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がんを明るく生きる-前立腺癌の末期から生還した伊藤勇のサイトのホーム

末期癌より生還した伊藤勇への相談の手紙とその返信

その28
治療法がないのに告知するのはどうなのかと、悩んでいます

Mさんより
61才になる私の父が1月半前、突然末期がんとの診断を受けました。余命宣告は3ヶ月とのことです。
余りに突然の宣告に、母も私も驚き、戸惑いました。膵臓がんが原発、肝臓、リンパにも転移が見られるとのことで、医師からは開腹手術はおろか抗ガン剤治療すら出来る状態ではないと言われています。また、「この状態ではとても告知は出来ません」とも言われました。余りのショックで、何だか毎日がぼんやりとしています。夢の中にいるような、おかしな気持ちです。

父には告知はしていません。しかし私自身は、告知することによって病と向き合うことが出来るのであれば、それこそが自分の身体を健康に持っていく原動力になるのではないかとも思います。
しかしもし、父の気持ちがマイナスの方向に向かってしまったら…挫けてしまったら…と思うと、不安で溜まらないのです。母もそのことが不安なようです。何度も話しあいましたが、未だに揺れています。治療法があればまだ共に立ち向かう覚悟で告知もできるけれど、治療法がないといわれているのに告知するのはどうなのかと…。

父の身体、人生は父自身のものなのに、ここにきて父を騙すようなことはしたくないのに、告知するには時間が余りに過ぎてしまったようで、母と共にずっと悩んでいます。

父はまず腹水の治療、つづいて閉塞性黄疸による倦怠感を取り除く(父には黄疸の治療ということになっています)治療を行っているところだと医師から伝えられています。
自分が思っていたよりも病状が重いこと、突然休まなければならなくなってしまった仕事(自営業です)のことが頭を占めているようで、口少なになりましたが、「一日も早く治るから」と必ず言ってくれます。本人は病と闘うと、前向きに過ごしているようなのです。

本当のことを知っている身としては、そんな父の姿に何と声をかければよいのか分からず、「待ってるよ」としか言えません。入院した途端に食欲が落ち、急激に痩せてきた父を見ると、毎日涙が出ます。

私に出来ることは、毎日父に顔を見せることくらいです。その日会ったこと、これからやってみたいこと、美味しかった食べ物の話、行ってみたいところ、話題といえばそんなことくらいで…こんな事ばかりを話しても良いものなのでしょうか?他に出来ることがないのがもどかしく、辛いです。

ガンに対して何の知識も無かった私は、色々な本やHPを探しました。そして伊藤さんのHPに出会うことが出来ました。一つ一つ読ませていただいて、不思議と力が出ました。がんという身でなくても、今生きている、命があるということがどういうことなのか、とても考えさせられました。挫けそうなとき、いつもお伺いしています。

父にはさりげなく、「自己免疫力を高めるといいんだよ。楽しいことを考えたり、いっぱい笑ったりしてればいいんだって」と声をかけています。しかしそれもやはり、真実を知った上でこそ高まるものなのでしょうか。

初めてのメールで長々と申し訳ありませんでした。けれど、誰にも話せない心の内が、今話せたような気がします。
伊藤さんのような人生を、父にも歩んで貰いたいと願わずにいられません。そして伊藤さんも、これからも素敵なキラキラした『オマケの人生』を歩んで下さいね。 ありがとうございました。

その28
伊藤勇 より

Mさんへ
私のHPを読んで頂きありがとうございます。
さて、突然お父さんに末期ガンの宣告とは、さぞ驚かれた事でしょう。心からお見舞いを申し上げます。
ご本人にはまだ知らせていないとの事ですが、お父さんは自営業なんですね、私も自営でしたので、その辺から私なりの考えを述べてみたいと思います。

お父さんがあなたに「一日も早く治るから」と言われるお気持ちは、突然今の仕事をストップする事は、大変な事で、まず頭に浮かぶのは取引先の事や銀行の事、まだ家族には云っていない問題など色々あると思います。

今まで、あなたが多少お父さんの仕事を手伝っていたり、これから引き継いで行かれる段階だったか、または全然違うお仕事なのかはっきり見えないので解りませんが、多分ご自分で早く治って何とかしたい思いで一杯なんでしょうね。胸が詰まります。

現実は、手術も出来ない状態、抗がん剤治療も出来ない厳しい病状です。医者は、その都度の患者の状態で、腹水を抜いたり、閉塞性黄疸の治療での対症療法をやって見えるようで、リンパ節への転移などを考えると、やはり余命の告知は受け入れざるを得ないように私は思います。

そう考えると、時間がありません。お父さんの気持ちを、ああでもないこうでもないと色々考えすぎて引き伸ばして居る訳には行かないでしょう。現実を受け止めて、先生の言われた事「そのまま」を伝えたら良いと思います。

お父さんと真剣に向き合って、これから先の事、解決しておかなければいけない事など聞いて、お父さんの代わりに処理する事が、親孝行ではないかと私は思います。口で「笑って楽しく」なんて云ったって諸問題が片付かなければお父さんの肩の荷は下りません。

今、お父さんの頭の中は、「仕事の事をどうしよう」とその事で一杯ですから当然、口数も少なくなるのでしょう。私も同じ立場でしたからとても良く理解出来ます。

あなたが一緒になってお父さんが今やらなければいけない事をやろうとするならば、お父さんに真実を伝え真剣な話し合いをする時期が来ていると思います。

まだ61歳という若いお父さんですが、歳ではなく何時か誰でもその時は100%やって来ます。双方が思い残す事なきよう、理性を持ってお父さんが長年築き上げた仕事の幕引きをお手伝いしてやる事こそ、あなたの役割だと思います。

お母さんと一緒に悩んでばかりでは、お母さんも倒れてしまい兼ねないでしょう。しっかりとお母さんを支えて行って下さいね。

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