The Caretakers ★☆☆

1963 US
監督:ホール・バートレット
出演:ロバート・スタック、ポリー・バーゲン、ジョーン・クロフォード、ジャニス・ペイジ

左:ロバート・スタック、右:ポリー・バーゲン

ホール・バートレットは、カモメしか登場しないあのケッタイな話題作「カモメのジョナサン」(1973)の監督であり、もともとはドキュメンタリー映画で名を挙げた人です。因みに、ロンダ・フレミングの旦那であった時期もあるようです。ここに取り上げる「The Caretakers」は、舞台が精神病院の女子棟に置かれており、勿論ドキュメンタリー映画ではありません。とはいえ、精神病を題材にした他の映画、たとえばオリビア・デ・ハビランド主演の「蛇の穴」(1948)、ジョアン・ウッドワード主演の「イブの三つの顔」(1957)、キャサリン・ヘプバーン及びエリザベス・テーラー主演の「去年の夏突然に」(1959)などの有名どころの作品と比べると遥かにドキュメンタリータッチが強調されており、リアリスティックな趣きがあります。勿論、リアリスティックであるとは、精神病がリアリスティックに描かれているということではなく(映画である以上それは極めて困難です)、特定の演技者が殊更目立つようにわざわざ配慮されているようには見えないので、舞台劇を見ているような作り物の印象をそれほど受けないことを意味するにすぎません。これに対し、先に挙げた3作品では、精神病患者を演じた主演女優が最低でもオスカーにノミネートされており、特定の演技者を際立たせる意図が明らかに見て取れます。いずれにしても興味深い点は、これらの精神病を題材とした作品のいずれにおいても、女性が精神病患者を演じていることです(「The Caretakers」ではポリー・バーゲンが精神病患者を演じています)。フェミニズムなどという用語すらなかった当時は、基本的に父権的な男社会であったのであり、そのような男社会に適合し損なった女性が精神病患者になるとでも考えられていたのかもしれません。それは言い過ぎとしても、いずれの作品においても女性が精神病患者を演じている事実は単なる偶然ではないはずです。裏を返すと、当時の一般的な考え方の枠組みの中では、男性を精神病患者として描くことはある意味でタブーであったのかもしれません。また、作品の焦点の1つとして、グループセラピーを実践しようとする男性精神科医(ロバート・スタック)と、拘束衣(straight-jaxket)で患者を縛ることが最善であると考える女性精神科医(ジョーン・クロフォード:興味深いことに彼女の次の出演作のタイトルは「Straight-Jacket」です)の間に繰り広げられる施設内での権力争いが挙げられます。「精神病院の中で権力争い?」と思われるかもしれませんが、実は精神病院のような施設だからこそ権力争いが発生するのです。わざわざミシェル・フーコーを持ち出すまでもなく、何が正常であると見なされるべきかという問いの根底には、権力の問題が潜んでいるのは明らかであり、正常/異常の区分が厳然となされる必要のある精神病院のような施設であるからこそ、ヘゲモニーの問題があからさまに露出するわけです。ところで、「The Caretakers」は、舞台が精神病院の女子棟に置かれているだけあって、女優さん達が多数出演しています。60年代に入ると奇怪な役ばかりを演じるようになったジョーン・クロフォードは別格としても、ポリー・バーゲン、ジャニス・ペイジ、ダイアン・マクベインスーザン・オリバーと次々に登場します。殊にポリー・バーゲン演ずる精神病患者が映画館で発狂する冒頭のシーンは圧巻であり、個人的に見た範囲では映画史上最もリアリスティックな狂気であるように見えます。但しジャニス・ペイジに関しては、あれではどう見ても精神病患者ではなく、ただのいい年をしたスケ番姉御にしか見えません。エルマー・バーンスタインの音楽が極めて印象的であることを最後に付け加えておきましょう。


2002/02/02 by 雷小僧
(2009/02/26 revised by Hiroshi Iruma)
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