けっさくなエディ ★★☆
(The Courtship of Eddie's Father)

1963 US
監督:ビンセント・ミネリ
出演:グレン・フォード、シャーリー・ジョーンズ、ロニー・ハワード、ディーナ・メリル
左:シャーリー・ジョーンズ、中:ロニー・ハワード、右:グレン・フォード

スリルのすべて」(1963)のレビューの中で、ドリス・デイは、従来的な映画スターのイメージとは異なる馴染み易さを全身に滲ませた新しいタイプのスターのパイオニア的存在であったと述べました。それでは男優版のドリス・デイは誰になるかと考えてみると、「スリルのすべて」でドリス・デイと共演したジェームズ・ガーナーなどとともに、グレン・フォードあたりが挙げられるように思われます。グレン・フォードは、ドリス・デイ同様40年代後半から活躍し始めた(実際は30年代末から出演作があります)俳優さんですが、初期のグレン・フォードの出演作を見ていると妙に彼のみ浮いて見えることがあります。すなわち、40年代後半から50年代前半にかけての映画が持つフォーマルなイメージと、グレン・フォードが持つインフォーマルな態度や外見がマッチしているようには見えなかったということです。彼の初期の代表作である「ギルダ」(1946)は手元にないので同様にリタ・ヘイワースと共演した「醜聞殺人事件」(1952)を見直してみると、やはりそのような印象が濃厚にあります。ところが、50年代後半から60年代に入ると、時代の方がむしろ彼の持つイメージに近付きます。1963年に公開された「けっさくなエディ」は、そのようなグレン・フォードの特質がうまく活かされている作品なのです。では、どのような点にそれが現れているでしょうか。「けっさくなエディ」では、彼は奥さんを亡くし子供一人とやもめ暮らしを送るいわばシングルファーザーを演じています。そもそも、50年代以前であれば、主人公がシングルファーザーであるという設定はまず考えられなかったのではないでしょうか。あったとしても、「けっさくなエディ」のように、主人公がシングルファーザーであることがストーリーの重要な前提になることはなかったはずです。フィルムノワールの主人公が、「クレイマー、クレイマー」(1979)のダスティン・ホフマンよろしく子育てに苦労するシングルファーザーであるはずがないことは自明でしょう。70年代も末になって公開された「クレイマー、クレイマー」とは異なり、確かに60年代前半に公開された「けっさくなエディ」には、核家族を社会問題としてマジで取り上げる意図はさらさらないとはいえ、シングルファーザーというシチェーション自体は70年代後半以後公開された作品に見出されるものと大差はないのです。そして、そのような新しい役に、グレン・フォードはピタリとマッチするのです。たとえば、60年代になってもいまだ老体に鞭打って活躍していた従来型の俳優さんの中で、グレン・フォードとイメージ的に近い俳優さんとして、洗練されたユーモアセンスを持つケーリー・グラントが挙げられますが、ケーリー・グラントのシングルファーザーなど、まず考えられないでしょう。まさしく、それが似合ってしまうところがグレン・フォードの持つ新しさであり、そのような彼の特質が最も活かされた1960年代前半の作品として、デルバート・マンの「Dear Heart」(1964)と共に、ここに取り上げる「けっさくなエディ」が挙げられるのです。「けっさくなエディ」では、グレン・フォード演ずるやもめの主人公の求愛(原題中に含まれるcourtshipとは求愛のことです)の対象として、二人の女性が登場します。一人はシャーリー・ジョーンズであり、もう一人はディーナ・メリルです。もう一人ステラ・スティーブンスも登場しますが、彼女はすぐに主人公の同僚(ジェリー・バン・ダイク=ディック・バン・ダイクの弟)のガールフレンドになってしまいます。興味深いのは、シャーリー・ジョーンズとディーナ・メリルのイメージとしての新旧の対照です。娼婦役を演じてアカデミー助演女優賞に輝いた「エルマー・ガントリー」(1960)を除けば、シャーリー・ジョーンズには、デビュー作のミュージカル「オクラホマ!」(1955)以来、常にアメリカの健康美人とでも称すべき役どころを演じていた印象があり、主人公父子のお隣りさんを演じている「けっさくなエディ」でも、いかにも「お隣のおねーさん」的な親しみやすいイメージを振りまいています。つまり、シャーリー・ジョーンズは、イメージ的にはドリス・デイに近い新しさを持っていたということです。一方のディーナ・メリルには、実際に属する世代は別として、どちらかというと人を寄せ付けないクラシック美女タイプのイメージを持っています。このような好対照を成す二人の内、主人公は最後まで後者(ディーナ・メリル)に求婚しようとしますが、実際に後者と結婚したりはしないであろうことは最初から最後まで予想できます。なぜならば、グレン・フォードとシャーリー・ジョーンズのコンビが、イメージ的にあまりにもマッチし過ぎているからです。一方のグレン・フォードとディーナ・メリルのコンビがアンマッチであるのは、グレン・フォードが50年代以前の映画においてアンマッチであるのと同じ理由からです。つまり、スタイルが全く違うということです。似た者同士でない方が実際はうまくいくのではないかと思われるかもしれませんが、ここで言いたいことは、性格の問題についてではなく、映画の中で表象される二人のイメージがまるで異なっているということです。最後の最後で、グレン・フォード演ずる主人公がシャーリー・ジョーンズ演ずるお隣りさんと仲直りするのは、見ているオーディエンスとしても落ち着くところに落ち着いた安堵感を覚えるはずです。ここで重要な点は、特にロニー・ハワード演ずる息子にとっては親近感が全く感じられないディーナ・メリル演ずるクラシック美女ではなく、まさしくお隣に住む「お隣のおねーさん」が選ばれたという事実です。「けっさくなエディ」が50年代以前に製作されていたならば、このような結果にはならなかったかもしれません。ということで、グレン・フォード演ずる主人公の息子エディを演じているロニー・ハワードは、後に「アポロ13」(1995)や個人的に大好きな「ザ・ペーパー」(1994)を監督するロン・ハワードのことであり、60年代前半当時は子役であったことを最後に付け加えておきます。


2004/01/10 by 雷小僧
(2008/10/21 revised by Hiroshi Iruma)
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