ザ・ペーパー ★★★
(The Paper)

1994 US
監督:ロン・ハワード
出演:マイケル・キートン、グレン・クロース、ロバート・デュバル、マリッサ・トメイ


<一口プロット解説>
現代の新聞社におけるある一日を描く。
<雷小僧のコメント>
この映画を最初に見たのは、カナダへスキーをしに行った時の飛行機の中でです。しかも、それは生まれて初めての海外旅行であったということもあり、この映画はそういう意味でも私目にとって忘れ難い映画だと言えます。けれどもそれは別としても、この映画は最近の映画(と言っても1994年制作ですが、1960年代や70年代の映画を見る割合の多い私目にとっては最近であることには違いがありません)の中では屈指の映画であると考えています。というのは、この映画は現代の慌ただしさというものが、新聞記者というこれまた最も慌ただしそうな職業を通じてうまく描かれているように思われるからです。ソフトウエア業界で働いている私目は、デッドラインに追われることが多いわけですが、新聞というのは毎日発行されるわけでありいわば毎日がデッドラインの連続であるわけです。しかも、朝刊もあれば夕刊もあるというように超が128個程つくぐらい忙しいことが予想されます。この映画は、言ってみればある新聞社のある一日を描いているだけなのですが、現代の喧騒というものを捉えるにはもって来いのシチュエーションを扱っていると言うことが出来ます。
そう言った忙しさは、この映画の中ではたとえばマイケル・キートンが電話を同時に何回線もスイッチしながらかけている有り様や、互いに叫びあい時には罵り合っての会議(皆さんも身に覚えがあるでしょう?)等を見ても一目瞭然なのですが、壁に掛かっている時計が映し出される度にひたひたとデッドラインが近付いていることがいやでも思い起こされるのは、いかに現代人が時間の奴隷と化しているかが見事に表現されていると言っても過言ではないのではないでしょうか。又、チーフのロバート・デュバルが部下にデッドラインを守らせる為にわざわざ分厚い辞書を持ち出して「Deadline」という単語の意味を調べて大声で読み上げるというようなシーンまであります。
それでも人間には可塑性があるのでこういう環境にでも慣れててしまうのですね。しかしそれによって何が失われたかを理解するのは非常に難しいと言えましょう。時間というのは本来人間に内在するものであるということは、たとえばハイデッガーやベルグソンらのお偉方の言を待たないでも明らかなのですが、空間表象化され外在化された時間が逆に人間を支配しているという様相が現代では当たり前になってしまっており、ほとんどの人はそれを疑ってすらいないということが問題の根の深さを示しているのではないでしょうか。この映画の中で、マイケル・キートンがレストランで家族と共に食事をしようとした途端平衡感覚を失ってしまうシーンがありますが、これは如何に彼が外在化された時間に支配されているかを示していると言ってもよいのではないでしょうか。すなわち、彼の存在自体が高速で回転する独楽と化しており、その回転が止まるや否や彼の存在自体が危殆に瀕してしまうということです。また、最後のシーンで彼の奥さん役のマリッサ・トメイが子供を産んだ後、かつての仕事場(彼女もどうやら昔その新聞社で働いていたようです。職場結婚でしょうかね)での喧騒が遠い昔のように思われるとか何とか言うのですが、これは自分の子供という新たな対象が出来たので彼女の時間モードが変化したことを表しているように思います。
さてこの映画(というか多くのアメリカ映画も対象となるのですが)に関して、1つだけ私目の気にいらない点があります。それは、ある新聞記者(ランディ・クエイド)が自分が槍玉に挙げた人物に追われてバーで喧嘩になるのですが、その時たまたまクエイドが持っていた拳銃がすべり落ち、それをその人物が拾って発射したところ、これまたたまたまそのバーにクエイドと来ていたグレン・クロース(何せ今まで一度も誰にも一杯飲みに誘われたことがなかった彼女なのでこのたまたま度はかなり大きいはずです)の脚にあたってしまうのですが、こういうシーンが何故必要なのかちょっと理解に苦しむということです。どうもあちらの映画を見ていると、そんなもの必要もなさそうなドラマ映画に迄銃刀類が必ずといってよい程登場するのは、社会が日本とは違うからでしょうか。私には、焦点が逸れてしまうので銃刀類は持ち出さない方がいいように思うのですがどうでしょう(余計なお世話かな?)。いずれにしても、この映画は1990年代の映画で私の今まで見た映画の中では、最もよいものの1つであると私目は勝手に思っていますので、是非一度ご覧下さい。

1999/04/10 by 雷小僧
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