具体と抽象

我々の生きている世界は複雑で混沌としています。我々がその混沌について何かを知ったとき、知った情報というのは元の混沌そのものではなく、多くの情報が抜け落ちてしまっています。我々は混沌の中から限られた情報を抽象することによって世界を単純化してとらえているわけです。混沌を抽象化することで言語を用いた意識思考が可能になるのだと考えられます。

リンゴAとリンゴBがある時、具体的には細かい点で色々と違いがあるはずですが、AとBの共通点だけを見て抽象的に考えると「同じ」リンゴであるということになります。抽象化によって普遍性が生じるわけです。細かい具体的情報を見逃すことによって、「これはリンゴである」とか「リンゴは赤い」と考えたり1つ2つと数えたりする抽象的思考が可能になります。つまり、抽象的思考というのはものごとの共通点だけを対象として相違点という具体性は無視するものです。

社会性というのは社会的制度に従って抽象的な人間として行動することだと考えられるのに対して、個人性というのは具体性であり他人との相違点のことであると言えます。抽象的な人間は何かの役割を果たす人間で、他人にとって必然的な行動をとるので秩序の維持に貢献します。一方、具体的な人間は自発的であり他人にとっては無秩序として存在しますが、創造的でもあります。

大きな社会の維持のためには抽象的社会制度を必要としますが、現実の世界は混沌であり具体的です。我々の文明が自然環境に対して大きくなり過ぎたことで、我々の社会が直面する問題も具体的で複雑になってきていると思われます。そういった問題を解決するには抽象的思考や制度だけでは不十分であり、具体的な個人の創造性が必要だと考えられます。