せかけ殺し、全財産を乗っ取る計画の顛末。主人公は殺人などなんとも思わない徹底的な悪ではあるが、その行動は綿密であり、考え方は理論的であり、中途半端な悪党では無い、完全犯罪を目指す悪のヒーロー。アイルランドという社会背景も上手く使っている。
 クィンに対する敵役が居ないのが不満ではあるが、ストーリ展開や、口語調の文体は見事。


「ひろさちやが聞くコーラン 世界の聖典3」
ひろさちや+黒田寿郎 すずき出版

 宗教思想家のひろさちやとイスラム学の黒田寿男の対談。イスラム文化、中東文化の基本的な所から話しているので、非常に判りやすい。イスラム文化の根底を成すコーランから、文化、社会を読み解く。
 「目には目を」に代表されるコーランの誤解を解き、砂漠や遊牧という一人では生きられない社会背景から生まれたコーランの教えを伝える。三大啓示宗教のユダヤ教、キリスト教、イスラム教の比較など新鮮だった。


「コフィン・ダンサー」☆
- The Coffin Dancer - Jeffery Deaver
ジェフリー・ディーヴァー 池田真紀子訳 文藝春秋

 「ボーン・コレクター」の続き、リンカーン・ライムのシリーズ第ニ弾。四肢麻痺の元ニューヨーク市警科学捜査部長のリンカーン・ライムが主人公、彼の右腕となるアメリア・サックスなどは同じメンバー。
 神出鬼没の殺し屋コフィン・ダンサーが狙うのは二日後に行われる大陪審での証人3人。それを阻止するライムのチーム。タイム・リミットの作り方は同じ。「ボーン・コレクター」に比べて科学捜査という面がおろそかになっていると思ってたが、やはりストーリ・テーリングは見事と関心していた…、そして最後の最後は驚きの一言。
 わき役であるパーシー・レイチェル・クレイ、ニューヨーク市警殺人課刑事ローランド・ベルなどわき役も見事。 殺し屋の綿密な動き、狙撃、飛行機など徹底的な調査による綿密な書き込みが上手い。


「魔弾」☆
- The Master Sniper - Stephen Hunter
スティーヴン・ハンター 玉木亨訳 新潮文庫

 「極大射程」「狩りのとき」のスティーヴン・ハンターの1980年の処女作。
 第二次世界大戦の末期、小説家志望のシュムエルがユダヤ人収容所で目撃した兵器「ヴァムピーア(吸血鬼)」。ヴァンピーアを手に標的に迫る狙撃の名手レップ中佐、それを追う米軍戦略事務局(OSS)のリーツ大尉。レップの追う標的は謎のままラストまで引っ張ていく力は見事。兵器へのこだわりも相変わらず。というか、その原点がここにある。


「GO」
金城一紀 講談社

 第123回直木賞受賞作。主人公の杉原は、元在日朝鮮人で現在は在日韓国人(前者は北朝鮮国籍で後者は韓国国籍)。中学まで朝鮮学校に通い、今は普通高校に通う高校生。この設定からも判る様に、自分のアイデンティティを求める欲求が物語の根底にあり、ストーリに厚みを加えている。
 庄司薫的世界のおもはがゆい恋愛感を感じるし、村上春樹的な冷めた感情もある。不思議な面白さはあるけど、ちょっと粗削り。父親の設定である、小学校卒、元日本ランカーのボクサー、パチンコ景品交換所を営み、たまにはニーチェを暗唱するなんて人間はかなり面白いのだけど、全体の流れの中では浮いてしまっている気がする。

映画「GO」感想


「謀略の機影」
- Hard Fall - Ridley Pearson
リドリー・ピアスン 中山義之訳 新潮文庫

 国際線旅客機の墜落を企むテロリストのアンソニー・コルト、それを阻止しようとするキャメロン・ダギット。コルトの巧みな行動、それを追跡するダギッドの活躍。冒頭から凄いスピードで展開する。コルトの隠された企みは結構簡単に予測出来るけど、それでも面白い。
 航空機メーカーのシミュレーション室、墜落現場の悲惨さなどのしっかりした描写が物語を深みを増している。ダギッドの愛人、不動産会社社長のキャロライン、テロリスト仲間モニク、連邦航空局(FAA)爆薬専門家リン、ダギッドの息子で車椅子に乗るダンカンなど、それぞれに個性的、印象的なわき役もいい。


「バリ島」
長渕康之 講談社現代新書

 バリ島へ旅行へ旅行に行った直後に読む。全体は次の三章から成る。
 
 第一章「植民地としてのバリ-バリ文化とオランダの統治」
 第ニ章「パリに来たバリ-1931年国際植民地展覧会とオランダ館」
 第三章「ニューヨークのなかのバリ-ミゲル・コバルベアスと「バリ島」」
 
 オランダによる植民地政策により、バリの文化がいかにヨーロッパの文化と出会ったか、そしてヨーロッパにどう紹介されたかが判る。植民地政策と王族たちの関係や、オランダ人が積極的にバリ独自の文化を保存したがったなど、意外な面が面白かった。


「バリ島バリバリ 女たちのムフフ楽園旅行記」
KumaKuma&よねやまようこ  知恵の森文庫

 豪華絢爛な葬式を見たい、という好奇心から始まったバリ島への旅行。内容は雑多で、屋台料理、レストラン、ホテル、フルーツ、買い物などなど、そして本題の葬式。情報的なお役立ちよりは、トホホな体験記として面白い。
 KumaKuma&よねやまようこ、この二人のユニット(?)Koson-kosonホームページは、ボツネタが読めて面白い。

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